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サイバーQ  作者: 石渡正佳
サイバーQ1 サイバーニュース編
29/66

29 一般取引税

 2038年、税制が抜本的に改正され、法人税、所得税、消費税、相続税、酒タバコ税がすべて廃止された。さらには国税庁、税務署も廃止され、税理士も不要になった。

 国税は一般取引税に統一されることになった。基本税率は取引者双方に各3%、合計6%であり、取引の形態や事業者の業種に応じて加重税率がある。課税は自動的であり、税務申告の必要はない。たとえばスーパーマーケットで野菜を買ったとする。スーパーマーケットの税率は3%となるが、購入者の税率も3%とはかぎらない。個人は3%のままだが、ホテルの厨房は6%になる。納税は前納でも後納でもなく、取引の都度即納(天引き)されるので未納も滞納もありえず、税務申告も課税処分もないのである。一般消費税や付加価値税にように仕入額に含まれる税額控除はしない。したがって流通経路が複雑だと多重課税になる。

 所得税がないので所得の格差に応じた累進課税はない。しかし不労所得による所得格差が生じないよう、一般取引税の加重税率を調整している。たとえばギャンブルの掛金のリターンに対しては最高97%が加重され、しかも掛金は損金に算入できない。この国にもバーチャル競馬場、バカラ、電子ルーレットなどのカジノ(換金ゲーム店)があり、ギャンブルの換金営業は禁止されていない。しかし税引後のリターンが掛金を上回ることはない。換金営業が禁止されている他の国の三店方式のような偽装換金は懲罰税率の対象となる。懲罰税率は双方に10000%以内とされている。

 法人税がないので事業活動の収益には課税されない。事業活動に対する課税も一般取引税によっている。業種ごとに一般取引税の加重税率は異なる。加重税率がとくに高い業種は、不動産、ファイナンス(ファンド、セキュリティーズ、インシュランス及びこれらのコンサルティングを含む)、モバイルネットワークオペレータ(移動体通信機器のリース・販売を含む)、ECモール、ゲーム(コンピュータゲーム・オンラインゲーム)及びギャンブル、音楽及び芸能、広告代理、リゾート及び風俗、人材斡旋及び派遣である。加重税率は業種別の標準リターン率や標準付加価値率によって毎月自動的に調整され、恣意的に決まるものではない。加重税率の格差は差別化ではなく公正化と考えられている。

 相続税や贈与税はない。相続と遺贈には一般取引税が課税される。贈与や寄付には課税されない。居住や生業のための遺産を除き、国民の平均年収のおおむね10倍を超える遺産は、いったん国庫に収用された後、遺産配分委員会において公用を優先した配分が決定される。この収用は生前贈与財産も対象となる。

 遺産の収用を免れるため、資産家は生前に財産管理グループ(他の国における財団法人)を設立して寄付することが一般的になるとみられる。この寄付は相続発生時に相続人から申し出ることもできる。避税のための偽装的な寄付や海外への資産の移転に対しては10000%以内の懲罰税率が課される。寄付行為から50年以内に財産管理グループの運営に本人と配偶者、その親族や元親族、遺族がかかわったり、特別の便益を受けたりすることは避税行為となり、遡及的に課税される。

 財産管理グループが統合(合併)された場合、偽装統合を除いて寄付行為者の関与の制約は切断される。このため社会的富は個人資産としてではなく、統合された財産管理グループの公共的資産として蓄積されることになり、新たに出生する個人には常に競争環境的初期状態が保証される。

 地方税制も改正される。固定資産税は廃止され、不動産の権利の設定や移転に対しても一般取引税が課される。この場合、例外的に損金控除が認められており、取引価格に対してではなく剰余金に対して課税される。剰余金は譲渡価格から必要経費と代替不動産取得費を控除して計算する。控除される経費は実費でなければならず、評価額や見積額では控除できない。これは不動産の公的収用額の算定においても同様である。不動産取引に対する加重税率もギャンブルと同じ最高97%である。このため不動産成金はいなくなり、不動産バブルもなくなる。個人については5年以内の不動産取引を合算し、剰余金と損金を相殺する修正申告が認められている。法人の不動産取引には損金の繰り延べが認められていない。

 税務署に代わって税を徴収するのは銀行である。すでに現金すなわち紙幣もコインも使われなくなっており、個人と法人とを問わずすべての取引が仮想通貨によって電子決済されているため、把税・課税・徴税を一元化かつ自動化することができ、税務署は必要ないのである。課税漏れは原理的にはありえない。

 徴収が自動化している一般取引税の脱税はほぼ不可能である。脱税率(アングラ経済率)は旧税制時代の5%から1%に下がるとみられている。ペーパーダッジング(避税的紙契約)、他人名義取引、バーター(物々交換)、闇紙幣(外国紙幣)、迂回送金、外国口座決済、架空通貨(偽装仮想通貨)、架空取引などによる脱税・避税行為を監視するため、国税局査察部マルサに代わって行政委員会である避税調査委員会マルヒが設置されることになる。

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