膠着と焦り(2) 自宅で(中学1年生2月)
浣腸後排泄の描写があります。
家に帰り、リビングに続くドアを開けると、ダイニングテーブルにはもう食事の準備が整えられていた。
「ただいま」
「おかえり。ちょうどご飯できたとこだよ、お腹はどう? すっきりした?」
最近は、学校帰りに友井クリニックに寄ることを、真斗にいちいち報告していないけれど、家に着く時間がいつもより遅いことや、優香の様子から、真斗にはわかるらしい。
「うん」
無意識に下腹をさすりながら、優香は言った。
浣腸の処置を受けた後は、パンパンに張っていたお腹がすっきりして少し楽になるけれど、クリニックで排泄した後も、しばらく下痢のような状態が続くことも多かった。ひどい時は一晩中、お腹が痛んだり、何度もガスや緩い便が出る。
友井医師にも相談したけれど、十分な効果を出すためには、ある程度は仕方のないことらしい。
だからこそ、浣腸は処置後に安静にできるように、学校帰りにする方が良い、とのことだった。
「着替えてくるね」
優香はそう言ってリビングを後にすると、自分の部屋ではなくまずはトイレに入った。
クチュ。クチューー、ピュッ、プシューーーッ。
もう固形のものは出ず、残っていた浣腸液なのか、お腹の奥に詰まっていた便なのか、それが混じり合ったものなのか。
湿った音を立てて、お尻から泥のようなものが溢れ出て、便器の水面へと落ちて行く。
お腹が痛くて、肛門が熱いような、浣腸特有の感覚が続く。
またすぐに便意に襲われることを予感しつつも、優香は最小限、お尻から溢れ出してくるものを出してしまうと、身支度を整えてトイレから出た。早くしないと、ダイニングで、真斗が待っている。
素早く着替えを済ませ、LDKに戻ると、
「大丈夫? お腹が渋ってる?」
真斗が心配そうに言った。
急いで戻ったつもりが、トイレで下したことがバレてしまっているらしい。
「ううん、大丈夫だよ」
努めて明るく振舞いながら、「お腹が渋る」という表現は、今の自分の症状をぴったりと表しているけれど、この言葉もなんだか恥ずかしくて、自分は言えそうにないなあ、と優香は思った。
そんな自分の体調も、お腹の様子がバレてしまっていることも、全部が恥ずかしい。
「お腹が渋る」「軟便」「液便」「グリセリン浣腸」「浣腸液」「直腸性便秘」「直腸診」…。
この1年、自分では恥ずかしくて使えないけれど、新しい言葉をたくさん知ったなあ。
これ以上、恥ずかしい言葉を知る体験がないことを、優香は祈った。