20 通行税立国
新日本国(旧富士州)は、東海北陸甲信地域を国土とし、太平洋沿岸地域、中部山岳地域(日本アルプス)、日本海沿岸地域(親知らず子不知)、そして世界に名だたる霊峰富士山という変化に富む自然は日本のカナダと言われるにふさわしく、多彩な文化を特徴とする地域である。同時に主都名古屋市を含む旧愛知県は、隣接する旧浜松市と共に、旧日本国最大の工業出荷高を誇ってきた。とくに二輪車・四輪車製造で高いシェアを続けており、かつて日本のデトロイトと言われたこともあった。新日本国は、旧日本国の文化と経済基盤の多くを受け継いでおり、日本人らしい豊かで平和な暮らしを維持するのに最も違和感のない国である。旧USA三国(東・中・西アメリカ合衆国)が独立を承認しており、ロシアと中国は否認している。このことからわかるように、東京が廃都となって以来、アメリカとの関係が最も深い。
新日本国はもともと原発依存度が低く、四国で唯一脱原発を完全達成している。電力は天然ガス火力発電、水力発電、再生可能エネルギー発電が3分の1ずつで、電力自給率は年間平均120%、夏季昼間のピーク時でも105%である。余剰電力は隣接の東日本国、大和国に売電している。
電気自動車普及率は、自家用車・商用車合わせて台数で95%、トンキロで75%に達している。自家用ガソリン・ディーゼル車は販売と使用が禁止されて久しく、商用車に認められていたハイブリッド車も間もなく全廃される。
国旗は日の丸の赤丸を大きくした大丸旗で、東京オリンピックのマークを連想させるものである。
日本経済の大動脈である東海道新幹線、リニア中央新幹線、東名高速道路、第二東名高速道路に通行税を課すことで、新日本国は、東日本国と大和国から国富の移転を受けていた。これは独立国とならなければできなかったことで、両国が積極的だった四国分離独立案に新日本国が賛成する条件となった。
東海道通行税に味をしめた境味人大統領は、領海航行税、領空飛行税の課税に踏み切った。しかし、これには隣国の東日本国、大和国、さらには西日本国が反発し、逆に東海道通行税の廃止を迫った。やぶ蛇になった境味人大統領は、航行税、飛行税の実施を見送らざるをえなかった。
ひとたび紛争を経験してみると、新日本国は、東日本国からも大和国からも侵略され易い地政学的虚弱性を抱えていた。実際、国境地帯にはいくつもの古戦場があった。このため国境警備に力を入れる必要を生じ、非武装を宣言した猿田大和国大統領の賢明さを痛感し、両国間の不可侵条約を締結した。一方、武力衝突の可能性が高くなった東日本国との国境(旧静岡県・神奈川県境)には機甲師団を常駐させることとし、その装備の強化のために東日本国から徴収する通行税は消えてしまった。




