合宿(1) 嘔吐(中学2年生4月)
嘔吐のシーンがあります。
土曜日。
優香たちは朝から学校に集合し、それぞれ担当する楽器を持って、バスに乗り込んだ。
優香は仲良しの茉莉果と隣同士の席に座った。
バスでお弁当の昼食を済ませ、合宿となる山間のホテルに着いたのはお昼すぎだった。
初日はお昼過ぎから夕食まで、2日目は朝から昼食を挟んでみっちりと、練習が続いた。
2日目の夕食の後、ミーティングを済ませると、あとは明日午前中、出発前の軽い練習を残すのみとなり、部員たちのあいだに、ほっとした空気が流れた。
夜には広間で簡単な打ち上げが用意され、皆、練習中とは違う、リラックスしたムードで広間に向かった。
広間には、お菓子や、ジュースが用意されていた。
優香も茉莉果と一緒に広間に入ったが、合宿中気を張っていたのが一気に緩み、急に身体が重く熱っぽいことに気づいた。
「優香、大丈夫? 顔色悪いみたい」
茉莉果の声に「大丈夫」と答えようとして、優香は喉の奥から、さっき食べた夕食が逆流してくるのを感じた。
思わず口元を押さえて、しゃがみ込んでしまった優香を見て、茉莉果はとっさにテーブルに置かれていた、お菓子が入ったコンビニのレジ袋からお菓子を取り出し、空になった袋で優香の口元を覆った。
「ぅオエ、ゲェ、ゲエエエ……ゲボっゲボボボボーーー」
優香の口から、未消化のままの夕食が逆流する。
「先生呼んできて! 優香が気持ち悪くなっちゃったみたい!!」
茉莉果はそう叫ぶと、茉莉果は、自分もしゃがみこんで、優香の背中をさすった。
「ヴオエエエエエエ、エッ…ツ…げえええ」
部員たちの心配と好奇の視線を遮るように、茉莉果は優香の顔を自分の胸元に埋めるようにして、優香の背中をさすり続けた。
「エッ…エエッ…」
夕食を全部袋に逆流させ、胃の中に何もなくなった後も、吐き気が止まらず苦しみ続ける優香の元に、顧問の木下先生と、副顧問の女性教諭である小橋先生が駆けつけた。
木下先生が優香を抱きかかえて、椅子に座らせ、額に手を当てると熱く、優香が発熱しているのは明らかだった。
「熱があるみたいです」
小橋先生に言うと、
「体温計を借りてきます!」
小橋先生は、小走りでフロントへと向かった。