放課後の想い
放課後。
教室。
誰も居ない。
秘密の香り。
何となく部活に行くのが億劫で、
皆が部活へ行ったあとも、ひとり教室に残って、空を眺めていた。
私には好きな人が居る。
誰にも言えない、誰にも本気だなんて言えない。
セ ン セ イ
禁断の恋を予想される、甘くも苦い響き。
殆ど話したことはない。
他の子が話しているのを、羨ましそうに見つめていただけ。
先生は私に話しかけてくれない。
それはきっと、私が可愛くないから、私が人懐っこくないから、私が頭悪いから、
そうだ、きっと、そうだ。そう思っていた。
「何やってんの?」
背中がゾクっとする。
「せんせ?」
愛しい人の声がする。
「部活は?行かないの?」
初めてだ。
先生のほうから、話しかけてくれたのは。
「何か、行きたくないなーって」
「そういう時もあるな。でも、行かなきゃダメだぞ」
私の頭をコツンと叩いて、子供のような笑みを浮かべる。
ダメだ。もっと好きになる。
「せんせ」
「ん?」
「好きな人、とか居ますか?」
「何?いきなり」
自分でも吃驚するくらい唐突に、その言葉は出た。
密かにずっと知りたかったこと。
何故このタイミングで聞いてしまったのかは分からない。
ポっと顔が赤くなる。
「あ、すいません」
「いや、良いよ。普段あんまり喋らないから、急にそういうこと言われて吃驚しただけ」
「で…居るんですか?」
何故、今日の私はこんなにも積極的なんだろう。
放課後の開放的な雰囲気からか、それはよく分からない。
「居るよ」
「そうですか…」
一瞬微妙な空気が流れた。
聞かなければ良かった、と後悔した。
少女漫画か何かなら、「居るよ。お前」なんて台詞が飛び出すのかも知れない。
でも、現実がそんなに甘いものだとは思わない。
「ちなみに、誰ですか?」
聞かなくて良いのに飛び出す言葉。
私は何を言っているんだろう。
「んー、お前の知らない人だよ。ま、大人は色々あんの」
「ですよね。そうですよね」
無理に笑ってみせた。
顔が緩んだ瞬間、涙も同時に流れた。
「え?何、何で泣いてんの?」
「何でも…ないです。すいません…」
最初から分かってたことなのに。
先生と生徒なんて、最初から実らないって決まってるのに。
「もう、泣くなよ。ごめん」
「いや、先生は悪くないです…」
「これ。これで涙拭け」
差し出されるハンカチ。
無言で受け取り、涙を拭く。
「すいません…。明日、洗って返します」
「まったく、お前は世話が焼けるな。じゃあ、俺は戻るから」
「はい」
そう言って、職員室のほうへ戻っていく。
「先生、ありがと」
聞こえない声でそっと呟く。
先生に好きな人が居ても構わない。
また、明日も、今日みたいに話せればそれで良いと思った。
先生のハンカチは、男の人の良い匂いがした。