その後(中学2年生5月)
下痢、排泄のシーンがあります。
ボチャンボチャンと、便塊が土砂降りのように激しく水面を打つ排泄音の合間に、
「うぅー……はぁはぁはぁ……うー…ん……」
優香の苦しげなうめき声が廊下まで響いた。
1週間溜め込んで、直腸から肛門までをみっちりと満たしていた便塊が、浣腸の作用で崩壊し、濁流のように肛門に押し寄せては溢れ出た。何度も止まっては、また押し寄せる、泥のような便が止まるまでに10分ほど、その後、立ち上がれる程度にお腹の痛みが落ち着くまでに、さらに10分以上の時間がかかった。
優香が長い時間、激しい排泄と腹痛に苦しめられていたことが、ある意味では幸いし、ようやく立ち上がれるようになった優香がトイレから出ると、廊下は真斗の手できれいに片付けて消臭され、少し前までの惨状を思わせるものは何もなかった。
優香は知る由もなかったが、廊下に飛び散った軟便とそれを拭き取るのに使った大量のトイレットペーパーは、優香がトイレから出た後で便器に流して処分するため、ゴミ袋に厳重に包んでベランダに置かれ、廊下の床や壁は念入りに消臭消毒がされていた。
トイレのドアが閉まる音に気づいた真斗は、リビングから出て「お腹は落ち着いた?」と声をかけた。
排泄が落ち着いてトイレからは出たものの、漏らしてしまったショックからか、優香の顔は青ざめ、呆然としたまま廊下に立ち尽くしている。
真斗は優香に歩み寄り、肩を抱くようしてリビングに入った。そして、優香をソファに腰掛けさせて、自分はその脇に屈み、「脱水症状にならないようにね」と言って、コップに入れたお白湯を飲ませた。
「…ごめんなさい」
消え入るような声で、優香が目に涙をためて言った。
「謝ることじゃない。具合が悪かったんだから、仕方ないよ。それに、俺のやり方がよくなかったよ。熱でつらそうなのに、一人で長いこと我慢させすぎたな。…嫌な思いをさせてしまったね」
優しく言われて、気持ちを抑えられず、優香の目から涙が溢れた。
「浣腸したら、出るのが当たり前なんだから、何も恥ずかしいことじゃないよ。それから」
そう言って、真斗は一度言葉を切り、テーブルの上のティッシュを1枚とって、優香の頬の涙を拭ってやりながら続けた。
「具合が悪いことを相談することも、具合が悪くて浣腸をすることも、遠慮したり、恥ずかしがることじゃない。だから、倒れるまで我慢したらダメだよ。結局、その方が周りを心配させてしまうし、身体にも良くないから。…今日の夜、急に具合が悪くなったわけじゃなくて、本当はもっと前から体調が悪かったんじゃないの?」
そう言われて、優香は黙って頷いた。
本当は、今朝すでにお腹の苦しさがあったものの、恥ずかしさと、練習に参加できなくなるのが嫌で、真斗には黙っていたのだった。
「さあ、おかゆを用意するから、少しでも食べよう」
浣腸の効果か、熱が落ち着いた優香は、真斗が作ってくれたおかゆを口にして、眠りについた。
翌朝。
バスッ!! びゅーーブリュルルるるるーーーぶちゅっ。
トイレからは、昨日よりも水っぽい優香の排泄音が響いていた。
疲れが溜まると熱を出し、その後下痢に悩まされることは、優香にはよくあることで、その日もまた、早朝からひどい下痢に見舞われ、ろくに眠れずにトイレとベッドを往復しているのだった。
何度目かのトイレから戻ると、優香はベッドサイドのスマホが鳴っていることに気づいて手にとった。
画面に表示される茉莉果の名前を見て、優香は今日、茉莉果の家で一緒に勉強する約束だったことに思い至った。
昨夜の熱とその後のバタバタで、すっかり忘れてしまっていた。
時計を見ると、すでに約束の13時を過ぎていけれど、お腹がこんな状態では、今日は出かけられそうにない。
優香は慌てて茉莉果からの着信に出た。
「優香? まだ来ないの? 何時頃になりそう?」
「ごめん、茉莉果。実は朝から体調が悪くて、今日行けそうにない…。連絡もできてなくて、本当にゴメンね」
「そうなんだ…。身体は大丈夫?」
茉莉果は普段、連絡なしに約束の時間を過ぎることなどない優香の体調を心配した。
「あ、うん…。大丈夫。今日ゆっくり寝てたら、明日は学校にいけると思う」
「本当? また高熱が出たんじゃないの? もう私のことはいいから、無理しないで、早く寝て」
「ありがとう。でも、本当に大丈夫だよ…。ちょっと…お腹を壊しちゃっただけだから。疲れると、時々こうなるの…。家でおとなしくしてたら、すぐ治るから」
優香は初めて、家族と病院の人以外に、自分からお腹の不調を打ち明けた。