傷跡(6) 羞恥(中学2年生3月)
肛門診・直腸診、病院での浣腸の描写があります。
翌朝。
高熱を出した優香は、真斗に付き添われて友井クリニックを受診した。
まるで、お尻にも心臓があるように肛門がドクドクと脈打ち、歩くたびに鋭い痛みが走る。
なんとかたどり着いた待合室でも、お尻の腫れと痛みのせいで、ソファに座ることも出来ず、真斗に両脇を支えてもらいながら、壁際で立って待たなくてはならないほどだった。
ようやく診察の順番になり、熱と痛みで衰弱した優香を、抱きかかえるようにして診察室に入った真斗は、友井医師に優香の症状を説明した。
「昨晩、お腹が張っていると言うので、浣腸したんですが、肛門がひどく腫れ上がって、周囲も随分爛れてしまっていて…。
痛そうで、ノズルの先端しか肛門に入れられなかったのと、肛門の痛みのせいで、ほとんど我慢できずに浣腸液だけ出してしまって、うまく排便できなかったようです。
そのせいか、朝からは熱も出て、さっき測ったら39度8分の高熱で…」
「お尻を診るので、奥の診察台に寝かせてください」
優香は真斗に抱きかかえられて診察台に寝かされ、看護師さんの手を借りて、横向きでお尻を突き出す直腸診の姿勢を取らされた。
看護師さんが、手早く優香の下着とズボンを膝まで下ろしてお尻を出し、その上にそっとタオルをかける。
タオルを半分めくり上げ、露出させた優香のお尻を割り開いて、肛門の状態を一目見ると友井医師は言った。
「痔が、随分悪化してしまっているね…。
これは、辛かったでしょう。お尻に注入する軟膏はちゃんと使えてますか?」
「…お風呂の後は、毎日使っていたんですけど……お通じが、なくて…」
「毎晩の緩下剤と、食間の便秘薬は飲んでる?」
「水曜日の夜と、木曜日の朝に飲んだら……トイレに間に合わないくらい……ゆるくなってしまって、失敗して…。
それで、夜だけにしたら、出なくて…」
優香は、熱で赤らんだ顔を、羞恥で耳まで赤く染めながら、目に涙を浮かべ、消え入りそうな声で説明した。
真斗は、その時初めて、優香がすでに痔と診断されて、下剤と軟膏を処方されていたことを知った。
「お尻が少し冷たくなりますよ」
看護師さんの手で、突き出したお尻を容赦なく割り開かれ、消毒のためにアルコールを含ませた脱脂綿を肛門にあてられると、優香は痙攣するように、ビクンと身体を大きく反らせて、
「…ヒッ!」
と声にならないような悲鳴をあげた。
「滲みて、つらいと思うけど、少しの間、動かずに頑張って」
友井医師が声をかけながら、ゴム手袋をつけた指先で、優香の肛門に麻酔のゼリーを塗っていく。
優香は染みるのか、痛みに顔を歪めながら、
「…うっ……うぅー……うっ…!」
と、返事の代わりに、何度も悲痛なうめき声を漏らした。
左側臥位で肛門内の触診を受けた後、
「奥の方を診るので、一度腹ばいになって。
両手の指を組んで、手のひらをぐっと台につけて、頭はその上に。
脚を肩幅に開いて、膝を立てて。
そのままお尻を持ち上げて、ぐっと高く上げて。もっとぐっと高く」
友井医師の指示で、優香は看護師さんに手伝ってもらいながら、肘から下と頭を診察台につけて、脚を開き、お尻を高く突きあげる姿勢を取らされた。
「おズボンとショーツは脱いでおきましょうね」
看護師さんが言って、膝の辺りに下されていたズボンとショーツが足首から抜き取られ、下半身はソックスだけの姿になる。
熱で朦朧とした優香の意識でも、自分が四つん這いよりも、もっとずっと恥ずかしい格好になっていることは、はっきりとわかった。
「口をもっと大きく開けて、ゆっくり息を吐いて」
「……はー…はー…はー…」
大きく開けた口から吐く息は、恥ずかしさと痛みで、喘ぐように途切れ途切れになる。
必死で息を吐くのに合わせて、天井に向けた肛門に肛門鏡が突き立てられ、深々と挿入されると、
「アァーー!! うっ……うーー……」
優香の吐息は、悲愴な叫び声に変わった。
「お尻の力を抜いて。つらいけど、少しの間、我慢して。
口からハアハアと息をして」
真斗は、診察台に手をついて突っ伏し、剥き出しのお尻を高く突き上げた恥ずかしい姿勢で診察に耐える、優香の白く華奢な身体を、なすすべもなく見守っていた。
肩で切りそろえた髪が揺れる度に覗く優香の顔は、強い痛みと、経験したことのないほどの羞恥のせいで、見ているのが辛くなるほど、苦悶に歪んでいる。
思春期の少女らしい強い羞恥心で、痔の診断を受けたことや、薬のことを言い出せなかったのだろう。
ただでさえ、便秘や下痢など身体の不調や治療に、強い羞恥心を持っている優香が、痔になってしまったことやその診断と治療を、どれほど恥ずかしいと思ったか…。
皮肉にも、そのせいで、これほど恥ずかしい診察を受けることになるなんて。
元々身体が弱く、運動会や合宿、コンクールなど、少し無理をすると、すぐに熱を出したり、お腹の調子を崩してしまう。特に胃腸の症状が重いせいで、頻繁に羞恥を伴う直腸診や浣腸の処置が必要になる優香が、不憫だった。
今回は、その上、いつも以上に恥ずかしい体勢で、苦痛の伴う肛門の診察を受けなくてはいけない…。
「はい、息んで」
友井医師がそう声をかけて、ようやく優香のお尻から肛門鏡が抜かれた。
看護師さんがガーゼで肛門を拭って、痛みとショックで強張ったままの優香の身体を支え、左側臥位に戻して、むき出しのお尻を、タオルで覆ってくれた。
「奥の方まで腫れてしまっています。
熱が出ているのも、便秘と痔の悪化のせいですね。
まず、浣腸で溜まっている便を出しましょう」
肛門診のショックから冷めず、呆然とした表情でぐったりと横たわる優香に、追い討ちのように浣腸の宣告が下された。
看護師さんが手際よくワゴンにグリセリン浣腸の準備を整えると、タオルがめくり上げられ、優香のお尻が再び剥き出しにされた。
「浣腸するので、お尻をぐっと突き出してくださいね」
優香の足首を持って膝を曲げさせ、お尻を突き出させて浣腸しやすいポーズに整えていく看護師さんの手際に、優香はぐったりと、されるがままになっていた。
「今から浣腸します。
少し冷たくなりますよ」
突き出したお尻が看護師さんの手で開かれ、再び肛門にゼリーが塗られると、優香はまた、ビクンと痙攣するように背中を反らせた。
「危ないので、動かないで下さいね。
お尻から浣腸器のノズルが入りますからね」
肛門にノズルの先端を押し当てられ、目を閉じて痛みと恥ずかしさに必死で耐えている優香に、
「お尻に力を入れずに、お口で息をして下さいね。
力を抜いて、はーー」
「…はーー」
看護師さんが声をかけ、表情を見ながら、呼吸に合わせてノズルを深く挿入していく。
「はい。ノズルが入ったので、これから浣腸のお薬が入りますよ。
お腹を楽にして、ゆっくりお口で息をしていて下さいね」
グリセリンを注入されるにつれ、優香の呼吸が苦しげになっていく。
「…う……んー…はぁはぁはぁ…」
「お腹を楽にしてー。
もう少しですよ…はい、浣腸液が全部入りました。ノズルを抜きますね」
グリセリンの注入が終わり、優香のお尻に深々と挿し入れていたノズルを抜くと、看護師さんは素早く優香の肛門を脱脂綿でそっと押さえた。
「はい、浣腸は終わりです。お尻を拭きますね」
看護師さんに肛門を拭われると、優香は染みるのか、あるいは恥ずかしさのせいか、無言のまま切なげな表情を浮かべた。
「後はもう少し我慢。少しの間、お尻を押えますね。
このまま、浣腸のお薬がお腹の中で効いてくるまで、もうしばらく我慢しましょうね」
脱脂綿を押しあてて肛門を塞がれ、痛みと便意をこらえる優香の表情は、一層切なく、苦しげなものになっていく。
白く血の気の引いた顔には脂汗が浮かび、下腹からはギュルギュルギュルっ、と激しい蠕動の音が鳴り響いた。
「…うぅ……んー……痛い…」
「お腹痛い? もう出ちゃいそう?」
看護師さんの問いかけに、優香は苦しげに頷いた。
「お腹も……お尻も痛いです…」
「そろそろお手洗いに行きましょうか。
ゆっくり仰向けになって。はい、じゃあゆっくり起きあがりますよ」
看護師さんにお尻を押さえてもらいながら、仰向けになり、起き上がった優香は、看護師さんに付き添われながら、肛門から直腸にかけての突き上げるような痛みをこらえ、下半身にタオルを巻き付けて覆った姿で、よろよろとトイレへと向かった。