膠着と焦り(1) 病院で(中学1年生2月)
少しだけ、病院での浣腸の前処置の描写があります。
年末。
クリスマス休暇で、母と新しい父が半年ぶりに帰国し、年末年始を家族4人で過ごした。
「元気にしてた? 困ったことはない?」
母に聞かれたが、新しい父と、新しい環境で忙しくしている母に遠慮して、優香は「元気だよ」と答え、意識していつも以上に元気に振る舞った。
幸い、冬休みの間は、家でのんびりと過ごしたせいか、優香のお腹の調子も安定していた。
お正月が終わると、両親は慌ただしくシンガポールへと帰っていった。
優香もまた学校、部活の忙しい毎日が始まり、次第に便通も乱れていった。
ウサギのようなコロコロの便、ひどい時はそれさえも出ない日が続き、多いときは週に2日、比較的調子が良いときでも2週間に1回は、学校終わりに友井クリニックに駆け込んで、診察、浣腸をしてもらうことが、もう2ヶ月ほど続いていた。
何度経験しても、浣腸への羞恥心や嫌悪感は、消えることなく優香を苦しめ続けていた。
少しでも体質が改善すればと、テレビや雑誌で目にした便秘に効くという体操やお腹のマッサージ、食べ物、シャワートイレを利用したお尻のマッサージまで、できることはいろいろ試してみた。
水分を多めに摂るようにしたり、運動したり、生活にも気を使っていたが、目立った効果はない。
ある日、いつものように浣腸の宣告を受け、診療台で横になって、傍らで準備をする友井医師を待ちながら、優香は聞いた。
「マッサージとか、できることは毎日頑張っているつもりなんですけど、よくならないのは何がいけないんでしょうか…? 食事とか、もっと気をつけないといけないことって何かありますか?」
友井医師は、グリセリン浣腸を袋から取り出す手を止めて言った。
「あまり気負いすぎずに、適度に運動して、よく寝て、何でも美味しく食べること」
「それだけ…?」
「便秘に良いとされている食べ物も、そればかり食べると消化しにくかったり、腸内菌に影響するものだったり。お腹が弱い人は、ひどい下痢をしたり、かえって腸を痛めてしまうものも多いからね。だから食事は気にしすぎないで、よく噛んで、美味しく食べること。あと大切なのは、トイレに行きたくなったら、学校でも、授業中でも、できるだけ我慢せずに、すぐ行くこと。タイミングを逃すと、水分がなくなった便はどんどん硬くなって、出るものも出なくなってしまうからね。もしトイレに行きづらいようなら、担任の先生に相談して、保健室登校にしてもらうこともできるから、必要ならそれも考えてみて」
そんな相談、自分はできそうにない、とは思いながらも、優香は頷いた。
「あとは、出ない時は無理せず早めに浣腸の助けを借りて、ひどくならないうちに処置すること」
「あの…浣腸って、薬局にも売ってますか?」
「売ってるけど、市販のものは注入するためのノズルが短くて、優香さんの便秘の症状には効果が出にくいです。ちょっと難しい話になるけど、便秘には緊張性と弛緩性、直腸性と、いくつか種類があって、それぞれ治療方法が違うんだけど、厄介なことに優香さんの便秘は1つだけじゃなくて、複合的な症状がある。しかも、それぞれが結構重症です」
それを聞いて、優香はショックで黙り込んだ。
「今は思春期で、気を使ったり悩むことも多くて、それが余計に症状がひどくなっているのかもしれない。焦らず、気長に気楽にね。早く治そうと一人で抱え込まずに、出ない時、しんどい時はここに来て、頼ってくれたら良いからね」
励ますように友井医師は言って、
「さあ、早く出してしまってすっきりしよう」
優香のお尻にかけたタオルをめくった。