2018年4月25日
「昨日何かあったのか?」
登校早々に正志が声をかけてきた。
「あぁ・・・昨日はメール返さなくて悪かったな。家に帰ってすぐに寝ちゃってたわ」
「美波ちゃんとは特になにも・・・普通に話して帰ったよ」
昨日起きたことなど言える訳もなく、嘘をついた。
「ふ〜ん・・・まぁちゃんと話したんならいいけどさ」
納得したのかは定かではないが、正志はそのまま席に着き授業が始まった。
昼休みになり、外を見ると美波がまた桜の木の下に立っていた。
桜の木の下にいる彼女は可憐で、風が吹くたびに少し散る花びらが彼女の魅力は一段と引き立てているようだった。
徐に圭一は席を立ち、彼女の元へと向かった。
「昨日のことなんだけどさ」
圭一の声にビクっとした美波が振り返った。
「色々考えたんだけど、やっぱり理解出来なくて・・・」
少しの沈黙があったあと、美波は桜の木に手を触れ、話し始めた。
「この桜の木は一度死んでるんです。」
「私小学生の時にこの桜の木を見て、なんて綺麗なんだろうって・・・心が奪われるってのはこのことなんだろうって思いました。」
「この桜の木と花壇が取り壊されるって話ありましたよね。」
つい最近、俺が高校2年の時に新しい校舎を建てる計画があった。
「あれは確か生徒が嘆願書を集めて、学校側が折れて無くなったってやつだよね、確か生徒会が主体で抗議してたっけ」
「けど実際は嘆願書なんて提出されてなくて、抗議活動もありませんでした。私も気がついた時にはこの木が無くなってて・・・」
「当時の生徒会に私の兄がいました。昨日見てもらった力で桜の木が切られる前まで戻って、兄にお願いしたんです。」
「兄とは仲が良くて、普段ワガママ言わない私が一歩も引かなかったから・・・兄が生徒会の皆さんにお願いして協力してもらったんです」
圭一は言葉を失っていた。
自分が当たり前に暮らしてきた日常は実は当たり前では無く、美波が作ったものだったのだから。
圭一は言葉を絞り出した。
「未来ってそうやって簡単に書き換えられるものなの?俺も良く分かんないんだけど、自分の都合の良いように書き換えられる世界なんて」
食い気味に美波が、
「そんな万能なものじゃないですし、私も無闇矢鱈にこの力は使ってません!人が亡くなる運命は変えられないし・・・」
美波は目に涙を浮かべながら訴えてきた。