熱の夜(b)(中学3年生6月)
浣腸、排泄の描写があります。
金曜日の夜、優香は数日ぶりに一人きりで眠った。
部屋に真斗の気配がないことに心細さがあったが、それ以上に一人になって落ち着きたかった。
今日起こったこと。衝撃が大き過ぎて混乱し、所々はっきり思い出せなくて、夢の中のことのように思える。
あれは、全部本当に起こったことなのだろうか。
目が覚めてリビングに行くと、なぜか先生がいて……。
どうして……? やっぱり先生がいたのは夢?
パジャマの隙間から手を入れて、お腹の辺りに触れてみる。
おへそまですっぽりと覆っている紙オムツのギャザーが手に触れて、カサカサと音を立てる。
いつからオムツをつけているのだろう。パンツ型のものだから、自分で穿いたはずだけれど……。
お腹からお尻にかけての鈍い筋肉痛のような痛みは、浣腸を受け激しく排泄した後で、しばしばある感覚だった。
確か、エネマシリンジといういやらしい器具を使って、お湯で浣腸したら、少し気持ちよくなって……。
浣腸が気持ちいいなんて、やっぱり全部夢なのだろうか。それならこの痛みと、オムツはいつから……?
思いを巡らせるうちに、激しい排泄の疲れから、優香は眠りに落ちていた。
翌朝。
平日よりも少し遅い時間に目を覚ました優香は、顔を洗おうと洗面所に入った。
その時、何気なく目をやったバスルームの半透明のガラスの向こうに、オレンジ色のものが見えた。
何だろう…?
バスルームのドアを開けてみると、そこに吊るされていたのは、あの毒々しいオレンジ色のエネマシリンジ だった。
それが目に入った瞬間。
優香の脳裏には、水が張られたバケツにプカリと浮かんでいたエネマシリンジ 、その横のゴミ袋、真斗から手渡された着替えのズボンと紙オムツ、バスタブに寄りかかるように四つん這いになり、汚れたお尻をシャワーで流してもらったこと、尻餅をつくように廊下にへたり込んだ瞬間、お尻に広がっていった熱く気持ち悪い感触とひどい臭い、「続きは、また学校で話そう」という先生の声が、次々にフラッシュバックした。
全部、夢じゃなくて、本当に起こったことなんだ……。
ふらふらとリビングに入ると、真斗がいて、コーヒーの匂いが漂っていた。
何か体調のことなどを聞かれて答えた気がするが、また頭がぼんやりとしてきて、よくわからなかった。
ただ、いつも以上に心配されている気配がひしひしと伝わってくるので、大丈夫なように振舞わなくてはいけないように思えてきて、用意してもらったヨーグルトやパンケーキを無理やり食べるうちに、本当に少し元気になってきた気がした。
無理やり食べたせいで加減がわからず、食べ過ぎてしまったのか、食後しばらくするとお腹がゴロゴロして下ってきたが、トイレに駆け込んで出し切ってしまうと腹痛も落ち着き、それほどひどい下痢ではなさそうだった。
「お腹の具合、まだかなりひどい?」
トイレからリビングに戻ると、真斗に心配げに訊かれた。
「ううん、大丈夫」
下痢の具合を訊かれ、心配される恥ずかしさと、これ以上心配をかけたくない気持ちで、いつものようにごまかしてしまう。
「下してるんじゃないの?」
「……ちょっと下したけど、もう大丈夫」
「張って苦しかったり、気持ち悪くはない?」
「うん、もう大丈夫だから」
最後は恥ずかしさが強くなって、会話を打ち切るように優香は言った。
その日の午後から夜にかけても、腹痛と下痢で何度かトイレにこもったが、こもる頻度や時間は徐々に減り、体調は良くなりつつあった。それにつれて、気持ちも少し明るくなり、元気が出てきた。
いつまでも沈んでいても心配されるし、漏らしたことを心配され続けるのも恥ずかしい。もう昨日のことなんて忘れたように振舞おう。
翌朝の日曜日。
体調も心も、すっかり大丈夫なように振る舞ったことで安心したのか、真斗は予定があると言って出かけて行った。
ここ数日、自分の看病や通院のために、散々予定を犠牲にさせたことは自覚しているので、そろそろ出かける用事もあるだろう、と優香は納得しつつも、寂しさもあった。
一人きりで家にいると、だんだん心細く、不安になってくる。
明日から無事に学校に登校して、先生と顔を合わせられるだろうか。テストは受けられたものの、その後2日も休んでしまったので、授業についていけないかも……。予習をしようにも、もう学校の授業がどこまで進んでいるかもわからない……。
そんなことを考えていると、お腹がギュルギュルと鳴って、締め付けられるように痛くなってきた。
トイレに入って息んでみても、ガスが少し出るだけで、少しも楽にならない。
優香は何度もトイレに通いながらも、リビングに戻ると、お腹をさすって気を紛らわせて、できるだけ勉強に集中しようとした。
夜になり、夕食を食べ終わって、何度か中断してトイレに通いながらも、片付けを済ませ、お風呂に入る頃になっても真斗はまだ帰ってこなかった。
「そんなに遅くならずに帰ってくるつもりだから」と言っていたけれど、遅くならないうちって、何時までなんだろう……。
不安な気持ちを紛らわせるため、気に入っている入浴剤を入れてゆっくりとお湯に浸かっていると、温めたのがよかったのか、お腹がゴロゴロするのは治まってきた。少し安堵してお風呂から出て、髪を乾かし、再びリビングで問題集を開いたが、疲れてしまったのか、ぼんやりとしてきて、問題が頭に入らない。
問題文を何度も読み返していると、不意に、
「ただいま」
と聞き慣れた声がしてリビングの扉が開いた。
「まだ勉強してたのか。…熱があるんじゃない? 熱がある時の顔をしてる」
お帰り、と言う間もなく、顔を見るなりそう言われて、驚き、また不安になった。
「え……顔がおかしい? 変な顔になってる?」
「変じゃないよ。でもいつもと違うから、見たらわかる」
真斗が少し笑いながら言うのを聞いて少し安心したが、熱がある顔ってどんな顔だろう、と思う。
「もう寝なさい」
と言われて、勉強にも疲れていたところだったので、ペンを置いて問題集を閉じたけれど、まだ眠る気にもなれず、優香はそのまま立ち上がらずに、ぼんやりとリビングの入口に立つ真斗を見上げていた。
「どうした? 抱っこ?」
と思いがけず言われて、嬉しくなり、甘えたくなって頷いた。
真斗が近寄ってきて屈み込み、おでこに大きな手のひらが当てられる。
自分では熱があるような気はしなかったので、熱がないことがバレてしまうと心配したけれど、真斗は何も言わずに抱き上げてくれた。
それで安心して、首元に手を回し、ぎゅっとしがみついて胸元に身体を寄せると、
「そんなにしがみつかなくても大丈夫だよ。落とさないから」
と言われたけれど、温かい胸元にくっついていたくて、優香は手の力を緩めずに、そのままぎゅっとしがみついていた。
もう少しそうしていたかったけれど、部屋に入ってベッドに優香の身体を下ろすと、真斗は背中を軽くトントンと叩いて、
「体温計を取ってくるから」
と言って、優香をベッドに座らせた。
リビングから戻ってきた真斗に手渡された体温計を脇にはさむ。
ピッと電子音が鳴ると、自分で数字を確かめるよりも早く、真斗が体温計を取り上げたので、優香は自分の熱がどれくらいなのかわからなかった。ただ、
「よく寝たら、きっと明日の朝には下がっているから、ゆっくり休んで」
という真斗の言葉から、たいした熱ではないことはわかった。
けれど、もう少し側にいてほしくて、咄嗟に、
「寝られない。熱っぽいから、熱冷ましのお薬して」
と、口にしていた。
真斗は少し驚いたようだったが、
「解熱の坐薬は、もう少し熱が高くないと使えないから、今は無理だよ」
と言った。
予想通りの真斗の返答を聞きながら、何かもう少しここにいてもらう口実はないかと、優香が思いを巡らせていると、
「浣腸をしてみる? お腹が張っているなら、浣腸でスッキリしたら少しは熱が下がるから」
と真斗は続けた。
「うん……してほしい」
優香は咄嗟にそう答えた。
「お腹が苦しい?」
実際にはそれほどお腹が張っている感覚はなかったが、優香は頷いた。
真斗の手が下腹に当てられ、手のひらで軽く圧迫される。
便秘の時なら苦しくて仕方ないが、今は特に痛みはない。
浣腸は必要ない、と言われるかもしれないと思ったけれど、しばらくして手を離した真斗は、
「用意してくるから少し待って」
と言って立ち上がり、部屋を出て行った。
優香は、浣腸してもらえそうだとわかって、安堵している自分自身に驚いていた。
あんなに恥ずかしくて、苦しくて、惨めで、大嫌いな浣腸……。
いつも、どうにかして避けたいと思っていたのに、嘘をついてまで浣腸をされようとしている。
ただ少しでも長く、側にいてもらいたくて。
「準備が出来たよ」
ベッドに運ばれて降ろされた時の姿勢のまま、ベッドに腰掛けていた優香は、もう一度真斗に抱きかかえられて、トイレの前に敷いたタオルの上に寝かされた。
お湯を張った洗面器に浸されていたのは、あのいやらしいエネマシリンジではなく、見慣れたグリセリン浣腸器だった。優香はホッとしているのか、残念に思っているのか、自分でもよくわからなかった。
横向きに寝かされ、パジャマのズボンとショーツを腿の辺りまで下ろされると、優香は身体を丸めて、お尻を突き出す浣腸の体勢になった。
お尻が大きく開かれ、晒された肛門に、べっとりとしたワセリンが伸ばされていく。まだ少し下痢気味なので、その刺激で催しそうになり、必死で堪えた。
「浣腸器のノズルを入れるからね。口から息を吐いて、お腹を楽にして」
ノズルの先端が肛門にピタリと押し当てられると、また便意が強まり、優香は、
「うっ……」
と固い呻き声を漏らして、身体を強張らせた。
「薬を入れるから、力を抜いて、口から息を吐いて、お腹を楽にね」
直腸に注入されていく浣腸液の異物感で、便意は一層強まり、自分の顔が苦痛でゆがんでいるのがわかる。
「全部入ったよ。ノズルを抜くからね」
ゆっくりとノズルが抜かれ、トイレットペーパーで肛門が拭われると、優香はもう我慢できなくなって呻いた。
「…うぅ……うっ……お腹痛い。……もう…出ちゃいそう……」
もともと下痢をしているので、下腹からはギュルギュルと大きな蠕動音が響き、肛門は今にも爆発してしまいそうだった。
「少しだけ我慢しよう。自分で押さえられる?」
重ねたトイレットペーパーの上から肛門を押さえるように、真斗に右手を誘導されると、優香はすぐに左手も重ねて、両手で肛門を強く押さえつけた。
「うっ…うぅーー……出ちゃう……」
必死で押さえていても、今にも大きく開きそうな肛門に、優香は涙ぐみながら、うめき声をあげた。
「もう大丈夫だよ」
肛門を押さえる手の上から真斗の手が添えられ、身体を起こすのを手伝ってもらう。支えてもらいながらトイレに入り、どうにか便座に座らせてもらって、お尻から手を話した瞬間、
ビュッ! ビチューーーーーーーーっ。ぐちゅっ。ビュびゅっ。クチューーーーーーーー。
浣腸液と水様便、ガスが混ざり合って、爆発するようにお尻から迸った。
「…ハアハアハア……んー…んーー」
優香は激しく下しながら、お腹を絞られるような痛みに息を荒げ、便器の上で上体をかがめて苦しんだ。
「強く息んだら駄目だよ」
背中をさする真斗の声が聞こえるが、肛門が大きく開いて直腸が痙攣するように動き、自分でも息むのをやめられない。
「…うぅ……うっ……うっ…うぅーー……んーーんーー!……ハアハア……痛いよお…」
うめき声とともに絞り出す便は完全に液状で、びゅっと勢いよく、何度も何度もこぼれ出て、優香はつらさで最後は泣き声になって呻いた。
便秘で詰まっているわけでもないのに、嘘をついて浣腸をしてもらった罰なのだろうか。
痛みと苦しみで崩れそうになる身体を、真斗の両手が支えていた。
ブチュッ……ブチュブチュ……ブリュッ……ブリュッーー……ブシューーーーーーーー。
下腹と背中をさすってもらいながら、水っぽい排泄音を何度も響かせた後で、優香はようやく排泄と腹痛が落ち着いて、荒かった呼吸が次第に静まるのを感じながら、ゆっくりと上体を起こした。
「少し落ち着いた?」
真斗の声に頷くと、真斗は優香の下腹と背中に添えていた手を伸ばして、両腕で包むようにして優香の身体を抱き寄せた。
ああ、こうして欲しかったんだ。
温もりの中で、痛みも、寂しさも、不安も消えて行くような気がした。
「……ありがとう」
優香は自分の傍に跪く、真斗の耳元に唇を寄せて言った。
抱き寄せる腕に力が込められると、一層暖かく感じて、優香は腕の中で目を閉じていた。