手紙(3) 配慮(中学2年生10月)
浣腸、排泄の描写があります。
「こんばんは。今週は、調子はどうですか?」
「運動会の後、熱が出たんですけど…」
優香は自宅で解熱の浣腸をしたことを説明しようとしたが、「浣腸」という言葉を口にするのをためらって、
「あ、これ兄が…」
と、真斗に書いてもらった手紙を差し出した。
友井医師は手紙に目を通すと、
「熱は、今はもう大丈夫?」
「はい」
「今週は、お通じは?」
「2回、ありました…」
「熱を出して浣腸をした翌日以降も、お通じがあった?」
優香は頭を振った。
「熱を出すと身体の水分が失われて、便秘がひどくなることがあるから、水分をしっかり摂るようにね。では診察するので奥へ」
いつものように診察台に横になり、仰向けの体勢でお腹を出して聴診を、その後は体勢を変えて左側臥位でお尻を出し、直腸診を受ける。
直腸診で、お尻に指を入れられた状態で、
「やっぱり水分がなくなって、乾燥してカチカチになった便が詰まっているね」と便の状態を指摘され、優香は恥ずかしさに真っ赤になった。
直腸診の後は、そのままの体勢で浣腸の処置となる。
「ちょっと冷たくなるよ」
と声をかけられ、肛門に潤滑剤が塗られて、チューブが挿入される。
「液を注入するので、口を開けて口呼吸で息を吐いてー」
優香が息を吐くのに合わせて、生暖かいグリセリン浣腸液が、ゆっくりとお尻から注入され、直腸を満たしていく。
「はい…、薬が入ったよ。ではチューブ抜くので、お尻を閉めて」
チューブが外された肛門を拭われ、トイレットペーパーを当てられる。
そのあとは、いつものように自分でペーパーの上からお尻を押さえながら、下ろしていた下着と服を直し、腰とお腹のあたりにタオルをかけてもらって、我慢の時間となる。
5分の我慢の後で、ようやくトイレに行くことを許された優香は、お腹とお尻の痛みに耐えながら、いつもよりも硬く、粘土のような固形の便が多く混じる排泄をした。
排泄を終えて診察室に戻ると、デスクに向かった友井医師から、
「張っていたから、スッキリしたでしょう」
と声をかけられた。優香が恥ずかしげに「はい」と答えると、
「涼しくなって水分を摂る量が減ると、便秘が悪化することがあるから気をつけて。冷たい飲み物は身体を冷やして下痢になってしまうと良くないので、常温か温かい飲み物でね」
「はい」
「それから、お兄さんからの手紙の件、グリセリン浣腸を1週間分処方するので、熱が出たり、便通が少ないようなら使ってください」
「はい…」優香は恥ずかしそうに目を伏せた。
「そういえば、以前向かいの薬局で嫌な目にあったんだって?」
優香が驚いて顔をあげると、
「そういう話をお兄さんから聞いたから。プライバシーに配慮してもらえるように薬局にお願いしておいたから、もう大丈夫だと思うよ」
「ありがとうございます」
優香は友井医師の配慮に感謝して、お礼を言って処方箋を受け取り、クリニックを後にした。
そのまま、恐る恐る向かいの薬局に入ると、レイアウトが変わっているのがわかった。
受付前にあった大きなソファが撤去され、パーテイションで仕切られた、半個室のようなスペースが並んでいる。
受付の女性に処方箋を手渡すと、
「お預かりします。3番のお席でお待ちください」
優香に番号札を渡して、3番の半個室を指差した。
半個室の中には、小さなテーブルと椅子が用意されている。優香が椅子に腰掛けて待っていると、前回の中年女性とは違う、若い男性の薬剤師さんが近づいてきて、声を掛けた。
「佐伯さん、今日はこちらの処方ですね」
「グリセリン浣腸 7回分」と書かれた紙を見せながら優香に聞いた。
「はい」と優香が頷くと、
「では準備してきますので、その間にこちらの質問紙に回答してください」
と言って、バインダーに挟んだ用紙とボールペンを差し出した。
用紙を見ると、今回処方された薬は初めて使用するものか、詳しい使い方の説明を希望するか、薬についての質問があるか、症状についての相談があるか、などの質問が並んでいた。
優香は全て「いいえ」に丸をつけた。
薬を用意し終えた薬剤師さんが、優香の元に戻ってきた。
優香の回答を確認すると、
「お薬についての説明や相談は、今日は不要ですね?」
「はい」
「ではこちらがお薬になります」
外から見えないように二重にした袋を少し広げて、中の薬に間違いがないことを見せてくれた。
優香はお礼を言って、ずっしりと重たい薬の袋を受け取り、支払いをすませて立ち上がった。
「もし使ってみてから相談したいことや、質問が出てきたら、いつでもお越しくださいね。奥の個室でのご説明も可能ですので」
薬剤師さんはそう言って、優香を見送った。
前回大声で連呼された「浣腸」という言葉を一度も聞かず、自分も言わずに済んだことに優香はホッとして薬局を後にした。