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ひとりの人生は宇宙であり点になる

作者: ぼるしち

自分の体というものが浮遊している最中だと気がついた。つまり、飛んでいる。

僕はどうして飛んでいるのだろうと気が付く前に、すでに宇宙まで遥か浮かび上がっていたような気がしたが、それは錯覚で、実際には地面に顔をつけていた。

飛んだが、落下したということだ。

宇宙飛行士はすごいな。こんなに少ししか飛べない僕と比べたら、彼らは仏様のようなもので、つまり僕とは人間としての出来が違うのだとわかる。

陸上競技は僕には向いていないのだとはっきりわかったのだ。

だから目指すものは次はなんだろう。

そうだ、宇宙飛行士になろう。

とはならない。

僕がなりたいもの、それは不思議な人間であるのだ。そう、そうなのだ。昔から僕には夢があった。その夢はさびしげで切ない夢、だけど本当はひとりぼっちの夢だけど、実はみんな知っているものなんだ。

これは哲学だ。

そう、きっと。

夏が来日した最初の朝に僕は目覚めてすぐにスクワットをしたり、うさぎ跳びをしたり、くるりんぱしたり、ネットサーフィンをしたりしたのだ。

僕は不思議だった。

なぜなら、それらをすべて逆立ちをした状態で行ったのだから。

僕の才能だ。逆立ちしながらなんでもできるのだ。手足も自由に動かせるし、頭だけで逆立ちすることも容易なのだ。陸上競技なんてやめてよかった。僕はこの不思議な夢を抱えてこの世界を渡り歩いていく。

大道芸人ってやつか。

そんなのになりたいわけじゃなかったけど、もしかしたらそんな将来も見えるのかもしれないなあ。

逆立ちでジャグリングをマスターしたい。

逆立ちでリンボーダンスをマスターしたい。

でもわかってほしい。

僕の本当の夢は大道芸人ではないのだ。

僕は理解者が欲しいと思った。だからこれからの目標がわかった。

目標は、理解者を手にすることだ。男でも女でもいい。ペットでもいい。僕の心底からの理解者を手にすることで僕を理解してもらって、それによって次のステップへと進んでいくのだ。

僕を何もできないグズだと罵ったりできないように、もっと芸を磨いておこう。一応ね。

その芸が高じて、僕は宇宙飛行士になるための試験を突破した。

宇宙へと飛ぶんだなあと何気なく思っていたら、いつの間にか飛ぶ日はやってきてしまった。

そして、宇宙へと飛んだ。

僕は不安を抱えながらもロケットで宇宙へと飛んだのだが、その後に宇宙ステーションで理解者と出会った。同じ日本人の牢紗という女の人だ。

僕の逆立ち芸も宇宙では何の意味もなさない。

だけど彼女はいった。

「君はきっと、宇宙よりも大きな人間になれるよ」

そうか僕は大きくなればいいんだとその時稲妻が走ったのをよく覚えている。

大きくなって牢紗を見下ろして、そして尋ねるのだ。

「僕はどこまで大きくなればいいのか、君にならわかる。僕よりも僕を理解している君なら、きっと僕のことをすべて把握しているよね」

彼女は答える。当たり前に答える。そうよ、と。

そんな夢を見ていたのかもしれない。

牢紗は架空の人物だったのか、それとも僕の作り出した幻のようなものなのか、それとも実在する人間だったのか。

大きくなりすぎて記憶さえも曖昧になってしまった。

僕は地球を食べれるほどの大きさになって、宇宙で新巨大生物として君臨した。

はっきりいって最悪だ。

地球の人間からは気味悪がられて、恐怖されて、毎日悪口を言われているような気がする。実際に悪口を言われているのかはわからない。なぜならみんなが小さすぎて声さえもありんこの喋り声のようで、なんにも聞き取れないのだ。これでは牢紗の言うことも聞き取れないだろう。僕はどうすればいい。

宇宙怪獣。まさしく僕はそう呼ばれるような存在なのだ。

なんでこんなに大きくなってしまったのだろう。

理解者がいたから僕はこんなに大きくなってしまったのだろうか。

つまり僕は牢紗を殺さなくてはならなかったのだ。

牢紗に認められたから、僕はこんな姿になってしまったのだ。

そして次の展開が訪れてきた。

「お前を排除する」

そんなことをいいながら現れたのはウルトラ○ンだった。特撮で見てきたのとは違う、なんだかもっと格好の良いウルトラ○ンは、僕を殺そうとした。

だから僕も彼を殺そうとした。殺し合いのはじまりだ。

結果として、僕は殺された。

ちいさくなってしまって、最後には動物園で飼われる存在になってしまったのだ。

これが本当の悲しみ。

次はどうなればいい。次はどうすればいい。

まだ僕の人生は終わらない。

殺されたはずなのに、なぜ動物園で飼われているのだろう。

同じ人間だったはずなのに、いつの間にか動物園で飼われるような存在になってしまった。

牢紗はどこだ。理解者はどこだ。敵は、未来は、幻は、いずこだ。

動物園に空白のメッセージボードがある。

そこに点がついた。

その点が僕なのだとある日気がついた。

僕は点なのだ。

突然ひらめいてしまった。

僕は点である。

そうだ、そうだ、そうだ、そうだ、幻じゃない、僕は僕は僕は僕はぼきうはぼくは


さようなら、牢紗。



僕は、点になってしまってミジンコに食われて、そして空白が訪れる。

脳みそが食われて、さようなら。




僕の人生、しゅうりょう。






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