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サイバーQ  作者: 石渡正佳
サイバーQ2 サイバーポリティクス編
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31 国家の黄昏

 九州で成功した電脳無政府主義準国家は、たちまち西日本国全土へと広がった。九州以外では不動産登記簿が閉鎖されていないにもかかわらず、UXOによる準登記が現実的な価値をもって取引され始めたのである。さらに西日本国の国民は政府の決定よりも、UXOによる無政府的な決定を尊重するようになり、結果的に政府の決定はUXOの決定に沿うようになった。これは政治学者によってパラポリティクス(正準逆転現象)と呼ばれた。政府を直ちに解散すべきという急進的電脳無政府主義、実質的に政府を無能化するだけでよしとする漸進的電脳無政府主義、政府と準政府を同一視する観念的無政府主義の三派が争い、観念的電脳無政府主義が日和見主義と批判されながらも優位になった。

 電脳無政府主義準国家は東日本国に飛び火し、新日本国がこれに次いだ。保守的な大和国では、右翼によるXO狩りが行われた。しかし、大和国もまた準国家の流れには抗すことができなかった。旧日本四国がすべて準国家化すると、国境は無意味となり、実質的に日本は再統一された。しかしながら、日本という国家はもはや無意味だった。日本を承継する四国の消滅によって、日本は本当に消滅の縁に立った。

 ほぼ時を同じくして、統一コーリア共和国でも準国家化革命が進展した。朝鮮半島では急進的電脳無政府主義が優位になり、共和国政府は解散した。革命はモンゴルから中央アジア諸国へと飛び火していった。WRMが予言したとおり、全世界同時的な電脳無政府主義革命が日本から始まったのである。

 UXOが世界に波及すると、XOインター(IXO)がUXOの国際共同体として提案された。世界のUXO準人口はすで世界の総人口を超えていた。多くのUXOが多重準国土を定義し、多くのUXO国民が多重準国籍を所得しており、UXO準人口は300億人を超えると予測されていた。

 UXOは各国各地域で様々な名称で呼ばれており、必ずしもXOインターとの関係は明らかではなかった。暗号国家だから、国家、地域、民族、言語はそもそも無関係だった。もっとも、地域や言語を限定したUXOは想定外だったとはいえ、現実的交流のため、結果的にLXO(ローカルXO)が成立することを拒んでいなかった。実際にはUXOの90%以上がLXOだった。また10人以下の国家が99%であり、一人国家がその半分を占めていた。一人国家はガレージ国家と呼ばれてブームにすらなった。ただし、一人国家はいつまでも一人国家ではなかった。人気のある一人国家には帰化申請が殺到し、逆にそうでなければ滅亡したからである。

 UXOとIXOによって、国家は正真正銘消滅しようとしていた。これは暗号通貨によって中央銀行が消滅したのと同じ機序だった。暗号通貨から国家の凋落が始まり、国家の消滅が準備されたとも言える。国家とは信用すなわち情報の独占だった。国家は通貨と法律と警察と歴史を独占してきた。国が違えば情報が違った。国の情報を信じさせることが政治だった。国が代わるたび、国民は新たな国の情報を信じた。国民が信じる情報を国が独占できなくなったとき、国は滅びる。中央銀行(通貨)という信用独占システムの崩壊が、やがて国家(政治)という信用独占システムの崩壊をもたらしたのである。

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