3 ホワイトアウト作戦
福島第一原発の再臨界事故によって、5億テラベクレルの放射性物質が環境中(大気中、水中、地中、宇宙)に放出されたと推定されている。それにもかかわらず、政府はなぜ速やかな終息宣言を出すことができたのだろうか。
この疑問に対して政府は、陸海空自衛隊が連携した放射能汚染応急防御措置「ホワイトアウト作戦」の成果だとし、その全容を明らかにした。
作戦の第一は放射能吸収剤ドーランの空中散布、第二はヨウ化銀誘発人工降雨による放射能防除カーテンの布設、第三は土壌除染剤レッドサンの地上散布、第四は汚染水除染剤マスクリンの湖沼・河川・海洋への投入、第五は汚染区域の住民や滞在者へのヨウ素剤とラジリンス5005の投与だった。
ドーランとレッドサンは、農地や林地の除染剤として、アグリコープ社が開発した農薬で、有効成分のアカプルフェニコールは核燃料中のウラン(質量数235、以下同じ)の核分裂によって生じる放射性ヨウ素(131)、セシウム(134,137)、ストロンチウム(89.90)を吸着して不溶化する作用を備えている。ドーランは酸化アルミニウムをベースとする白色の粉末、レッドサンは酸化鉄をベースとする暗赤色の液状である。福島県庁はドーランとレッドサンを、それぞれ100トンずつ備蓄していた。
ヨウ素剤も百万人分を備蓄していた。これは甲状腺への放射性ヨウ素の吸収を阻害する作用があり、とくに若年者の甲状腺ガンの予防に効果があり、被爆が疑われるすべての住民に早期に予防内服させることが勧奨されている。
R&Bケミカルが開発したラジリンス5005は、アカプルフェニコールを利尿剤に配合した医薬品で、体内の放射性セシウム、ストロンチウムを体外に排出しやすくし、とくにストロンチウムが骨に蓄積することを妨げる効能が認められている。ラジリンス5005は千葉市の放射線医学総合研究所が50万人分を備蓄しており、被爆が確認されたすべての住民に配布された。
廃炉作業所では所長以下作業員8000人全員が退避し、代わってロボット作業員3000体が投入され、その90%以上が強烈な放射能によって人工知能を破壊されながら、再臨界から1時間後には核燃料保管庫も燃料デブリ保管庫も、コントロールを回復した。
ホワイトアウト作戦の成功によって、放射性物質の拡散は福島第一原発から半径50キロ以内に食い止められたのである。
この成功には異論もあった。半減期短縮炉でも使わないかぎり、放射性物質は消えないはずであり、どこかに移動されただけに違いない。アカプルフェニコールも放射性物質を吸収し、不溶化するだけである。放射性物質がどこに処分されたのか、政府は明らかにしていなかった。
除染物の処分先としてもっとも可能性が高いのは国内に数十億トンの残存容量がある産業廃棄物最終処分場である。しかしながら、放射性物質を受け入れたと表明している処分場はわずかだった。次に可能性が高いのは海洋投棄だった。これはロンドン条約によって禁止されているのだが、実際には放射性物質汚染土壌の半分以上が海洋投棄されたと見られていた。
実は大半の放射性物質は河川のヘドロになっていた。道路側溝から中小河川へ、そして主要河川へと流れ込み、徐々に河口から海洋へと流れ出していた。国土交通省はヘドロの除去を拒んでいた。海洋へと自然に流れ出していのに任せようとしたのである。




