思い出、羞恥の原点(中学1年生3月)
幼い頃の回想。坐薬挿入にまつわる思い出です。
春休み。
優香は茉莉果と一緒に、ショッピングモールに遊びに来ていた。
茉莉果に付き添って化粧室にきた優香は、茉莉果を待つ間、洗面台の鏡でリップを塗りなおし、髪型を整えていた。
トイレは空いていて、茉莉果が入っている個室と、小さな子供連れで入れる大きめの個室の2つだけが埋まっている。
不意に、大きめの個室から声がした。
「全部出た? じゃあお尻拭くからモーモーしてね」
お母さんが小さな子供のお尻を拭いてあげているのだろう。
しばらくして、茉莉果と子供連れのお母さんが、ほぼ同時に個室から出てきた。
お母さんは、2,3歳くらいの女の子を抱っこして、洗面台で手を洗って化粧室から出て行った。
「可愛いねー」優香が言うと、
「ほんと可愛いね。モーモーって言って、牛さんみたいなポーズでお尻拭いてもらうんだよね。久々に聞いたー。懐かしいね」
「えっ、そうだったっけ…」
「優香の家は違うの? うち、モーモーだったよ」
「どうかな、…覚えてない」
子どもの頃の話とはいえ、なんだか恥ずかしくて、優香はとっさに覚えていないふりをしたけれど、本当は蘇る記憶があった。
「モーンして」
幼い頃、確かにそう言われて、四つんばいでお尻を突き上げるポーズをして、お尻を拭いてもらっていた。
トイレでは、床に手をつかないように、四つんばいにはならないけれど、中腰のようなポーズで手を足元まで下げて、お尻をあげて拭いてもらうのだった。
モーモーではなく、モーンと言っていたのは、ママの訛りなんだろうか、または赤ちゃん言葉でそう言ったのか。
「モーン」の記憶は、自分でお尻が拭けないような、幼い頃の経験だけではなかった。
トイレではない場所で、モーンをさせられた記憶。
「モーンしなさい」
ママに言われ、座布団の上で四つんばいになってお尻を上げる。
「モーン」
ママはもう一度言って、お尻に何か冷たいものが入ってくる。
ヒヤッとして気持ち悪くて、
「いやー」
とお尻を振って逃げようとすると、
「ダメよ、お熱下がらないわよ」
とママに叱られ、さらにぎゅっとお尻の奥まで、冷たいものを突っ込まれる。
「ほら、言ってごらんなさい。モーン」
気持ち悪いだけじゃなく、子供心に、とても恥ずかしいことをされていると感じた。
「モーン」と呼ばれる姿勢も、「モーン」という言葉も、なんだか恥ずかしくて、ママに何度も促されても、なかなか大きな声で言うことができなかった。
冷たいものがお尻に入った後も、しばらくはモーンの格好のままでいなければならなかった。
お尻が気持ち悪くて「うんち出ちゃう」と訴えても、ママは
「ダメよ、せっかく入れたお薬が出ちゃうのよ」
そう言って、ティッシュでお尻を強く抑えつける。
「気持ち悪いー。うんち出ちゃうー。お漏らししちゃうよー嫌だー」
泣きながら訴えても、
「もうちょっと我慢しなさい。お薬我慢しないといつまでもお熱下がらなくて、幼稚園もプールも遊園地も行けないのよ」
と、ママはますます強くお尻を抑えるのだった。
恥ずかしくて、気持ち悪くて、なんだか惨めで。
「モーン」のポーズがが大嫌いだった。
それなのに、小学校に入っても、冬には必ず熱を出して、確か4年生まで「モーン」させられていたっけ。
今ならはっきり分かる。
熱を出して坐薬を入れてもらっていたこと、坐薬が溶けてしまわないように、冷蔵庫で保管していたから冷たくて気持ち悪かったこと、お尻を緩めるために口から息を吐く必要があるけれど、子どもには加減がわからないので「モーン」と言わせてお尻を緩めようとしていたこと、異物感で便意をもよおしてしまうけれど、息むと薬も出てしまうので、すぐに排便させるわけにはいかなかったこと。
思いを馳せていると、
「お待たせ。行こ」
手を洗って、髪型を整えた茉莉果が、鏡ごしに微笑みかけた。




