王女の異変
『護衛魔術師』として活動し数週間がたったころ、王女の様態がおかしくなった。不思議に思いギルは王女の部屋に向かう。そこにいたのは国内トップクラスの専属医師だった。しかし彼は何かがおかしかったのだ…
あれから数週間が経った。
『護衛魔術師』の訓練も順調に進んでいる。しかし最近スティアの様子がおかしい。
「王よ。最近スティア王女の様子がおかしいのですが、どうかされたのですか?」
違和感に思いつい聞いてしまった。
「あぁ気づいていたか…そうだ最近我が娘の調子が悪くてのぉ…専属の医師に治療をしてもらってるのだが、一向に良くならないのだよ」
やはりこの異変には王も気づいていた。
「そうですか…では俺はスティア王女の部屋に行ってきます。変な病気だったら大変なので…」
そういって俺は王室を後にした。
「失礼します。護衛魔術師のギルです。入室許可をお願い致します。」
しかし返答がない。もう一度ノックしようとした瞬間そっと扉が開いた。専属の医師だった。
「どうされましたか?王女はただいま就寝中でございます。起床後にお願いします。」
もう13時だというのに一体どうしたんだ?
「王女はいつから寝ているんですか?」
医師は驚きながら
「なぜそのような質問を?」
そりゃ一般人がそんな質問をするとは思わないか…
「俺も少しはそういう勉強をしていたもんでちょっと気になっただけです。1日中寝っぱなしだと逆に体に悪いので、適度に起こさないと健康にはなりませんよ。で、何時間寝てるんですか?」
医師は言いづらそうに
「今のところ25時間寝ております。あまりにも長いので私も心配になっております。起きて下さらないと治療ができないので…」
やはりこの王国は医学については遅れているらしい。前の世界の知識ここで使ってみるか。
「俺も治療に貢献しますよ。早速なんですが一つ質問いいですか?」
医師はさらに驚き
「あなたは医師免許をもっているのですか?いないのなら貢献はできませんが…」
「あぁ持っているさ。しかも王のご命令でこの仕事に就くときにもらった。何か?」
もう何も言えないようだった。
「そうでしたか…では質問に答えましょう。」
内心ほっとした。このまま追い出されては王女の様子も見れない。いったん部屋に入らせてもらおう。
「たしかあなたは国内でトップクラスの医師でしたよね?『点滴』って言葉知っていますか?」
彼は不思議そうにこちらを見ていた。
「『点滴』?なんですかそれは?新しい治療法なのでしょうか?」
それ知らなかったらどうやって治療してたんだろうか…
「あぁ点滴だ。知らないか?なら簡単に説明するよ。袋に入った薬剤を吊るして静脈内に留置した針から少しずつ投与することだ。なぁ?簡単だろ?」
彼には未知の単語に聞こえたんだろう。必死にノートに書いていた。
「俺の友人も免許持ってるからここからは俺らがやるよ。おそらく今以上の高度な技術が必要だしね。」
おそらくあれを使ったのだろう…
「それは困ります。私も同席します。」
医師は必死になっていた。
「それは許可できない。半端者がこれをすると死に至る。ここからは俺らがやる。いいな?それとしばらくはこの部屋に立ち入らないでほしい。すぐに退室を要求する。」
そう彼がいては作業ができない。何としてでも追い出さないと…
「それはできない。私は王室内の方たちを看病するという契約で雇用してもらってる。席を外すことはできない。」
仕方ないがこいつは強制的に外に出そう。
「じゃあしょうがないか…『メタスタシス』!!」
【“メタスタシス”空間転移魔法】これを使われれば拒むものでも強制的に転移される。奴にはピッタリの呪文だ。
「最初っから忠告を聞いていればよかったのになぁ。必要があるときにまた呼び戻すよ。それまで修行してな。自称トップ医師さんよぉ」
さぁ、まずは胃洗浄からだな。
「なぁ『PPN投与法』ってわかるか?その薬剤ってここで作って欲しいんだけどいいか?ありがとな。よろしく頼む。」
数時間が経ち何とか胃洗浄が終わった。彼らから薬剤ももらったし回復を待つしかない。
ただ見守るしかない状況の中、廊下から足音が聞こえてきた。
「娘の状態はどうなのだ?専属の医師はどこへ行ったのだ?この管はなんだ?何をしたのだ?」
王は未知の機材があることに気づき慌てていた。
「あの慌ててる所申し訳ないんですが…王女は寝る前何か飲んでませんでしたか?薬とか…」
冷静さを取り戻し王は口を開いた。
「あぁ飲んでいたよ。丸っこくて小さいものを飲んでいたな。それがどうかしたのか?」
やはり、それじゃ王女は起きるはずがない。あいつが飲ませてたのは前の世界でいう“ソメリン”だからだ。
「冷静に聞いてほしいんですが、まず今の王女の様態を伝えます。王女は『バルビツール酸中毒』になっている可能性があります。初期治療は完了し現在は“末梢静脈栄養法”で体内に栄養を送っています。」
王は未知の単語、用語が羅列しているように聞こえているだろう。それもそのはず。この国にはまだこの治療法がないからだ。
「専属の医師は睡眠薬を王女に接種させていました。しかも危険性のある薬です。俺は王女が目を覚ますまで看護をし続けます。よろしいですか?」
王はもうわけのわからないことを言われて「なに言ってんだ?」って思ってるだろう。
「わかった。あの専属医師は解雇し追放しよう。しかし王女の看病はギル、お主一人でいいのか?信用できる人がいるなら連れてきても構わんよ。」
ありがたい。その言葉を待ってた。なら彼をここに呼ぼう。
「では、お言葉に甘えて一人お連れします。俺より技術も高く知識があるやつです。大丈夫でしょう。あと無理を承知で言いますが、『薬剤室』を作ってもいいですか?」
本当にすまん。わけわからん単語ばかり言って…
「『薬剤室』?それはなんだ?必要なら作っても構わんよ」
なんていい人なんだこの人は
「ありがとうございます。では『彼』を読んで『薬剤室』を作らさせてもらいます。」
これで王女がまたいつも通りの生活に戻ってくれればいいのだが…