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サイバーQ  作者: 石渡正佳
サイバーQ1 サイバーニュース編
8/66

8 地域創生通貨計画

 地域創生通貨(LDM)は、2020年に公布され、翌年から施行された地方創生通貨法によって発行が認められた暗号通貨(仮想通貨)である。

 発行基準は概ねGDPの10%の経済圏をカバーすることである。紙幣発行は日本銀行券しか認められないため、LDMはスマホなどで使用する電子決済用の暗号発行に限られる。逆に円は暗号発行ができない。

 2030年までにアイヌ(北海道・東北)、アサマ(北関東・北陸)、クロシオ(南関東・伊豆諸島・小笠原諸島)、エド(島嶼を除く東京)、ナカ(中部)、ヤマト(関西・近畿)、ヤマタイ(中国・四国・九州・沖縄)の7通貨が出そろって全国をカバーした結果、円は事実上国際決済にしか用いられなくなった。そしてついに2038年、円紙幣(日本銀行券)の発行停止と回収が開始された。もちろん紙幣がなくなっても円は依然として日本の標準通貨であり国際通貨である。

 LDMの発行機関は、その地域のすべての銀行が参加する地域創世通貨シンジケートである。LDMの暗号管理は国際資金伝送管理機構(IISO)によって行われている。

 LDMは円及び主要な国際通貨と交換することができ、交換レートは東京通貨取引所及び大阪通貨取引所で決まる変動相場制であり、現物市場、コール市場のほか先物市場、証拠金取引(信用取引)市場もある。

 国税、地方税の納税はLDMによって行うことができる。これは画期的な効果を地方経済にもたらした。経済の弱い地域のLDMの価値が下落インフレーションすると、円建ての国税納税額が実質的に減少することになる。これは居住者にも立地企業にも有利であるため、人口増加効果、企業立地効果があるのだ。

 地方自治体による地方債の発行もLDMで行うことができる。経済の弱い地域の地方債は金利が高くなるため、あえてリスクを好む投資家に人気になり、公共事業促進効果をもたらした。インフレーションによってLDM地方権の円建て負債額も減少する。

 さらにインフレとなった地域の商品の輸出振興や域外来訪者増加(観光振興)の効果も認められる。LDMがなければインフレの利益は逆に大都市圏が独占することになってしまう。

 すなわちLDMには地域経済力の均衡を自動的に図る作用が認められるのである。


 LDMには子通貨、孫通貨を定義することができる。これは7経済圏よりも細かな地域、たとえば道府県単位、市町村単位の通貨であったり、企業単位、業界単位の通貨であったりする。一般の暗号通貨と同様に発行は自由であるが、LDMとの交換レートを設定することによって、LDMの子通貨、孫通貨となるのである。これによってよりきめ細かに地域や業界の経済均衡を図ることができる。

 ただし、子通貨、孫通貨は発行額が小さいため、デフォルトリスクが高くなる。このため一定の担保を積み、または上位通貨発行機関が債務保証し、あるいはデフォルト保険に加入することが必須になる。担保に供されるのはGEP(地域総生産)、不動産(土地・建物の本権及び諸権利)の他、租税負担能力(人口及び法人数)、生産設備能力、公共インフラ整備率、農林水産鉱物資源、観光資源(景観歴史文化財)、地域依存型知的所有権、炭素排出権、廃棄物処分場容量などである。


 LDMが発行されて以来、大都市圏(東京、大阪、名古屋)から地方圏への人口流出、企業本社の地方移転が加速している。

 とくにブームとなっているLDMは茨城のヒタチ(アサマの子通貨)であり、ヒタチ人気にあやかったマンション建設や企業立地が相次いでいる。また茨城県庁のヒタチ債発行によるインフラ整備も盛んで、これがさらにヒタチ人気に拍車をかけている。茨城は東京近郊にありながら北関東からも南関東からも疎外されて辺境扱いされ、全国都道府県魅力度ランキング万年最下位に甘んじてきた。しかしいまや関東でもっとも成長力のある地域となっている。

 7つのLDMのうちで割安なのは北日本のアイヌと西日本のヤマタイである。しかしアイヌの子通貨のチトセ、ヤマタイの子通貨のダザイは例外的に高い人気通貨である。札幌と博多は地方都市ながら東京間の航空便は一日100便以上もあり、LCC(格安航空会社)なら航空運賃は片道数千円である。これは2028年開通した品川・名古屋間のリニア新幹線の半額である。両都市ともLDM空港建設債によって新空港を2つ建設し、既存空港とのハブ空港化、24時間空港化、全天候空港化をはかり、複数フライトの重複ブッキングシステムとゼロチェックインタイム制(ZCIT)を導入したため、利便性がさらに増している。もはや札幌と博多は東京の新たな特別区だと言われる所以であり、実際、東京24区、東京25区が両都市の別称となっている。残念なのは両都市がチトセ、ダザイひいてはアイヌ、ヤマタイを廃止して、エドをLDMとして採用しようとしていることである。ただしこれは地域創生通貨法を改正しなければ認められない。

 東京のエド、中部のナカ、関西・近畿のヤマトはLDMの3強である。この3通貨で日本の経済力(GDP)の50%以上をカバーしている。この3通貨のバスケット化によって新円を定義し、円から独立しようという動きもある。財務省(金融庁、国税庁)、経済産業省、外務省は新円を歓迎しており、内閣府、総務省、国土交通省、農林水産省、厚生労働省、環境省、全国知事会は反対の立場を表明している。

 地域創生通貨計画は、確実に地方の再活性化をもたらした。しかし、これだけではまだ持続可能な発展性は十分ではない。次の一手はもちろん国税の税源移譲を伴う連邦制への移行である。

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