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体調不良(5)(梨沙)

浣腸、排泄の描写があります。

「梨沙、大丈夫?」


 何か返事をしなければと、倒していた上体を起こすと、目の前が暗くなり気を失いそうになる。


 こんな姿のまま、ここで倒れるわけにはいかない……。


 梨沙はどうにかお尻を拭い、膝まで下ろしていたズボンとショーツを引き上げると、気力を振り絞って立ち上がった。そして、少し茶色くなった水にトイレットペーパーが浮いているだけの便器の水を流し、へしゃげた浣腸の容器をトイレットペーパーでくるんで汚物入れに捨て、何度も入念に手を洗った。


 全身にびっしょりと冷や汗をかいているせいか、寒気がして脚が震え、力が入らない。よろめきながらトイレから出たところで、ぐらりとフラついて体勢を崩し、床に倒れ込みそうになったところを、真斗に抱きとめられた。


「大丈夫か…?」

 問いかける声に返事もできないまま、抱きかかえられて部屋まで運んでもらい、ベッドに寝かされる。汗でべったりと背中に張り付いた部屋着が気持ち悪い……。


 そう思っていると、部屋着が脱がされて、身体がタオルで拭われていった。

 恥ずかしい、と思う余裕もなく、梨沙はぐったりと身を任せているうちに、意識が途切れていった。


 気がつくと、パジャマに着替えさせてもらって、仰向けでお腹をさすられていた。ひどい下痢のような痛みと悪寒は少し和らいでいたが、便秘による鈍痛と膨満感はそのままだった。


 1週間分の便とガスでパンパンになり、ぽっこりと張っているお腹をさすられていることが恥ずかしく、梨沙はとっさに起き上がろうとしたが、下腹はまだギュルギュルとうごめき、身体にうまく力が入らない。


「トイレ?」

 モゾモゾとした動きに気づいた真斗に、そう聞かれて、梨沙は無言で力なく首を左右に振った。


「うまく出なかった?」

「うん……」

 今度は頷いて、少しためらったのち、言葉を続けた。

「お腹は痛いのに……全然出ないの……。薬もほとんど入らなくて……お腹の中で詰まって固まってしまってるみたい……。どうしよう……」


 飲み薬で解消できずに、切羽詰まって使った浣腸さえも効果がなかったことで、不安な気持ちを抑えきれず、最後は涙声になりながら梨沙は言った。


「しばらく休んで、落ち着いたらもう1回浣腸してみよう。もうひとつ残っているから」


 もう一度繰り返したところで、改善するようにも思えなかったが、否定する元気もなく、梨沙は黙って提案を受け入れるしかなかった。


 1時間ほどベッドで休み、貧血のような状態から回復して、ようやく起き上がれるようになった梨沙は、もう一度浣腸に挑戦することにした。


 さっきと同じように、トイレに入って一人でするつもりだったが、それではまた同じことになると真斗に諭された。


「横になってした方が腸の奥の方まで薬が入るし、我慢もしやすいよ。しっかり我慢して、時間をおいてから出さないと、さっきみたいに薬だけ出てしまって余計に苦しくなる。今度はギリギリまで我慢できるように、手伝うから」


 自分ですると抵抗したが、真斗は梨沙に背を向けて、トイレの前で準備を始めてしまった。


 床にバスタオルを重ねて敷き、脇にトイレットペーパーやゴミ袋の準備を整えて、箱から取り出した浣腸容器を、お湯を張ったマグカップに浸しながら真斗は言った。


「さっきもちゃんと温めて使った?」

「ううん、そのまま」

「気持ち悪くなかった? 温めた方が異物感が少なくて我慢しやすいし、お腹が痛くなりにくいから」

「そうなの……?」


 確かに説明書には使い方の工夫が書かれていたけれど、さっきは切羽詰まっていたのと、気恥ずかしさでさっさと終わらせてしまいたい気持ちが強く、最低限の用法しか読まずに使用してしまったのだった。


「ワセリンか、オイルか、何か潤滑剤に使えるものはある?」

「うーんと……」

 梨沙が少し考えてから、いつも使っているボディクリームを洗面台から取り出して手渡すと、

「さっきは何もつけずに挿れたの? 傷つけなかった?」

 そう訊かれ、自分のガサツさを指摘されたようで、梨沙は少し恥ずかしくなって、無言でうつむいた。


「さあ、準備ができたから、壁の方を向いてそこに横になって」

 言われた通りに、重ねられたバスタオルの上に横たわる。

「下ろすよ」

 パジャマのズボンとショーツが膝のあたりまで下ろされ、真斗の方に向けているお尻がむき出しになる。

「膝を抱えるように、身体を丸めて」

 ぐっとお尻を突き出すような体勢になる。恥ずかしさで、自分が耳まで赤くなっているのがわかる。


 真斗が気を遣って、股間から太ももにかけて、タオルを被せて覆ってくれた。

 お互いに何度も裸の姿を見ているけれど、自分だけがお尻を出した姿というのが、どうしても恥ずかしい。便秘のつらさだけでなく、この恥ずかしい状態から一刻も早く解放されることを、梨沙は願った。


 真斗の手でお尻がぐっと開かれる。露わになった肛門が真斗の目に晒されていると思うと、恥ずかしさで気がおかしくなりそうになる。それなのに、真斗は普段と変わらない落ち着いた声で淡々と言った。

「クリームを塗るからね」

 使い慣れたボディクリームの匂いが広がり、肛門の襞にって丁寧にクリームが伸ばされる。それだけでも恥ずかしいのに、

「内側も少し触るよ」

と言って、真斗はほんの少しだが、クリームをつけた指先を、ぬるりと肛門に挿し入れた。


「……うぅー。やめて!」

 梨沙は思わず声をあげて、身を固くした。

「痛い?」

「ううん……痛くはないけど……手が汚れちゃう」

「大丈夫だよ、手なんて洗えば済むんだから。こうしておいた方が痛くないし、浣腸した時、異物感が少なくて我慢しやすくなるからね」

 内側を少しほぐしてから、真斗は肛門から指先を抜き、代わりに蓋を外した浣腸器の先端をピタリとあてた。


「身体の力を抜いて、リラックスして。口呼吸でゆっくりお腹から息を吐いて」


 そう言い終えると、浣腸容器の先端が肛門の中へとゆっくりと挿し入れられた。痛みはないが、形容しがたい異物感と気持ち悪さで、梨沙は思わずぎゅっと目をつぶった。


「……入ったよ。今から薬を入れるからね。口を開けて、口からゆっくり息を吐いて」


 言われた通り口から息を吐くと、呼吸に合わせて、じんわりと温かい浣腸液が肛門から直腸へと入ってくる。


 グチューー……グチュッ……グチュッ……


 何度か容器を握り直しながら浣腸液が注入され、

「全部入ったよ……。容器を抜くから、溢れないようにお尻を締めて」

 シュポンと音を立てて容器が抜かれ、すぐにトイレットペーパーで肛門が拭われた。

「このまま少し我慢しよう」


 グル……ギュルギュルギュルーーー……グルグルっ

「うぅー」

 下腹が大きな音を立てて蠢き、梨沙は思わずうめき声を漏らした。

「もう少しだけ頑張ろう。押さえようか?」


 もう恥ずかしいと思う余裕もなかった。歯を食いしばり、額に脂汗を浮かべながら頷いて、重ねたトイレットペーパーで、今にも開きそうな肛門をしっかりと押さえて圧迫してもらう。


「あと3分だけ我慢しようか」

 頷く僅かな刺激でさえ、肛門が決壊してしまいそうで、梨沙は身じろぎもせず、腹痛と便意に耐えていた。


「そろそろトイレに行こうか。押さえているから、ゆっくり起き上がって」

 横になっていても頭から血の気が引いているのがわかる。お尻を押さえてもらったまま、もう片手で身体を支えてもらってどうにか起き上がり、膝に下ろしていたズボンとショーツを引き上げると、梨沙は這うようにしてトイレに入った。


 抱き上げて便器に座るのを手伝ってもらい、

「一人で、大丈夫だから……」

 やっとのことでそれだけ言って、真斗が背を向けてトイレから出てドアを閉めるのを見届けると、梨沙はショーツごとズボンを下ろして、必死で閉じていた肛門を緩めた。


 次の瞬間、溜め込んだ1週間分の便が、堰を切ったように溢れ出した。


 それは、大雨で氾濫し、周囲の岩や木も巻き込んで流れて行く、荒れ狂う濁流のようだった。大量の硬い便が肛門を痛めつけながら溢れ落ち、間髪入れずその後には泥状の便が続く。


「…ハアハア…ハア」

 梨沙はひどい下痢の時のように喘ぎ、上半身をかがめた。


 最後は水のような便がガスとともに噴出し、その音は奥の居室どころか、隣家にまで響き渡りそうなほどだったが、激しい排泄の勢いは、自分でもどうすることもできなかった。


 激しい排泄による消耗で、梨沙はしばらくの間、便器の上で上半身をかがめたまま、身体を起こすことさえ出来なかった。


 なかなかトイレから出られない梨沙を心配して、真斗が何度かトイレの前まで来てドアをノックしたが、その度に梨沙は、

「大丈夫だから、向こうの部屋にいて。お願い……」

 そう言って、真斗を居室へと遠ざけた。


 学生向けの安普請のマンションで、扉1枚隔てたところで、音は聞こえてしまっているだろうと分かってはいたが、それでもトイレのすぐ横に居られるのは、ひどい音と臭いを思うと、耐えられなかった。


 長い排雪を終え、ようやくトイレから出て部屋に戻った梨沙に真斗は言った。

「お腹は落ち着いた?」

「…うん」

「身体は? 少し楽になった?」

「…うん、すっきりした。ありがとう」

「よかった」

「ごめんね。コーヒーでも淹れようか」

 改めて恥ずかしくなって、その場を取り繕うように、梨沙は言った。

「しばらく横になるか、座って休んでいた方がいい。浣腸した後は、血圧が下がって倒れてしまうこともあるから。飲みたいなら淹れようか?」


 ベッドにもたれて座り、淹れてもらったカフェオレを飲みながら、梨沙は言った。

「本当にありがとう。ごめんなさい、こんなことを手伝わせてしまって……」

「大丈夫だよ。具合が悪い時は、もっと甘えたらいいんだよ」


 体調が良くなった安心感で、梨沙は思い切って、気になっていたことを聞いてみることにした。

「家でも、妹さんに、あんな風にしてあげてるの?」

 真斗は飲みかけていたコーヒーカップを口元から離して言った。

「どうして?」

「詳しいし、慣れていたから」

 一瞬の沈黙の後で、真斗は言った。

「うん、してるよ。自分では、できないというから」

「そっか……」


 半ば思っていた通りの答えなのに、その答えに、梨沙は自分でも驚くほど動揺していた。沈黙の中、何か言葉を続けようとして、

「変な気分にならないものなの?」

 そう口に出してしまってから、こんなことを言うべきじゃなかった、こんなことを言いたいんじゃないのに、と後悔しても、もうどうしようもない。


 梨沙の動揺に気づいているのか気づいていないのか、真斗は淡々と言った。

「あの子には欲情しないよ」

「中学生でしょ? 今はそうでも、こんなことをずっと続けてたら……」

「何歳になっても関係ない。欲情しないのは、あの子が子どもだからじゃなくて、そう決めてるからなんだよ」

「決めて、そうできるものなの……?」

「あの子は俺の他に頼れる家族がいないんだよ。……前に、両親が数日間日本に帰ってきた時、母親もすぐ向こうの部屋にいるのに、母親には言えずに俺を頼ってきたことがあって……。その時のことが忘れられないし、そんな相手に性欲を向けることはできないだろう」


 真斗の言葉は、微妙に自分の質問をはぐらかしている。

 そして、望まない性欲なら確かにそうかもしれないけれど、相手が望んでいるのなら……?


 そんな言葉を飲み込みように、梨沙は黙ったまま、カフェオレを一口飲んだ。

 この温かい液体が、胸に浮かんだ疑念を溶かしていってくれることを願いながら。





 


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