2016年3月26日 圭一の過去
彼女の言葉の理解はまだ終わっていなかった。
中学の時に会ってる?大切な人?
これは告白だったのではないかと、やっと理解し始めた頃に俺は目を開けた。
「え?」
目を開けると見覚えのある部屋にいた。
さっきまで一緒にいた美波の姿はない。
頭がついていかない。
周りを見渡すと、パソコン、漫画本、ゲーム機など、この歳の男の子の必需品は全て揃っていた。
「ここって、俺の部屋…」
自分の部屋だと把握はしたが、何故ここにいるかは分からなかった。
「圭一!早くしなさい!」
聞き覚えのある声が家中に響き渡った。
何がなんだか分からない。
部屋の鏡を見ると、今は持っていないが、昔の俺が一番気に入っていた服だ。
ブランドロゴの入ったパーカーに、ジーンズを合わせるのが俺のお気に入りだった。
この服の事はよく覚えている。
「圭一!!」
「は、はい!」
と無意識に返事をした。
周りを見回しながら、階段へと向かう。
俺の家だ、今は空き家で誰も住んでいないが、確かに昔住んでいた家だとすぐに分かった。
階段をゆっくり降りていくと、父と母の姿が確認出来た。
これは夢だろうか?けどさっきまで俺は・・・
と考えている内に母から話かけられた。
「もう準備できたの?圭一がどうしても回らないお寿司を食べたいっていうから予約までしたのよ。入れなくなったらどうするのよ」
「まぁそんなこというなよ、まだ1時間以上余裕があるだろう。今日は圭一の卒業祝いなんだから。そんなことより母さん、髪を巻くっていってなかったかい?」
母は慌てて、洗面台へと向かった。
口うるさい母と、温厚な父のやり取り。
懐かしい気持ちで胸が一杯になった。
ふと、カレンダーに目をやった。
カレンダーには、家族の予定がビッシリ書き込まれており、終わると×印がつけられている。
日付を確認してみると、
[ 2016年3月18日 ]
両親を亡くした交通事故の日だ。
確かこの後、家を出たのは30分以上経ってからで、お店に行く途中で事故にあったんだ。
事故は対向車との正面衝突。
時速60kmでの正面衝突だった。
後部座席にいた俺だけ奇跡的に軽い怪我で済んだものの、父と母はこの時亡くなってしまった。
対向車の運転手もこの時亡くなったんだったっけな。
「みんな準備できたの!?もう出るわよ!」
母が家中に響き渡るような声で言った。
みんな靴を履き、外に出ようとした。
だが圭一は少し思いつめた顔で靴を履かなかった。
「圭一、何ぼーっとしてるの?早くしなさい」
母が急かすように言ってきた。
圭一は靴を履き、家を出たとき眩い光が目を覆い隠した。