悪夢(6)(中学3年生7月)
病院での浣腸の描写があります。
「佐伯さん、どうですか? 便は出ました?」
カーテンから顔を出した看護師さんに、優香は憔悴した表情で首を横に振った。
「ガスが少しだけ。便は出ていません」
言葉を補うように、真斗が答える。
「そう…。じゃあ浣腸だね」
看護師さんは、優香の股間にかけられたタオルを捲りあげ、露わになった下腹に手を当てて、お腹の状態と空のままの差込便器の中身を確認し、差込便器を坐薬処置の際に運び入れたワゴンの下段に戻しながら言った。
「浣腸するので、準備をしてきますね」
しばらくすると、看護師さんは再びワゴンを押して戻って来た。
宣言通り、今度はワゴンの上に、透明の袋に包まれたグリセリン浣腸器と、ボックス型のペーパー、ガーゼ、小分けの潤滑ゼリー、ゴム手袋、ビニール袋、ゴム状の防水シーツとオムツ状のマットなど、浣腸の処置に必要なものがずらりと載せられている。
ほとんどが見慣れたものではあったが、用意されたグリセリン浣腸の大きさと、ジャバラのようになったゴツゴツとした形状、いつもの浣腸以上に長く見えるノズルに、優香は恐怖を感じて、目が釘付けになった。
「便がたくさん溜まって、詰まってしまって、坐薬しても出ないから、ちょっとしんどいけど、大きい浣腸頑張ろうね」
優香の視線に気づいた看護師さんは言った。
恐怖心のせいか、用意された浣腸は、いつも使っている浣腸の倍くらいの大きさに見えた。
こんなにも大きな浣腸は、高圧浣腸以外にはされたことがない…。
優香の脳裏には、高圧浣腸の恐怖と、その後の排便の苦しみ、惨めな排泄後の処置が、まざまざと蘇った。
あの時、お腹の中に大量の液体が入ってきて、怖くて、苦しくて、息ができなくなって……。
「いやー!!」
忌まわしい記憶を振り払うように、優香は必死で頭を振って激しく拒絶した。
そして、どうにか浣腸から逃れようとして、お尻をベッドから離れないように強く押し付け、両手でぎゅっとシーツを掴んで、身体が浮き上がらないようにして、必死で抵抗した。
「坐薬でも出ないから、もう浣腸するしかないのよ。
浣腸は嫌だよね。ごめんね。
でも浣腸しないと、お腹痛いまま治らないし、退院できないよ」
「どうしたの? 大丈夫だよ。浣腸してもらって、早く元気になろう」
看護師さんと真斗が変わるがわる優香を説得しようとしたが、二人に優しく諭されても、優香は頑なに浣腸を拒絶し、髪を振り乱しながら頭を左右に振って抵抗した。
そんな優香の様子を見て、
「暴れると危険なので、浣腸する間、押さえていてください」
看護師さんは真斗に言った。
「動いたら危ないから、少しじっとしていようね」
そう声をかけて、乱れてしまった髪を撫でつける。両頬を包むようにして手を添え、涙を浮かべた目をじっと見ながら、
「大丈夫だからね……」
もう一度、言い聞かせるように言うと、優香は観念したのか大人しくなった。
固く身体をこわばらせてはいるものの、もう暴れることなくじっとしている優香の肩を、真斗は力は入れずにそっと押さえた。
股間を覆っていたタオルが捲られ、再び下半身がむき出しになった。
排便時に腹圧をかけるために起こしていたベッドが、再び水平に倒され、腰から下に防水シーツと、さらにお尻の下には板状のオムツのようなシートがあてられる。
「向こう側を向いて、こちらにお尻が向けて、身体を丸めてください。
膝を曲げて身体を丸め、お尻をグーッと突き出して」
看護師さんの指示に従い、真斗が手を添えて、優香は左側臥位でお尻を突き出す、いつもの浣腸を受けるポーズをとらされた。
「動かないように、脚をしっかり押さえていてください」
真斗は、むき出しになった優香の下半身を少しでも覆ってやろうと、腿から脹脛にかけてタオルを広げて、その上に手を添えた。もう優香が暴れないことはわかっていたので、力は入れずに、そっと手を置いているだけだった。
「浣腸します」
宣告され、看護師さんの手で、お尻の割れ目がぐっと開かれ、肛門が露出する。
「お尻の穴が、ちょっと冷たくなりますよ」
たっぷりとゼリーが塗られた浣腸器の先端が肛門に触れ、優香がビクンと身体を固くした瞬間。
背後のカーテンがそっと開く音がして、
「あ…!」
という声と、息を呑むような音が聞こえた。
今まさに、優香の肛門に浣腸器のノズルを挿入しようとしていた看護師さんは、いったん優香のお尻から手を離し、浣腸器を手にしたまま振り返った。
優香も、何事かと首を捻って、お尻をむけている方を振り向くと、そこには、茉莉果の姿があった。
「ごめんなさい!! また後で来ます」
顔を赤らめた茉莉果が、慌ててカーテンを引き直して立ち去るのを、優香は呆然として見送った。
「動かないよね? すぐ戻るから、看護師さんの言うことをきいて」
真斗は優香にそう声をかけると、脚を押さえていた手を離し、カーテンの向こうに消えた茉莉果を追いかけた。
驚きのあまり、声も出せずに呆然としている優香に、
「お友達がお見舞いに来てくれたのかな? びっくりしたね。それじゃあ、早く浣腸済ませてしまおうね」
看護師さんが励ますように声をかけた。
「浣腸します。
ちょっと気持ち悪いけど、動かないで我慢して」
再び露わにされた肛門にノズルの先端がピタリと押し当てられ、ぬるりとした感触とともに、肛門が外からこじ開けられた。
「うっ…」
「怖くないからね。
お腹とお尻の力を抜いて、楽にしててね。
お口で息をして。ハーハー。しっかりお口を開いて、ハーハーハーハー。そう、ハーハー……。
はい、注入管が入りましたよ。今からお薬入れていきますからね。
お腹を楽にして、お口は閉じないで、お口で息をしますよ。はーはーはーー」
グチュっという浣腸器の膨らみが潰れる音がして、生ぬるい浣腸液が肛門に注入され、ゆっくりと直腸を満たしていく。
「はーはーはー……しっかりお口で息をして……はーはーはーはー。
「うぅ……。んーー……はぁ…はぁ……」
優香は顔を歪め、苦しげな呼吸と、時折うめき声を漏らしていたが、それでも暴れて抵抗したりはせずに、大人しく浣腸を受け入れたので、看護師さんは安心したようだった。
「はーはーはー……そう、お口はしっかり開けて」
「はぁ…はぁ…はぁ……。苦しい……」
「しんどいね……。でも、もうお薬半分入ったよ。この調子であと半分。もうちょっとだけ頑張ろうね。はーはーはーー」
「うぅ……はぁ…はぁ……うぅぅ…」
「頑張れ頑張れ、あと少し…。頑張れ頑張れ。はーはーはー」
「はぁ…はぁ……はっ……はっ…はっ……んーー」
「頑張って……。
はーはーはー……。はい、全部入ったよー。
浣腸のお薬が全部入ったので、お尻の管を抜きますね。
はい、お尻の穴をキュッと締めてー。はい、お尻拭きますね」
幼い子供をあやすように言うと、看護師さんはノズルを抜いた優香の肛門をペーパーで拭った。そしてペーパーを分厚く重ねて肛門に押し当てると、指先でぎゅっと肛門に押し込んで、栓をするようにした。
「うぅ……」
「お薬が効いてくるまで、しっかり我慢しましょうね」
肛門への刺激と、お腹の苦しさで、顔を歪めてうめき声をあげる優香にそう声をかけると、看護師さんは優香のお尻に再び差し込み便器をあてがった。
身体が仰向けに戻され、脚を広げて膝を立てた体勢にされ、股間がタオルで覆われる。
「息みやすいように、ベッドを起こしますね。
すぐに出してしまうと、さっきみたいに出ないままになってしまうから、しっかり我慢しましょう。
ゆっくり、300数えてから出そうね」
と、声をかけて、看護師さんは去っていった。
1、2、3、4、5……
優香は、言われた通りに、声は出さずに頭の中で数を数えた。
お腹は苦しいけれど、グルグルと蠢くような便意はなく、今出してしまうと浣腸液だけが出てしまうと、自分でもわかる。
カーテンに閉ざされたベッドに横たわり、優香は必死で数を数えた。
11、12、13……
不意に、驚いた茉莉果の顔がはっきりと蘇った。
自分のことのように、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、「ごめんなさい!!」と慌てて出ていった茉莉果。
オムツのようなシートの上で、丸出しのお尻を突き出して、浣腸されるのを待っていた自分の姿。
背後を振り返った時に、看護師さんが右手に持っていた長いノズルのついた大きなグリセリン浣腸器……。
ワゴンに載せられていた、ペーパーや差し込み便器。
排泄と同じくらい、いやそれ以上に、惨めで恥ずかしい姿を、見られてしまった。
茉莉果は、浣腸されているところだったと、わかってしまったかな。
わからないはずがないよね…。
看護師さんの手で、お尻を広げられて、浣腸器のノズルを挿れようとする瞬間を目撃したんだから。
一番の親友の茉莉果に、二人がかりで押さえつけられ、浣腸されている姿を見られるなんて。
あまりの惨めさに、優香の頬には涙が伝っていった。
グルっ…ギュルギュルっ……。
その時、お腹の奥の方が重くなって蠢き、優香は急激な便意に、回想から現実に引き戻された。