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サイバーQ  作者: 石渡正佳
サイバーQ2 サイバーポリティクス編
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30 電脳無政府主義

 西日本国政府は無人となった九州の不動産登記簿を閉鎖し、九州全土を国有化すると宣言した。この非常措置によって、UXO(暗号国家共同体)による準国土登記が現実的な価値をもって浮上することになった。UXOは九州の準国土への暗号疎開を勧奨し、準国土に次々と暗号村が誕生した。九州において、現実の国土とリンクを持った暗号国家となったUXOは、電脳無政府主義サイバナキズムによる準国家の樹立を宣言した

 哲学者馳倉轍美はぐらてつよしによれば、電脳無政府主義サイバナキズムとは、SNMソーシャル・ネットワーク・ミーティング暗号政府クリプト・ガバメントによって、議会、行政府、裁判所の三権の府を全廃する直接民主無政府主義ダイレクト・デモクラティック・アナキズムのテクノロジカルな帰結とされる。さらに電脳無政府主義社会においては、学校も、会社もなくなる。一人一人の個人が国家であり、企業であり、学校だからである。

 サイバナキズムにおいて、個人と社会の関係は根本的に転換され、社会は多様帰属社会(ダイバーシティ・レジストリック・ソサエティ)となる。個人は一人ではあっても孤体ではなくなり、複数の場所に同時的に存在することになる。これを複存という。現存在は、個人が感覚器を通じ、現に存在を覚知している存在である。個人(自分)は一つの実存ではなく、断片化された無限の映像に断片化され、脱構築される。断片化された実存は、もはや一つの実存へと再構築することが不可能である。個人(他者)は、偶然に集められた有限の断片化された映像による解釈であり、他者の場合の数だけ、無限の解釈がある。無限の他者解釈は、家族(血縁)、恋愛(結婚)、経済(労働)、政治、芸術、スポーツ、宗教などのジャンルに分類され、ジャンルごとに解釈を共有するグループ(派閥)が自然発生する。このジャンルグループが集まって社会が構築される。映像的存在は保存と複製によって増幅し、社会は多重化する。夢存在とは、核磁気共鳴装置によって映像化した夢想中の存在として再定義される。幻視存在とは、記憶又は空想あるいは錯乱によって幻視している存在である。能動的外部存在記録とは、本人又は近接者が撮影・録音し、SNS等のソーシャルメディアに投稿し、保存した存在である。受動的外部存在記録とは、公的又は私的な監視装置により、秘密裏に又は自動的に撮影・録音され、保存された存在である。

 九州に樹立された準国家には一人の人影もないのに人々が殺到している準街が次々と形成されていった。九州準国家は準人口二億人を超える準大国へと一ヶ月で成長し、準GDPは旧日本四国のGDP合計を超えた。人口増加率はなお一日で数パーセントに達しており、早晩中国、インドを超え、世界人口の30%に達すると予測されていた。

 このような準国家の樹立には、準登記が意味を持ちやすい荒野、草原、森林、さらには砂漠、海底が向いていた。月面、火星、金星も問題なかった。さらには分子レベルの準国土を定義するマイクロステーツも登場した。フロンティアは無限だった。

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