悪夢(1)(中学3年生7月)
下痢排泄の描写があります。
慢性的な便秘で、拡がり、弛緩してしまった直腸の状態を改善するため、自宅で毎日浣腸するようにと、優香が指示されたのは、5月の半ば。
以来、優香は指示に従って、毎日浣腸するようにしてはいたが、下痢がひどい時や、元々お腹が緩くなり過ぎる生理期間は浣腸を避けていたこともあり、処方された30回分の浣腸をようやく使い切ることが出来たのは、7月後。
夏休みが始まる数日前のことだった。
友井クリニックで、いつものようにお腹の聴診と触診、直腸診を受け、さらにレントゲンも撮って、腸の詰まりは無くなってはいないものの、以前よりは改善していると診断された優香は、少しの安堵と、同じくらいの失望を味わった。
「これからは、毎日浣腸する必要はないけれど、2日間便通がなかったり、便が出ていても量が少なかったり、お腹に張りがあるときは、早めに浣腸で対処するようにね。結果、連日浣腸をすることになっても構わないので」
胸に満ちる安堵の気持ちが、強制的な毎日の浣腸から解放されるせいなのか、毎日ではないものの今後も浣腸をする機会は失われなかったせいなのか、自分でもわからないまま、優香は小声で「はい」とだけ答えた。
「浣腸を長期間常用していると癖になってしまう、という話を時々見聞きするんですが、どれくらいの期間なら使っても大丈夫なんでしょうか…?」
真斗は、最近感じている不安を口にした。
優香の体調を少しでも改善してやれないかと、インターネットや書籍で便秘について調べていると、「浣腸を常用していると、正常な便意や排便機能が失われ、浣腸しないと排便出来なくなる」という警告のような情報を目にすることが何度かあった。
そして、不安はそれだけではなかった。
治療を嫌がる優香を納得させるため、優香には「浣腸は病気を治す治療だから、恥ずかしいことではない」と何度も言い聞かせてはいたものの、来年には高校生になる、もう子供とは言えない異性に、家族とはいえ日常的に浣腸をし続けることが、果たして正常な行為なのか。
特に、エネマシリンジでの浣腸の最中、優香の表情に恍惚を見出してしまってからは、優香に浣腸をすることに強い背徳感を覚えるようになっていた。
しかし、この二つ目の不安は、口にすること自体がためらわれ、「癖になる」という曖昧な表現となって声に出たのだった。
「癖になっているのは浣腸ではなく便秘です。
根本の便秘が解消されれば、自然と浣腸は必要なくなるので、心配しなくても大丈夫ですよ。
便秘を改善するためには、今は浣腸を使ってでも、まずしっかり出すことが大切です」
二つ目の不安は解消されることはなかったが、一つ目の不安に解答が出されたことにお礼を言って、診察室を出るしかなかった。
本来なら午前中で終わる終業式の日。
午後は吹奏楽部の練習があったが、優香は体育の補習に参加しなくてはならなかった。
お腹の不調のせいで、水泳の授業の欠席が続いていたため、体育の授業の出席が足りず、同じような状況の他の生徒とともに補講となったのだった。
幸い、数日前から腹痛や下痢はなく、プールに入ることに不安はなかった。
給食がないので、持参したサンドウィッチを食べ、少しの休憩の後、スクール水着に着替えた優香は、他の3名の生徒とプールサイドに集合し、体育教諭の指示でプールに入った。
水中で軽く身体をならした後、1人1レーンが割り当てられ、25メートルのプールをまず好きな泳法で端まで泳ぐ。少し休んだら、その後はクロールで一往復、そして平泳ぎでもう一往復。自分のペースで、泳ぎきれなければ途中で立ったり歩いてもよいから、という指示で泳いだ。
久しぶりのプールの感触は気持ちよかったが、曇りで気温がやや低めの天候だったこともあり、少しすると身体が冷えてきた。
優香のお腹に異変が起こり始めたのは、クロールで最後の25メートルを泳いでいた時だった。
クロールは得意な方なので、50メートル泳ぐこと自体はそれほど苦ではないはずだったが、食後にお腹を冷やしたせいか、泳ぎ始めた時から重く感じていたお腹が、ギュルギュルと激しくうごめきだした。そして、プールの真ん中に差し掛かるあたりで、ついに強い便意と腹痛がやってきた。一度泳ぐのをやめて休みたかったが、ちょうどプールの水深が一番深いあたりで、小柄な優香は足を着くと、頭まですっぽりと水に埋れてしまう。
内側からこじ開けられそうになる肛門を必死で締め付け、うまく力が入らずもつれそうになる脚で水を蹴る。
途中からは息継ぎをする余裕もなく、どうにかプールの端までたどり着いて大きく息を吸うと、優香は肩で息をしながらプールから這い上がって、身体を丸め、冷え切ったお腹をさすった。
異変に気付いて近づいてきた体育教諭の山川先生が、
「体調が悪い? テントの下で少し休む?」
と声をかける。
優香は、青ざめた顔で首を横に振り、
「体調が悪いので、トイレに行かせてください!」
とだけ言うと、プールの端にある屋外トイレを目指して、駆け出した。
人目を気にする余裕もなく、長いプールサイドを小走りで急ぐ優香の身体は、プールの水で冷え切り、両手をあてて必死で温めているお腹は、ギュルギュルと水っぽい音を立てて蠢いていた。
全身に鳥肌が立ち、冷え切った身体の中で、肛門だけが熱い。
痛むお腹をかばって身体を丸めているだけでなく、肛門が開かないように必死でお尻を締め付けているせいで、優香の走り方は強張り、しかも強い便意の波に襲われるたびに立ち止まるので、歩くのより遅いようなスピードだった。
優香は懸命にトイレを目指して頑張ったが、あと残り数メートルというところで、それは起こった。
必死の我慢も虚しく、ゆるく熱い便が肛門から噴き出し、思わず立ち止まった優香の冷たく張り付いた水着の中を、温かく濡らしていったのだった。
ブリュッブリュッブリューーーーーーっ、グチュちゅちゅーーーーーーーー。
ああ…、間に合わなかった。
せめてプールサイドを汚さないうちに、早く…。
激しい腹痛と便意に、その場にしゃがみこみたいのを堪えて、優香は足を進めようとした。
しかし、次々に漏れ出る便をこらえようとすると、もう小走りどころか歩くことさえ、まともにできそうにない。
優香は涙ぐみ、何度もその場に立ち止まって、不恰好なのを承知で、片手を下腹、片手をお尻にあてて、脚をクロスにするようにして堪えながら、不自然な歩行で一歩ずつ進むのがやっとだった。
昨日のうちに、浣腸をしなければいけなかったんだ。
今更、もう遅いのに、優香の頭の中は後悔でいっぱいだった。
本当は、一昨日から十分な便通がなく、少しお腹が重いことに自分でも気づいていたけれど、浣腸して欲しいと自分から言いだすことが、いやらしい行為をせがむようで恥ずかしく、言い出せないでいたのだった。それに、少し具合が悪くなれば、いつも真斗が気づいて世話を焼いてくれるので、そのうち浣腸を勧められるはずで、そうなってから、嫌々というていで、浣腸してもらえばいいと思っていたのだった。
数メートルの距離を何度も立ち止まりながら、ようやくトイレにたどり着いたとき、優香のお尻は、濡れたスクール水着の外側からははっきりとわからないものの、大量の軟便にまみれていた。
しかし、その不快感も恥ずかしさも、ほとんどわからなくなるほど、優香の頭を占めていたのは強烈な便意だった。必死で締め付けている肛門を一度緩めれば、既に出てしまった便の比ではない量の便が噴き出すことは明らかだった。
ああ、やっと、やっと……全部出せる…。
目隠しのコンクリートの壁を隔てただけの屋外トイレの入口を奥に進むと、薄暗く、ひんやりした空気に包まれる。
寒さで身震いしながら、もう備え付けのスリッパを履く余裕さえなく、冷たいタイルの床を裸足で踏みつけて、優香が奥の個室を目指し駆け出そうとした瞬間。
ブブ…!! ブリュッ……ブリュブリュブリュリュリュリューーーーブボボっ!!!
ガスが勢いよく肛門をこじ開けたと思うと、その後は、もう止めようもない激しい勢いで、大量の下痢が噴き出していった。
そして、溢れ出す熱い下痢便に体温を奪われるように、濡れた全身が一気に冷たくなって震えるのを感じながら、優香は目の前が暗くなり、意識を失った。
意識を失う瞬間、おぼろげなから感じたのは、倒れ込んで床に強く打ちつけた額と下腹の痛み、手をつこうとしてタイルの上で滑った掌の熱いひりつき、頭への鈍い衝撃、水着越しにも下腹に伝わるタイルの床の冷たさと固さ、水着のお尻の辺りから漏れ出して、グチュグチュと太ももに広がっていく熱い下痢便の感触だった。