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サイバーQ  作者: 石渡正佳
サイバーQ2 サイバーポリティクス編
38/66

5 XOサークル

 ヤクザ、外国人、ホームレス、暴走族のボスたちが群雄割拠する東京に、第四の勢力として、LGリトルギャングが登場した。LGは旧来から若者の街だった渋谷、原宿から発祥し、代官山、六本木、下北沢、秋葉原に拠点を拡げていった。

 LGの活動の中心は、松濤、広尾、代々木上原、六本木、白金などに広がる高級住宅街への遠征で、彼らは邸宅狩りと呼んでいた。空き家化した邸宅を襲撃した後、数日間滞在して家財を荒らし、備蓄された食材や酒を食い(飲み)尽くすと、一切を打ち壊して立ち去った。もしも住人がいれば監禁し、婦女の陵辱も躊躇しなかった。サイボーグ警官は民事不介入原則によって、通報がなければ取り締まろうとしなかった。LGが邸宅狩り画像を投稿するサイト、BOTブラックアウトトーキョーのフォロワーは1億人を超えていた。

 LGの天敵となったのは、モデルカーヤをカリスマとする歌舞伎町発祥の風俗少女グループ、ファーストレディだった。ファーストレディは、組織力がなく、小グループに分散していたLGを次々と撃破していった。カーヤは軍門に下ったLGの邸宅狩りを禁じ、BOTの閉鎖を命じた。邸宅に残った富裕層の住人たちは、ファーストレディの売春の上客だった。

 新宿から品川までの旧山手線西南部に勢力を拡大したファーストレディは、横浜を拠点とし、LGを弟分と見なしてきた暴走族グループ、雪珠夢スノビズムと対立し、小競り合いが絶えなくなった。ついにカーヤ自らが紛争の解決に乗り出し、雪珠夢のカリスマ、カムイ斗米と二子玉川の多摩川河川敷で対決することになった。しかし、二人一昼夜無言で睨み合ったまま過ごし、ついに戦わずして互いの組織を合体することに合意した。伝説の対決の後に結ばれたカムイとカーヤは、ファーストカップルと呼ばれた。

 実はこの対決の間、二人は無言だったのではない。二人は接脳していたのである。接脳(DSN)は脳が直接交流する新しいSNSで、この時初めてカムイ斗米によって試されたのだった。

 DSNはイリオン(接触感染型情報伝達ウィルス)の交換によって行われるNFCニアフィールドコミュニケーションで、接吻や性行為等によって粘膜を接する必要があった。従ってカムイとカーヤが睨み合ったままだったというのは伝説である。二人は一昼夜交舌していたのである。

 DSNは、不顕性感染させたイリオンを脳内に長期間潜伏させ、音楽、臭い、画像などのインプリント暗号刺激によって遠隔起動させることもできる。すなわちネットワークを構築できるのである。

 カムイ斗米からDSNを手に入れたカーヤは、少女アイドルのオタクたちや風俗少女の顧客たちの脳をネットワーク化していった。このネットワークこそが、XOサークルである。イリオンが起動しないかぎり、あるいは起動したとしても、XOサークルの存在には気づかれない。このネットワークは、子供たちにインフルエンザが、同性愛者たちにエイズが広がるように、瞬くうちに東京全域に広がっていった。なぜならアウトロー化した東京では、性のモラルが崩壊していたからである。しかし、イリオンの伝播によるXOサークルの拡大によって、何かがすぐに起こったわけではなかった。何が起きるかカーヤは知らず、カムイにも確信はなかった。

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