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悪夢(3)(中学3年生7月)

オムツへの下痢排泄の描写があります。

 優香の意識が回復したのは、救急車で運ばれた病院のベッドの上だった。


「また1時間後に交換に来ますけど、たくさん出てしまった時はナースコールで呼んでくださいね」


 看護師さんの声をぼんやりと聞いていると、

「はい。ありがとうございます」

と、聞き慣れた声が答えた。


 声の方に顔を向けようとして少し動くと、

「点滴をしているから、動いたら駄目だよ」

と、やはり聞き慣れた声がして、腕のあたりをやさしく撫でられた。


 自分がなぜここにいるのか、ここがどこなのかも、よくわからなかったけれど、しばらくするとおぼろげながら、優香にも自分の置かれた状況が認識できてきた。


 いつものパジャマではなく、浴衣のようなものを着せられ、ゴワゴワした分厚いオムツをあてられて、カーテンで仕切られたベッドに寝かされている。どうやら病院にいるらしい。左腕には点滴の針が刺されていて、気になって触ろうとするたび、

「点滴をしているから、触ったら駄目だよ。

 お腹の薬と栄養を点滴してもらってるからね。薬が効いたら、よくなるから」

 ベッドの横で付き添っている真斗に、なだめるように声をかけられた。



 お腹がキュルキュル蠢いて、気持ちが悪い。

 また、お腹を壊してしまったのかな……。


 夢なのか現実なのかよくわからない記憶があった。

 ハサミの刃がジョキジョキと何かを切っている音が聞こえて目が覚めた。

 布切れのようなものが身体から取り払われ、裸で横たわったまま、お湯で身体を洗ってもらっている。

 よく見ると、布切れは白いゼッケンのついたスクール水着で、

「ああ! 水着を切られてしまったら裸になってしまう…! やめて! 水着を切らないでください!!」

 と伝えようとするけれど、うまく声が出ないし、お腹が痛くて、身体に力が入らない。

 自分の声じゃないような、低いうめき声だけが、口から漏れていく……。


「点滴が効いてきたら、お腹の痛みも楽になりますよ」

 看護師さんの優しい声が聞こえて、ベリベリとテープを剥がしてオムツが開けられ、下半身が露わになる。

 身体の向きを横向きにされて、微温湯で流してもらって、お尻を拭われ、再び、お尻をすっぽりと覆う分厚いオムツがあてがわれていく。

 

 そうだ。あの時は動けないほど、お腹が痛かった。それに身体が冷たくて、だるくて……。


 夢だったのか、お腹の薬の点滴が効いているのか、今はお腹の痛みは強くはない。


 ただ、ひどく下しているようで、緩みきってしまった肛門は、自分の意思では制御不能な状態で、水のように緩く、熱い下痢便がひっきりなしに、替えてもらったばかりのオムツに溢れていく……。


 眠りに落ちるように、優香の意識はまた、おぼろげに霞んでいった。



 診断は腸炎だった。


 CTの結果、幸い脳には異常がなかったが、下痢が激しく、絶食と絶対安静が言い渡された優香は、入院から丸三日、終日ベッドの上に横たわって点滴を受けていた。

 激しい下痢で消耗し、ベッドに起き上がることさえ出来ずに、1時間に1回、ひどいときは15分に1回のペースでナースコールをして、限界まで水下痢を吸収した軟便パットとオムツを交換してもらわなくてはならなかった。

 ひっきりなしの下痢により、液状の下痢便と腸液を垂れ流している状態で、常に刺激にさらされている肛門は、腫れ上がって熱をもち、ピリピリと鋭く痛んだ。

 オムツ交換の時に優しく拭ってもらうことさえ苦痛で、肛門にチューブを挿入して痔の軟膏を塗ってもらう度、優香は悲鳴のような呻き声を漏らした。


 それでも、入院四日目になると、ひっきりなしだった水下痢の勢いも少しずつ弱まり、回復の兆しが見えてきた。

 優香は、ようやくベッドに起き上がることができるようになって、薄いおかゆの食事が許された。

 完全にオムツに垂れ流しの状態からは回復し、夜間以外は、分厚いテープ式のオムツから解放された。

 それでも、排便は頻回で、日中も常に点滴をしているのと、下痢が続いて体力が落ちているせいで、4人部屋の入口にあるトイレまで歩いていくことが難しく、ベッドの横にポータブル便器を置いてもらい、自分で上げ下げできるパンツ型のオムツも使っていた。


 下痢は最悪の状態からは脱したものの、便はまだかなり緩い状態で、回数も多く、もよおすとほとんど我慢ができない。そのため、ベッド脇のポータブル便器まで間に合わず、オムツを汚してしまうことも多かった。

 便意をもよおすたび、急いでポータブル便器を目指すのだが、ベッドから起き上がろうとして腹圧がかかった拍子に、緩んだ肛門は緩い便を噴水のように噴射してしまう。

 そして、回復してきたとはいえ、まだ一時間に一度は激しい下痢と腹痛に襲われて、断続的ながら半時間ほど下し続けるため、ベッドで休んでいる時間より、ポータブル便器にしゃがんで苦しんでいる時間の方が長いくらいだった。



 だから、木下先生がお見舞いに訪れた時、優香がポータブル便器を使用中だったのも、特別タイミングが悪かったというわけでもなかったが、もちろん優香にとっては、仕方ないとわりきれることではなかった。


 看護師さんの案内で、ベッドを仕切るカーテンが開けられた時、優香はカーテンが開けられた位置のちょうどすぐ横で、汚してしまったオムツとパジャマのズボンを膝下まで下ろし、下半身を露わにした姿でポータブル便器にしゃがみ、下腹をさすりながら、なかなか止まらない下痢と格闘していた。


 ブチュッ……ビュッ…ビュッ…ブリュッ…ブチューーーッ……ブリュッ!


 ハアハアと荒い呼吸で肩を大きく揺らしながら、下痢を出し切ろうと、ポータブル便器の上で上体を低くして屈み、剥き出しの白い尻を後ろに大きく突き出すような格好になって、何度も「うーん!うーん!」と、うめくような息み声を漏らす。


 排泄の勢いがいったん弱まり、下腹をさすりながら少し身体を起こし、肛門が裂けそうなピリピリとした痛みに顔を歪めながら、明かりが差すカーテンの隙間に目をやった優香は、一瞬、目の前のことが理解できずに、呆然とした表情で看護師さんと、その横に立つ木下先生を見つめた。


 つかの間、時が止まったようだったが、


 ブリュッ!! ブリュリューーー。ブチュッ……ブチュブチュ…ブリュッ……ブリュッーーグチュちゅちゅーーーー。……ブシューーーーーーーー。


 静寂を破ったのは、ぶり返した激しい下痢の排泄音だった。


「ああ……!!」

 優香は、悲痛な声を上げながら、蠢く下腹を庇うように押さえて、便器の上にうずくまった。

 後ろに突き出したむき出しのお尻から、自分でも止めようのない大量の軟便が、ひどい音を立てて溢れ出ていく。


 ひどい下痢でトイレまで我慢できず、ベッドの脇にポータブル便器やトイレットペーパーを置いているのを見られるだけでも恥ずかしいのに、下痢で汚したオムツを膝下まで下ろし、下半身がむき出しの姿で、ひどい音と臭いを撒き散らしながら下痢便を排泄している、こんな惨めで恥ずかしい姿を見られてしまうなんて……!



 ポータブル便器に座る優香のオムツが、緩い便で汚れているのを見て、ベッド脇の床頭台に常備してある新しいオムツを取り出そうと、カーテンに背を向けてかがんでいた真斗は、優香の叫び声に驚いて振り返った。


 状況を理解し、すぐにタオルで優香の下半身を覆ってやろうとしたが、その前にカーテンは閉ざされ、木下先生の驚いた顔はその向こうに消えていた。真斗は慌てて先生の後を追った。


「すみません、わざわざお見舞いに来ていただいたのに。

 少しずつ回復はしていて、ようやく昨日から、起き上がれるようにはなったんですが、まだまだ下痢がひどくて、こんな状態で……」

「こちらこそ、間が悪くて……また日を改めます」


 カーテン越しに聞こえる二人の会話を、優香の激しい下痢の音がかき消していった。




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