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お見舞い(中学2年生5月)

少しだけ浣腸の描写がありますが、細かい描写はなく、親友に浣腸が見つかってしまう恥ずかしさを描いたエピソードです。

 友井クリニックでの診察の後、真斗は、優香を連れて一旦家に戻った後、一人で商店街に向かった。

 調剤薬局で問題なく処方されたグリセリン浣腸を受け取り、スーパーで昼食と夕食の食材を、優香が少しでも口にできそうなメニューを考えながら、選んだ。


 お昼過ぎ。

 ベッドで休んでいる優香の元に、真斗が昼食を運んだ。


 ベッドの上で上半身だけ起こして食べられるように、トレイに載せた昼食をベッドサイドのテーブルに置いて、真斗が介助しながら、少しずつ優香に食べさせる。

 真斗が用意したメニューは、優香が好きな裏ごししたジャガイモのスープと、すりおろしたリンゴ、手作りのプリンだった。


 食欲はなかったけれど、真斗の手厚い看病に感謝して、優香は真斗が運ぶスプーンに口を開いた。

 真斗がスプーンに載せたスープをゆっくりと優香の口に流し込むと、優香は昨日の朝のおかゆ以来となる食べ物を、ゆっくりと飲み込み、「美味しい…」と呟いた。


 夕方には、優香はダイニングに起きてきて、真斗が用意した茶碗蒸しと、うどんを、少しずつだが食べることができた。


 受診の疲れと、久しぶりの食事に身体が反応したのか、翌朝、優香はまた熱が出て、真斗の手で浣腸を施された。

 優香の身体が少しでも楽なようにと、真斗は優香のベッドの上にビニールシートを敷き、その上にバスタオルを重ねて、ベッドの上で優香に浣腸し、お尻を押さえて我慢させた後で、抱きかかえてトイレまで運んだ。


 浣腸の後、優香の熱は下がり、体調は少し回復したようだったが、摂れる食事の量は普段の半分にも満たず、日中、眠っていない時も、ぼんやりと生気なくベッドに横たわっていた。


 調子が戻ることなく、3日が過ぎた連休の最終日。

 連休中も吹奏楽の練習は行われていたが、優香はもちろん参加できないままで、平日の1日も含めて、合宿から戻ってからもう4日間、練習に出ていなかった。坐薬を施され、部屋で休んでいて参加できなかった合宿最終日の練習も含めると、5日間、練習ができていないことになる。


 夕方。

 優香を心配して、部活帰りの茉莉果が、お見舞いに訪れた。

「上がってもらう?」真斗が聞くと、優香は頷き、パジャマから部屋着に着替えた。


 真斗はリビングに茉莉果を通し、茉莉果には紅茶、優香には薬局で勧められたお腹に良いというハーブティーを淹れてお菓子を出してくれた。優香は久しぶりに茉莉果とのおしゃべりを楽しみ、少し元気さを取り戻した。

 茉莉果は、合宿以来練習を休んでいる優香を心配していたが、思ったよりも優香の顔色が良く、体調もそれほど悪くなさそうなことに安心した。茉莉果は、今日から練習が始まった新しい課題曲の譜面を持ってきてくれていた。

「私、もうずっと休んでるし、みんなに置いていかれちゃうね」

と優香が言うと、

「そんなことないよー。優香は学年で1番上手いくらいなんだから、戻ってきたらすぐまた追い抜くよ。明日からは練習来れるんでしょ? 明日からまた学校だし」

優香は現実に引き戻され、ティーカップに視線を落とした。


 あんなに惨めで恥ずかしい姿を見られてしまって、もう木下先生と顔を合わせたくない…。でもそれを茉莉果に打ち明けることもできない。

「うん…」

力なく答える優香の異変に気づいたのか気づいていないのか、

「長居しちゃった。そろそろ帰らないと。お手洗い借りてもいい?」

と聞いた。

何度も遊びに来ている茉莉果は、トイレの場所を知っているので、案内する必要もなく、優香は「うん、どうぞ」とだけ答えた。


 茉莉果がリビングからトイレに向かった後、ぼんやりとティーカップに残ったお茶をすすっていた優香は、トイレのすぐ横に、グリセリン浣腸の容器が置かれていたことを思い出した。

 3日前、友井クリニックを受診して処方された3回分のグリセリン浣腸は、2日前の朝に1つだけ使用し、2つ残っている。

 入れた後、ギリギリまで我慢がしやすいように、トイレのすぐ前で浣腸をすることが多いので、真斗がそこに置いていたのだった。


 茉莉果に浣腸の容器を見られてしまっただろうか。優香はそっとリビングを出て、トイレの方へと向かった。

 トイレのドアの横に置かれたテーブルには、花瓶が飾られ、その横にはやはり「グリセリン浣腸」と大きく印刷された透明の袋に包まれた浣腸が2つ、無造作に置かれていた。


 リビングの方向から見ると、浣腸は花瓶の影になっているので、もしかしたら、さっきは気づかなかったかもしれない。今のうちにどこかに隠さないと…。


 トイレを流す水音が聞こえ、時間がないことを悟った優香は、とっさに花瓶の下に敷かれていたレースの敷物で、浣腸を覆った。

 しかし敷物よりも浣腸の袋の方が大きいので、敷物は不自然に盛り上がり、浮きあがった隙間から「浣腸」の印字がはっきりと読み取れる状態ではみ出てしまい、余計に目立ってしまった。

 どうにか袋を覆えないかと、敷物の位置をずらそうとした時、ドアがあいて茉莉果が出て来た。


 茉莉果は優香の姿を見て、少し驚いた顔をしたが、「あれ? どうしたの、優香もお手洗い?」と聞いた。

「う、うん」優香は別にトイレに行きたくはなかったが、とっさに調子を合わせて頷いた。

「そう。じゃあ私、リビングに戻ってるね」

 優香はリビングに向かう茉莉果を見送り、一度トイレに入り、時間を見計らってトイレから出た。


 リビングに戻りながら、優香は考えた。

 茉莉果に、浣腸を見られてしまっただろうか。

 浣腸に気づいたとして、それを優香が使っていると思うだろうか。

 

 今この家には優香と真斗しか暮らしていない。

 そして優香は今、体調を崩しているわけだから、普通に考えれば、浣腸は優香が使っているものだと思うだろう…。


 優香が絶望的な気持ちでリビングに戻ると、帰り支度をしていた茉莉果が顔を上げ、優香をじっと見て、言った。

「ねえ、優香。私、前に友井クリニックで浣腸を勧められて飲み薬を選んだ話したでしょ」

優香は息を飲んだ。


 やはり茉莉果は浣腸に気づいている…。打ち明けるなら今しかない。

 そう思って口を開いたが、言葉が出てこない。

 そんな優香の様子を見て、慌てて茉莉果は言った。

「あ…いいの。優香は何も言わなくていいの。私が勝手に喋るから聞いて」

茉莉果は続けた。

「あの時、私、無神経で、嫌なこと言っちゃったなーと、ふと思って。だって、浣腸ってドラッグストアにも、いろんな種類がたくさん置いてあるし、病院でも使われてるってことは、それが必要で使ってる人がたくさんいるってことだし、自分も必要になる時があるかもしれないのに、あの時、飲み薬を選ぶのが当然みたいな、確かそんな言い方をしちゃって…。どうしてあんなに無神経なこと言っちゃったんだろうって思って…。どんな形の薬でも、それが必要で使うのは、トイレに行ったり、寝たり、食べたりするのと同じで、自然なことなのにって」


 茉莉果はバスの中で優香の身に起こったことは知らないはずだったけれど、合宿中に優香が坐薬を使っていたことは知っている。そのことも含めて、ただ浣腸と表現せずに「どんな形の薬でも」と言ってくれたのかもしれない。

 そのことに思い至って、茉莉果の気遣いに、優香は感謝の気持ちを伝えたかったが、やはり言葉が出ず、ただじっと茉莉果の顔を見た。

「本当に、優香は何も言わなくていいの。そうだ! 明日、一緒に登校しよ。迎えに来ていい?」

 茉莉果の言葉に、優香は「ありがとう」と言おうとして、言葉よりも先に涙が溢れた。



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