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サイバーQ  作者: 石渡正佳
サイバーQ2 サイバーポリティクス編
46/66

13 微粒子Z

 南海トラフ地震震源域を飛行中の海上自衛隊偵察機が編隊ごと墜落し、救助に向かった海上保安庁巡視船が次々と沈没した。

 南海のミステリーと報じられた事故の原因は、大陸棚のメタンハイドレートの連鎖的大崩壊だった。これ以上崩壊が拡大すれば、地球温暖化の加速が懸念される事態となり、IEF(国連環境保全機構)、UNEP(国連環境計画)、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、UNFCCC(気候変動枠組条約)締約国は、メタンハイドレート安定化のための国際会議を、京都市で緊急開催することが決定された。

 2000年代に盛り上がった地球温暖化問題は、2029年クアラルンプールで開催された気候変動枠組条約第70回締約国会議において、大きな前進を見ていた。微粒子Z(PMZ)の成層圏投入を満場一致で採択したのである。

 PMZはナノサイズの二酸化ケイ素微粒子で、成層圏に長くとどまり、オゾン層の上空に超薄膜のZ層を形成する。Z層は紫外線を反射することでオゾン層を防護し、地球温暖化を緩和するクーラー効果がある。

 2028年時点で、地球の平均気温は1900年を規準年としてプラス0.9度であり、2100年にはプラス2.1度プラスマイナス0.3度と予測されていた。これは2050年までにすべてのOECD加盟国が二酸化炭素排出量をゼロにするというシナリオに基づいた予測である。現実的にはこの目標達成は難しく、2100年の平均気温はプラス2.5度以上になることも十分にありえた。この場合、海水面は1メートル以上上昇し、何も手を打たなければオランダの国土の大半、イタリアのベニス、太平洋の環礁国が水没することになる。また、気候が極端化し、巨大台風や巨大寒波、巨大竜巻、ゲリラ豪雨が頻発すると予想された。さらに南極氷河の崩壊による巨大津波の懸念、メタンハイドレートの地球規模の崩壊による温暖化の加速の可能性もあった。

 もしもPMZによるZ層のクーラー効果が予想どおりなら、世界全体の二酸化炭素排出量が2028年水準のままだとしても、2100年の地球の平均気温はプラス1.5度以内に抑えられることになり、海水面の上昇は50センチ程度になる。さらに2100年以降は気温の低下すら予想されていた。

 こうした気候変動のコントロールが可能になった背景には、気象シミュレーションの進歩があった。2027年に実際の地球と同じ気象を再現する全地球気象エミュレータが完成し、海溝型地震、カルデラ噴火、太陽フレア爆発などの攪乱要因が予想の範囲内ならば、10年以内の天気図を99%の確率で予測できるようになったのである。

 ところが日本海溝周辺の大陸棚で、想定を超えるメタンハイドレートの崩壊が始まったことから、気候変動予測は一転して不透明になった。

 今回のメタンハイドレートの連鎖的大崩壊がいつまで続くのかが、京都会議での議論の争点になった。全地球気象エミュレータには、メタンハイドレートのデータも入っており、それによれば6か月から3年の範囲で終息する可能性が50%であり、地球の平均気温上昇は6か月の場合は0・1度、3年の場合は0・6と予測された。また、震源域で余震が続いている現状では、メタンハイドレートの崩壊防止措置は不可能という結論に達した。一週間徹夜で続いた会議は、PMZの成層圏投入を10%増量することを決めて閉会した。

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