便秘治療(14)(中学3年生5月)
排泄、坐薬の描写があります。
真斗が買い物に出たのは、いつも処方された薬を受け取っている、近所の調剤薬局だった。
今日は処方箋の受付ではないので、真っ直ぐに陳列棚に向かい、買い置きが少なくなっていたお尻拭きのウェットティッシュや消毒液、消臭剤、経口補水液などをカゴに入れていく。
必要なものを一通りカゴに入れると、オムツが陳列されたコーナーに向かった。
ずらりと紙オムツが並ぶ棚の前で、いくつか商品を手に取りながら見比べていると、
「紙オムツをお探しですか?」
背後から店員に声をかけられた。
振り向くと、店内で時々見かける、ベテラン店員と思しき白衣姿の中年女性だった。
「普段使っている製品があったんですが、漏れ出てしまって…。もっと分厚くて吸収力があるものがあればと思って」
「夜間の介護とかですか? 大変ですね」
「介護というか、ちょっと具合が悪い時に、一時的に使うだけなんですが」
「そうなんですね。漏れてお困りなのは、お小水? 便?」
「便です。下痢がひどいせいで、軟便が漏れてしまって…」
デリケートな話題でも、よく通る声のトーンのまま次々質問する店員に、以前優香が苦手にしていたのはこの人かもしれない、と思いつつ、真斗は答えた。
「今はどんなオムツをお使いですか?」
「この商品です」
何度か購入しているパンツ型の商品を指差すと、
「ああ、パンツ型のものですね。これは薄さを特長にした商品なので、その分吸収力はあまりないですね。便が漏れたのは背中の方ですか? 脚回り?」
「脚の方からです」
「そう、それは大変でしたね。この製品も脚回りはギャザーになってるんですけど、下痢の量が多かったり、出る勢いが強いと、重みで下がってしまって隙間ができて、そこから漏れてしまうんですよね」
真斗の脳裏には、激しい下痢の勢いに屈するように、廊下に屈み込んでいった優香の姿が鮮明に蘇った。
「それから、泥のような下痢だと、液体と違ってオムツにしっかり染み込まなくて、漏れやすいんです。だから、漏れを防ぐには、軟便専用のパットを追加して使うか、脚の回りでしっかりガードする作りになっているものを使うかですね。パットは、ずれてしまうとそこから余計に漏れることがあるので、下痢がひどいなら、軟便に適したオムツにするほうがいいでしょうね。こちらの製品なら、脚回りまでしっかりガードして吸収するので漏れにくいですよ」
勧められた商品を手にとって見ると、サイドテープで止めて固定するオムツのようだった。
「これは一人でつけたり、外したりはできますか?」
「患者さんが自分で? できなくはないけど、あてかたが緩かったりずれていたりすると、結局漏れてしまうので、具合が悪いなら、介助してしっかりあててあげる方がいいですね」
優香の自尊心と羞恥心を思い、この商品を購入してよいものかと真斗がためらっていると、
「赤ちゃんのように足を持ち上げてオムツを当てるのではなくて、横向きに寝てもらって背後から介助するやり方なら、患者さんも介護する人も、負担が少ないですよ。立てる患者さんなら、トイレで洗面台や便器の蓋に手をついてもらって体勢を安定させて、背後にまわって身体を支えるようにしながら、お尻の方から股の間を通すようにしてオムツをあててもいいです。横からテープでしっかり固定してあげて。慣れたらそんなに時間もかからずできますよ」
立ってあてる方法にしたところで、恥ずかしく感じるだろうとは思ったものの、ほかに方法もない。
真斗は勧められた商品の一番小さいサイズを購入して店を出た。
家に戻ると、ひっそりと静まり返っていて、廊下には掃除で使った除菌スプレーのケミカルな匂いが漂っていた。
起こさないように静かに優香の部屋のドアを開けたが、そこに優香の姿はなかった。ベッドは出かける前に整えたままの状態で、横になった跡もない。
静まり返った廊下に戻り、気配はないものの電気が点いたままになっているトイレのドアを、念のためノックしてから開けると、そこには青ざめた顔で、便器に腰掛けて震えている優香の姿があった。風呂場から飛び出してトイレに駆け込んだ時のまま、薄いブルーのパジャマ姿で、下半身は何も身につけていない。
外は5月の陽気だったが、窓のないトイレの空気はひんやりとしていて、屈み込んでむき出しの優香の膝のあたりに触れると、冷たく冷え切っていた。
やはり冷たい背中とお腹を、慌ててさすりながら、
「ずっとトイレにいたの? お腹の具合は、まだ随分ひどい?」
と聞くと、優香はゆっくりと首を左右に振って、震えるような、か細い声で言った。
「ちょっと落ち着いてきたんだけど……。また急に出ちゃって、部屋やベッドを汚したら大変だから…」
「大丈夫だよ、ベッドは汚れないようにしてあるから。ちゃんとそう言って出かけたらよかったね…。こんなに身体が冷えきるまで、ここにいると思わなかったから……ごめん、早く部屋で温かくして休もう」
片手で背中を、もう一方の手で氷のように冷えた太ももをさすりながら真斗が言うと、
「でも…」
オムツから漏れだしてしまったことが余程ショックだったのか、優香は激しく首を横に振って、便器から立ち上がることを拒絶した。
「大丈夫だから…」
真斗は一旦廊下に出て、買ってきた紙オムツのパッケージを開け、1枚取り出した。
トイレに戻った真斗が手にしているものを見て、優香はギョッとした。
それは、今まで使っていたものよりも、ずっと大きくて分厚い、赤ちゃんがあてるような形の紙オムツだった。
いつもの紙オムツは、足とウエスト周りがギャザーになっていて、普段の下着よりは大きく、少し形状が違うものの、使い捨てのパンツと言えなくもない。実際、初めて使った時に真斗にそう説明されていたし、修学旅行先では中原先生も同じようなことを言っていた。でも、これは…。
優香の様子を見て、真斗は言った。
「これを使うのは、嫌…? でも、このままそんな姿でずっとここにいたら、身体が休まらないし、冷え切って余計にひどくなってしまうよ。今だけは使って、ベッドでゆっくり休んで、早く治そう」
優香はしばらく黙り込んでいたが、優しく諭す真斗に反論もできず、結局は頷いた。
「じゃあ、いったんお尻をきれいにして、立ち上がって。トイレの蓋を閉めて、その上に両手をついて」
優香は言われた通り、シャワートイレを使ってトイレットペーパーでお尻を拭うと、立ち上がって便器の蓋を閉めた。そして、真斗に背を向けるようにして、蓋に手をついて上体を屈め、お尻を突き出すような格好になった。
「もう少し脚を開いて」
恥ずかしさを堪えて言われた通りにすると、背後から股の間を通してオムツがあてられていった。お尻からお臍の上まですっぽりと覆われ、テープで両側からしっかりと固定される。
オムツをあててもらい、モコモコと膨らんだ自分の下半身を見ると、優香は改めて恥ずかしく惨めな気持ちになったが、同時に暖かな安らぎのような安心感にも包まれていた。
手を洗い、真斗に付き添われて数時間ぶりにトイレから出ると、汚してしまった廊下はきれいに掃除され、除菌スプレーの匂いだけが漂っていた。
「掃除ありがとう…。大変だったでしょう…。ごめんなさい」
「いつも言ってるけど、具合が悪くなることや、具合が悪かった時のことを、謝らなくていいんだよ」
「でも……私が食べたいって言ったものを、用意してもらったのに…」
そこまで言うと、優香の目から涙が一筋こぼれて頬を伝い、震える声で優香は続けた。
「廊下も汚して…作ってもらったものも、全部……垂れ流してしまって…」
「そんな、自分を卑下するような言葉を使うな」
真斗は静かに言って、優香の肩に添えていた手に少し力を込めて、優香を自分の胸元に抱き寄せると、柔らかな髪を軽く撫でた。
「急にたくさん食べないほうがいいから、プリンは一口だけにしておいたらと言おうとして、美味しそうに食べてるから、言い出せなかった。ごめん…」
胸元に顔を埋めるようにしてもたれかかっていた優香が、少し笑ったのが、漏れ出た吐息で伝わってきた。
「さあ、いつまでもこんな所に立っていないで、ちゃんとパジャマも着て、暖かくしてベッドに入って」
長時間下半身を露出していたせいで冷えてしまったのか、夜になると優香は一層ひどく下し、熱も上がってしまった。
まるで冷水を浣腸されたかのように、お腹の中が冷たく、ギュルギュルと大きな音を立てて腸がうごめいた。途切れる暇もない激しい腹痛と便意に、優香はトイレに向かうこともできずに、ベッドの上で、あててもらった分厚いオムツが、泥のような大量の下痢を受け止めていくのを感じていた。
グチューーーっ。ブリュッ……むリュむリュむりゅっ。
オムツ越しにくぐもった音が響きわたる。
真斗は、何度も優香のオムツを替え続けた。
そうするうちに、出るものも出尽くしてきたのか、優香の下痢の勢いは少し弱まってきたが、熱は上がる一方で、体温計の数字は39度を超えていた。
額に浮かぶ汗を拭きながら、真斗が、
「つらい? 坐薬をしようか。下痢で出てしまうかもしれないけど、少しは吸収されるだろうから」
と尋ねると、優香は嫌がることもなく「うん…」と答えた。
「トイレに行く?」
「…目が回って…起き上がれそうにないから、ここでしてほしい…」
熱で目を潤ませて、囁くような、か細い声で言う優香に、
「わかった。ここでしよう」
真斗は言って、布団をまくり、優香の身体を浣腸をする時のように左側臥位にして、腰の下にビニールシートを敷いてから、パジャマのズボンを脱がせた。
新しいオムツを広げてから、着けていたオムツのテープを剥がして開き、無残に汚れてしまったオムツを交換する。おしり拭きで隠部を前の方から肛門にかけて拭い、汚れが広がってしまったお尻の方まできれいに拭いていった。
「気持ち悪くない?」
「…うん」
「このまま坐薬を入れるよ」
「うん……お願い…」
肛門をほぐすため、ワセリンをつけた指でマッサージしてから、指先を少し挿し入れると、高熱で汗をかいているせいか、ウェットティッシュで拭き清めた直後のせいか、そこはいつもよりもしっとりと湿り、抵抗なく指先が吸い込まれていくようだった。もっと奥の方までするりと入ってしまいそうな指先を慌てて抜き、代わりに包から取り出した坐薬の先端を肛門に当て、ぐっと押し入れた。
少し動揺していたせいで、いつものようにワセリンを坐薬につけていなかったことに気づいた時には、坐薬に添えた薬指の第2関節まで、抵抗なく肛門内に吸い込まれていた。
「んー…」
優香の口元から漏れた微かな声は、苦痛とも安堵ともわからないものだったが、いつも坐薬や浣腸のたびに漏らしていた「うっ…」という硬く悲痛なうめき声とは異なるものだった。
「痛くない?」
坐薬が出てこないように指を挿し入れたまま、真斗が聞くと、
「うん…平気…」
うっすらと開いていた目を閉じ、熱のせいで荒く熱い吐息の合間に優香は答えた。
優香の熱い体内で、坐薬がとろりと溶け出していくのを指先で感じたような気がした。