2章-8
千羽西駅前通りはいつも人通りが絶えない。平日の昼間であってもそれは同じことのようだ。営業のサラリーマンらしき人物がせわしなくカバンの中をかき回している姿や気ままにコーヒーショップへ入っていくマダム。垣間見える社会の構図に苦虫を噛み締めるような気持ちでいると、前を歩いていた理奈が足を止めた。
「ここにしよ!」
練は目を疑った。目の前にあったのは牛丼屋だった。
普通なら、女の子ってパスタとかドリアとかそういうちょっと洒落たものを提案してくるものだと思っていた練にとって、牛丼という彼女の選択は理解の範疇を超えていた。
「おまえ、正気か」
練が思わず口にした一言に理奈はすかさず反応する。
「言ったでしょ、フィーリングだって。今はパンケーキとかそういう気分じゃないのね。それにーーーー」
「それに?」
「やっぱり何でもない。気にしたら負けよ」
そう言って、理奈が静かに笑う姿はどこかで見たことのある表情だった。優しく格好いい彼女の面影が脳裏をよぎったが、すぐさま振り払う。
「じゃあ入るか。どうせ俺のおごりだ。安いに越したことはない」
練は自ら進んで店内へと進んだ。理奈も後ろからついてくる。入り口側にある食券を素早く購入すると、店内を見回した。平日の昼間の割には寂しい客入りである。適当に席を選んだ練の隣に食券を購入してきた理奈が座る。ほのかに甘い香りがした。いつもの理奈とは違う。しかし甘い香りの女の子とも違う、新しい香りだった。
すると、理奈が突然口を開いた。
「女の子ってさ」
「練くんが思っている以上に普通なんだよ」
練が理奈の表情を伺おうと横を向いたものの、ちょうどいい角度で彼女の表情が見えない。
「それってどういうーーーー」
言葉を遮るように注文した牛丼がテーブルの上に置かれた。




