合宿(7) 病院での相談(中学2年生5月)
少しだけ排泄のシーンがあります。
ブリュっ。ぶリューーーー、ビュっ、ビューー、グチュちゅちゅーーーー。
浣腸で刺激され、優香の腸は数日間の沈黙を取り戻すかのように、激しく蠢いていた。ギュルギュルと大きな音を立てて下るお腹を抱え、優香がトイレにこもっている間、友井医師は真斗に薬について説明していた。
「内服薬は、消化を助けるものなので、処方された薬がなくなるまで、食後に飲ませてください。浣腸で腸が動いたので、食欲も少しは戻ると思います」
「そうですか……。何か食事で気をつけることはありますか?」
「よほど刺激が強いものや脂っこいものでなければ、本人が食べたいものを食べさせて大丈夫です。何であれ、少しでもお腹に入れたほうがいいので」
「はい…」
「それから坐薬は、家で安静にできるときは、むやみには使わないほうがいいですね。熱を出すのも身体の免疫の反応なので、坐薬で無理に下げないほうがいい、というのがひとつ。それから、坐薬で急に体温が下がると下痢をしたり、逆に坐薬の刺激で便秘になってしまう場合もあるので、もともと腸と排便に問題を抱えている優香さんには、むやみに使うとリスクも負担も大きいです」
「そうなんですか…」
「熱が上がって辛そうな時は、まず浣腸を試してください。便が出ると、少し体温が下がるので、坐薬よりも自然に近い形で熱が下がって、少し楽になります。
明日から3日間、連休で休診になるので、3回分のグリセリン浣腸の処方箋を出しておきます。必ず毎日浣腸しなければいけないということではなく、熱で辛そうな場合や、便やガスでお腹が張っているようなら使ってください」
「あの、浣腸なんですが…。市販のものではダメでしょうか?」
真斗は聞いた。
「実は、以前、妹が浣腸の処方箋を向かいの調剤薬局に持って行ったときに、症状や使い方を周りの人に聞こえるように説明されて、恥ずかしい思いをしたらしくて…」
「向かいの薬局で? そんなことがあったんですか…」
真斗の言葉に、友井医師は険しい顔をした。
「ちょっと潔癖気味というか、羞恥心が強くて繊細すぎるところのある子なので、本人の思い込みとか、考え過ぎかもしれないんですが。ネットスーパーや宅配のサービスもありますし、市販のものを買うほうが、本人も恥ずかしい思いをせずに済むのかと思いまして…」
「薬局の方には、患者さんのプライバシーに配慮してもらえるよう、お願いしてみます」
「優香が気にしすぎなだけかもしれないのに、すみません」
「いえ、大切なことなので。この診察室も、できるだけ患者さんの気持ちや身体の負担が少ないようにしたいと考えて、他の患者さんを気にすることなく、診察室の中で必要な処置やトイレが済ませられるように配置したんですが、薬を受け取る薬局で、そんなことになってしまっては意味がないので」
友井医師は険しい顔のまま答え、続けた。
「ただ、優香さんにも以前伝えたことがあるんですが、優香さんの症状には、残念ながら市販の浣腸では効果が期待できません。優香さんの便秘には、お腹の奥まで注入できて、容量の十分な医療用の浣腸が必要です。とりあえず今日は、遠回りになるかもしれませんが、商店街か、駅のビルにも調剤薬局が入っているので、向かいの薬局を避けて、そちらを使ってください」
「わかりました、ありがとうございます」
しばらくして、診察デスクとトイレを隔てる薄い衝立の向こうから、排泄を終えた優香が、少し頬を赤らめて恥ずかしそうに戻ってきた。
いつも、浣腸による排便の後は、青白く憔悴した顔で戻ってくることが多い優香だったが、今日は浣腸を受ける前の生気がなく感情を失ったような顔に、少し感情と血の気が戻ったようだった。