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恥ずかしい言葉と治療(中学1年生12月)

今回のエピソードに直接的な浣腸や排泄のシーンはありません。

自分の羞恥心や恥ずかしい治療について、思いを巡らせます。

 日曜日。

 茉莉果と買い物に行く約束をしていた優香は、待ち合わせの公園へと向かった。


 公園の入り口に近づくと、先に着いていた茉莉果が優香の姿を見つけて手を上げ、大きく振った。

「ごめんねー、時間遅らせてもらって」

 待ち合わせの直前に、茉莉果から1時間遅らせてほしいと連絡があったのだった。

「ううん、大丈夫だよ。なんかあったの?」

「うん、朝からお腹ピーピーでさー。トイレにこもってたの。シャーシャーの下痢で、このまま止まらなくて、出かけられなかったらどうしようかと思ったよ」

「そうだったんだ…。大丈夫なの?」

「昨日寝る前にどうしてもハーゲンダッツ食べたくなって、食べちゃったんだよねー」

「この寒いのにアイスクリーム!?」

「うん、お風呂上がりに食べたくなって。一口だけと思ったのに結局全部食べちゃって、そしたら、もう見事に下痢だよ! やっぱり真冬にアイス1カップは無茶だったね!」

 茉莉果はそう言って笑い、優香もつられて笑った。


 優香は、自分の体調、特に下痢や便秘の話題は苦手で、親友の茉莉果が相手でも、自分が下痢や便秘をしているなんて絶対に言えない。

 けれど、茉莉果が明るく言うと、全然嫌な感じはしなくて、健康的な話し方や笑顔は、同性の自分から見ても可愛く魅力的に思えた。

「そりゃそうだよー。もう大丈夫なの?」

「うん、下痢止め飲んだら止まったから、もう元気」

「そっか、よかった」


 屈託なく言う茉莉果を、優香は羨ましく思った。

「お腹ピーピー」「シャーシャーの下痢」「下痢が止まらない」…。どれも優香なら決して口にはしない言葉だ。

 もっと婉曲な表現の「お腹を壊す」「お腹が下っている」「お腹がゆるい」というような言葉さえ恥ずかしくて、病院や家族の前で、どうしても言うしかない場合にしか言ったことがない。

「下痢止め」「整腸剤」「便秘薬」も、どれも恥ずかしくて「お薬」とだけ表現していた。

 そして「浣腸」はもちろん、「便秘」「お通じ」などの言葉も、できれば言いたくなくて、病院でもいつもできるだけ遠回しに表現している。


 自分が気にしすぎなのだろうか。

 変に隠そうとせず、茉莉果のようにさらりと言ってしまえば、そのうち恥ずかしくなくなるのだろうか、と優香は思った。

 どうしても恥ずかしくて、急には言えそうにないけれど。


 それでも。

 こんなに屈託のない茉莉果でも、「浣腸」の話は、少しためらいながら話していたことを思い出す。

 自分は浣腸をされたわけでもなく、提案されただけなのに。


 浣腸、かんちょう、カンチョー…。

 この言葉の響きだけで、どうしてこんなに恥ずかしく感じるのだろう。


 そんな恥ずかしい浣腸の処置を、自分はすでに何度も受けたのだった。

「肛門」はもちろん、「お尻」という言葉さえ恥ずかしいと思うほど、人一倍羞恥心が強いのに、看護師さんやお医者さん、お兄ちゃんにまで、丸出しのお尻を突き出した恥ずかしい姿を見せて、お尻の穴まで晒して、薬を入れて、押さえてもらって…。


 初めての処置では、浣腸後にトイレまで我慢できずに、看護師さんとお医者さんの目の前でひどい音を立てて排泄してしまったことさえ…。


 改めて思い出すと、一度は必要な治療と受け入れた浣腸が、また嫌で嫌でしょうがなくなってくる。

 そんな治療をしなくてはいけない、腸が弱い自分のことも、つくづく惨めで嫌になる。

 中学生にもなって、トイレまで我慢することができなかった情けない自分も、そんな状態になってしまう浣腸という処置も…。

 気づくと、優香は嫌悪感でいっぱいになっていた。


 かんちょう…。本当に、なんて恥ずかしく嫌な響き。

 受けるのももちろん恥ずかしくて嫌だけれど、自分がそんな治療を受けたことを、誰にも知られたくない…。


「どうしたの? 行こ」

 茉莉果に促され、優香はモヤモヤした気持ちを隠して、頷いた。

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