26 朝鮮統一
分裂した日本とは反対に、朝鮮半島では南北統一の気運が高まっていた。朝鮮半島の分裂は、東西冷戦の緩衝地帯として維持されてきた。ソ連崩壊、冷戦終結後も、米中の緩衝地帯としての効用があった。しかし、北朝鮮側が核武装するに及んでからは、維持費が効用を上回ってしまった。日本が分裂し、それぞれの国を米中露の傀儡とすれば、朝鮮半島の分裂を維持し、北朝鮮の暴走あるいは暴発を防ぐために各国が軍事費を浪費することはない。
新たな緩衝地帯は、非武装中立宣言をさせた大和国であり、これを挟んで米国傀儡の新日本国と中国傀儡の西日本国を対峙させればいい。東日本国はロシア傀儡といっても影響力は北海道に限られており、旧東北州が緩衝地帯となっていた。これが日本四分裂後の東アジアの地政学だった。しかし、朝鮮半島の統一の主導権を巡っては米中露の水面下の争いがあった。中露はお互いに朝鮮半島の統一について、北主導であっても南主導であっても反対しないことで合意していた。これに対してNSAは朝鮮半島の統一を歓迎すると表明しながら、が中露の影響下で統一されることに危惧の念を抱き、新日本国の境大統領に工作を打診し、拒絶されると東日本国の兎見大統領に近づいた。
兎見の密命を受けて、カムイ斗米はモデルカーヤを伴い、韓国に潜入した。朝鮮半島のXOサークルはXXOO(ダブルXO)と呼ばれ、実質的に世界最大の売春組織だった。ダブルXOは北朝鮮と南朝鮮(北韓と南韓)に分かれていたXOサークルが、南北朝鮮の政治的統一を待たずに統合されたものである。
ダブルXOの手引きで、カムイとカーヤは北朝鮮に入国した。二人が確かめたかったのは、北朝鮮は秘かに温存していた核ミサイルだった。あらゆるネットワークから遮断された核ミサイルを起動できるのは、キム書記長を除けば限られた軍人だけだった。
韓国に戻ったカムイとカーヤは神韻功の李大に接触した。神韻功はCIA(アメリカ情報局)の傀儡教団であり、コーライズムを指導原理とし、朝鮮半島を統一すること、中国(とくに旧満州)に反共革命を起こすこと、日本(東海諸島)を朝鮮半島に併合することを三宝(法)としていた。コーライズムは、高麗(コーリアの語源)を再興することを目的とする半島原理主義であり、日本国王(天皇)は朝鮮(百済)から派遣された朝鮮王族の末裔であり、高麗が再興すれば、王権奉還(高麗王に統治権を返還)すべきと説いていた。
カムイとカーヤの報告を受けた兎見大統領は、三宝のうち日本併合(王権奉還)の凍結を条件に、南韓主導の南北朝鮮統一を画策する米韓連合軍への支援を約束した。
神韻功が南北統一運動を画策するや、北朝鮮の将軍の多くが韓国に亡命した。この機に乗じて米韓連合軍が平壌占領作戦を開始すると、北朝鮮のキム書記長は核ミサイル再武装を宣言し、第二次朝鮮戦争が勃発した。キム書記長は全核ミサイル発射を命じた。標的は20年前の設定のままで、龍山、議政府、平沢、三沢、横田(東京)、横須賀、厚木、岩国、佐世保、嘉手納、普天間、グアム、ハワイ、ロサンゼルス、ヒューストンだった。しかし、発射システムが正常に起動したにもかかわらず、核ミサイルは発射されなかった。
米韓連合軍は一週間で平壌を制圧、キム書記長は中国遼寧省に亡命し、南北統一が実現し、統一コーリア共和国が樹立された。
米軍は核ミサイル発射命令ははったりではなく、実際に北朝鮮が密かに核ミサイルを温存していたと見て、旧北朝鮮全土をくまなく捜索した。しかし、核ミサイルは一機残らず消え去っていた。ロシアあるいは中国が秘かに運び去ったとの憶測が飛び交ったが、真相は藪の中だった。




