悪夢(5)(中学3年生7月)
坐薬挿入の描写があります。
入院から1週間が過ぎ、酷かった優香の下痢がようやく快方に向かい、退院の目処がたった。
入院7日目にして初めて、薄いお粥ではなく、通常の入院食が許可された優香は、食後に激しく下すこともなかったため、点滴も外され、腸の炎症を鎮め、蠕動を緩やかにする経口薬だけを服用していた。
「下痢が止まって、形のある便が出たら退院」との許可が出た優香だったが、入院8日目に下痢が完全に止まると、便意と便通が全くなくなり、今度は丸2日にわたって排便がなかった。
便通以外は目立った不調もないため、朝の回診では「激しい下痢で出し尽くし、食事も少なかったせいでしょう。あと一日様子を見ましょう」と説明されていたが、その日の昼食の直後、優香は突然腹痛を訴えて、トイレまで間に合わず、ベッドの上で、食べたばかりの昼食を、片付けられる前の食器の上に、全て戻してしまった。
「うぅ……。気持ち悪い…。お腹痛いよお」
嘔吐を伴う腹痛の苦しさと不安から、泣き出してしまった優香のお腹を真斗がさすっていると、ナースコールで駆けつけた看護師さんが、手際よく汚してしまったシーツを片付けていった。
駆けつけた担当医による聴診とお腹の触診、肛門からの直腸診、そして腹部のレントゲンの結果から、優香に下された診断は、便秘だった。
「下痢を止めるために使った、腸の炎症と激しい煽動を抑える薬が効きすぎているようです。
腸の動きが完全に止まってしまっていますね。
煽動を抑える薬は中止して、詰まっている便を出すために、腸を動かす坐薬を使いましょう」
悪夢のような下痢からようやく解放されたと思ったら、今度は便秘をして坐薬挿入が必要という、理不尽でかわいそうな宣告だったが、激しい腹痛と吐き気で意識が朦朧としている優香は、拒絶する元気もなく、ベッドの上でぐったりとしたまま、ただ身を任せていた。
「佐伯さん。便秘を解消して、溜まった便を出すためのお薬を使いますね。
坐薬、お尻から入れて使う薬です。坐薬で腸を動かして、排便を促します」
布団が捲り上げられ、腰の下にシートが敷かれる。真斗に手伝ってもらって身体を横向きにすると、看護師さんが優香のパジャマとショーツを下ろしてお尻をあらわにした。
「ごめんね。坐薬を入れるので、ちょっとの間、お尻を出しますよ。
膝を抱えて身体を丸めて。はい、少しそのままでね。
肛門に坐薬が入ります」
看護師さんの宣告の瞬間、肛門に冷たく固い坐薬の先端が押しつけられた。
「…うっ……」
「お尻を緩めて、お口から息を吐いて。ハーハー」
「…うっ……うぅ…はあ…はあ…」
「ハーハーして。
お尻の穴を締めないで、お尻の力を抜いて。お口を大きく開けて、ハーハー」
「…うっ……はあ…はあ…はあ…」
「ちょっと痛いかな? 頑張って。
お口を大きく開けると、お尻の穴も開いて、楽に入りますよ。
お口でハーハーして。ハーハーハーハー」
水のような下痢が長く続いたせいで、肛門が狭くなってしまったのか、それとも、まだ治りきっていない痔の炎症で肛門が腫れ上がってしまっているからなのか、優香の肛門は容易に坐薬を受け付けず、ほんの少しずつしか入らない。
「痛っ……! うー……気持ち悪いよお」
吐き気とお尻の気持ち悪さで、涙が伝う頬に、真斗の手が添えられていた。
「ちょっとの間、頑張って。お口は閉じないで、お尻を緩めて。ほら、ハーハーハーハー」
「はあ…はあ…」
看護師さんに励まされ、優香が喘ぐように息を吐くたびに、強い異物感と苦痛を伴いながら、固く冷たい坐薬がゆっくりと挿入されていった。
「はい、一つ入ったよ。あともう一つ坐薬が入りますよ。
つらいけど、もう一つだけ坐薬、頑張ろうね。力を抜いて。ハーハー」
「まだ……!? …うっ……うぅ…! 痛いよぉ……気持ち悪い……はあ…はあ…うっ……出ちゃいそう……うー…出ちゃう!!」
「もう少しだけ頑張って。
ハーハーしてね。ハーハーハーハー……。
力は入れない。今は息まないよ。お尻の力を抜いて、ハーハー……ハーハー……。
坐薬はよく効くから、お腹が動いて、すぐ便が出て楽になりますよ」
「うぅー……。はあ…はあ…」
「頑張れ頑張れ。あとちょっと。
ハーハー……頑張れ、ハーハー…ハーハー…。
はい、よく頑張ったね。坐薬2つとも入りましたよ。
このまま少し我慢しましょうね」
「うー…うぅ! もう出そうです!」
悲痛な声を上げた優香に、看護師さんは言った。
「今、出そうになってるのは、便じゃなくて坐薬ですよ。
坐薬がお尻の中で溶け出すまで、しばらくしっかり押さえますね」
お尻の穴がジンジンして、強く痛んだ。
もう便が出かかっている感覚があるのに、お尻の穴には看護師さんの指が深々と挿し入れられ、栓をするようにピッタリと塞がれている。
時間にすれば2分足らず。
浣腸後の我慢に比べれば、長い時間ではなかったが、優香にとっては長く残酷な時間だった。
病室には優香の泣き声と悲痛なうめき声が響いていた。
「…うっ……うぅ……うー!…苦しい……お尻、気持ち悪い…。
お尻もお腹も痛いよぉ……。ヒッ…! もう…だめ。出る! 漏れちゃう!!」
「もう出そう? それじゃあ、ちょっと早いけど、お尻の下に差し込み便器をあてておきますね。坐薬の効果が出るまで、まだもう少しかかるはずだけど、肛門を刺激したせいで、もよおしたのかもね」
看護師さんはゆっくりと指を抜くと、優香の肛門にペーパーを押し当てて圧迫し、お尻が出る辺りまで下ろしていた優香のパジャマとショーツを脱がせて、足首から抜き取った。
そして、下半身が露わになった優香の身体を仰向けにすると、脚を開いて膝を立てさせた。
「お尻に便器をあてるので、少し腰を浮かせてくださいね」
看護師さんが優香の腰の下に片手を入れて浮かせたと思うと、肛門を中心にして、お尻にピッタリと差し込み便器があてがわれた。
カエルのように脚を広げて、剥き出しになった股間には、重ねたトイレットペーパーがあてられ、その上から薄いタオルがかけられる。
「もう坐薬は溶け出しているので、いきんでも出てしまわないと思うけど、もし溶けずに坐薬の形のまま出てきてしまったら呼んでくださいね。
お薬が一番効いてくるのは、肛門に挿れてから30分ほど経った頃なので、すぐに便が出なくても、しばらくはしっかり気張りましょう」
ベッドを起こして看護師さんがカーテンの向こうに消えると、優香はすぐに必死で窄めていた肛門をゆるめた。
ぶすーーー……。プシュ…。
必死で便意を我慢していたはずなのに、意外にも、出たのは少量の泡のようなガスだけだった。
下腹は固く重いままだが、肛門付近に感じていたはずの便意は跡形もなく消え失せている。
「んー……うーん! うーーん!!」
声が出るほど息んでみても、もうガスさえも出ない。
「出そう…?」
心配げに問いかける真斗に、答える余裕もなく、優香は額に脂汗を滲ませて、全身の力を振り絞るように、何度も反り返りながら息み続けた。
「ん!……うーーん! うーーーん! う……うーーーん!! うーーーん!! ハアハア……うーーーん…うーーーん!! うう……駄目だ……。お腹痛くて苦しいのに、出ない…。気持ち悪い……」
「坐薬は出てしまってない? まだお腹が動いてないのかな。少し触るよ」
真斗は、赤らんだ頬に涙をこぼしながら、必死で息みつづける優香に声をかけて、下腹に手を当てた。
ガスと便でパンパンに張り、固くなってしまっている下腹を、のの字を描くようにしてマッサージする。
「どの辺が痛い?」
「…お腹、全部」
「下の方?」
「おへその、あたりかな…。でも全部痛くて、もうよくわからない」
「触ったら余計に痛むかな。触らない方がいい?」
「ううん。…触ってて。……温かくて…ちょっと楽になる……」
30分ほど、根気よくマッサージを続けていると、苦しげだった優香の表情は和らいで、少し楽になったようだった。
ぐるっ……キュるる……
手のひらに腸が動く微かな感触があり、
「出そう?」
と優香に声をかけると、優香はしばらく身体をこわばらせ、何度も唸り声を上げながら精一杯息んだ後で、切なげな表情で首を左右に振った。
「佐伯さん、どうですか? 便は出ました?」
カーテンの向こうから看護師さんの声がした。