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サイバーQ  作者: 石渡正佳
サイバーQ2 サイバーポリティクス編
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11 D兵器

 WRMが起動を予告したD兵器(災害兵器)は、A兵器(核兵器)、B兵器(生物兵器)、C兵器(化学兵器)と共にABCD兵器と呼ばれる。D兵器のうちでもとくに地震(津波)兵器、気象(低気圧)兵器、火山(噴火)兵器をE兵器(地球兵器)と呼ぶ。

 D兵器は起動装置としてA兵器(核兵器)を必要とする。活断層、海溝、マグマ溜まりなどでA兵器を起爆させ、地震や噴火を誘発するためのスターターとするのである。巨大地震の威力は最大の水爆ツァーリ・ボンバの一万倍を超える。巨大カルデラ噴火(破局噴火)ともなれば、その威力は巨大地震のさらに一万倍を超える。

 D兵器自体が解放するエネルギーと誘発された災害によって解放されたエネルギーの比をDゲインという。初期の災害兵器のDゲインは1だった。つまり核兵器の威力だけで地震や津波や土砂崩れを起こしていた。中国人民解放軍が保有する最強の災害兵器のDゲインは100~1000と言われる。核爆弾自体の威力の1000倍の地震、津波、噴火、深層崩壊、土石流を誘発できるのである。

 実は日本政府も、D兵器を平和的に使用するDミッションの研究を続けてきた。いつ起こるかわからない不確定な地震を、任意の日時に起こる確定的な地震に変えてしまい、自然のサイクルよりも短いスパンで、定期的に地震エネルギーを解放してしまえば、被害を最小限度に抑えることができるからである。

 直下型地震ミッションは、活動する可能性が高い活断層を人工的に動かしてしまうミッションである。100年に一度動く断層を10年に1度動かしてしまえば、解放されるエネルギーを10分の1に減らせる。マグニチュードはマイナス0.7になる。2025年、阪神淡路大震災から30年目の神戸で初めて実施され、震度5弱の地震を記録した。今後も30~40年に一度実施することで、進度6以上の地震を回避する計画となっている。

 海溝型地震ミッションは、100年~1000年に1度動くとされる太平洋プレートの沈み込み面の歪みエネルギーを人工的に解放してしまうミッションである。2011年の東日本大震災以来、30年以内に起こると予測されながら、未だ起こっていない南海トラフ地震を人工的に起こしてしまうため、2029年3月11日に初めて実施される計画となっていた。しかし、実施は延期された。太平洋沿岸地域に居住している国民の内陸部移住が完了していなかったからである。このミッションに使用される水爆100個は廃棄予定だったツァーリ・ボンバ(旧ソ連製100メガトン級水爆)をウクライナ政府から安価に買い取ったもので、すでに南海トラフの地下5キロのプレート滑り面に埋設が完了していた。マグニチュード8クラスの地震を想定していたが、東南海・東海連動地震に進展すれば9クラスの超巨大地震になる可能性もあった。

 WRMの地震予告は、事実上は日本政府の海溝型地震ミッションをWRMが乗っ取ったことを意味していた。すなわちこれもまたサイバーテロだった。予告日までにミッションのコントロールを奪還できなければ、予告どおりの巨大地震が発生することが確実だった。

 阪神淡路大震災は、革新政権(村山内閣)の体たらくを露呈させ、東日本大震災もまた革新政権(菅内閣)の時に起こった。そして南海トラフ地震がまたしても革新政権(逆月内閣)において起ころうとしていた。

 この非常な局面において、政治家の重要性に心を寄せる国民は一人も居なかった。またしても革新政権の時に大震災が起るとすれば、革新政権にとってなんたる符合、なんたる悪夢だろうと感じ、またしても政治家は右往左往するばかりで何もできまいと高をくくった。

 逆月首相は海溝型地震ミッションが乗っ取られたのかどうか内閣情報調査室に調査を命じた。このミッションは凍結され、あらゆるネットワークから切断されており、乗っ取りの兆候は確認できなかった。逆月首相は念のためツァーリ・ボンバの起爆装置を外せないかと指示した。しかし、そのためにはネットワークの封鎖を一時的に解除する必要があり、その瞬間にミッションを乗っ取られる懸念があった。ミッションがすでに乗っ取られていたとすれば、もはや奪還は不可能だった。逆月首相はWRMの声明がはったりだという結論を出した。

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