6~シロ サイド~
・・・・・なにを言っているんだろう?
司祭様はいったい何を言っている?
混沌?劣化神?なに?何の話だ?
なぜか司祭様がわけのわからない話をされたんだが。
・・・なぜだ?
僕は司祭様に進路の相談をしていて、ちょっといろいろと溜まっていたものを漏らしてしまったりもした。けど司祭様が、あの司祭様がこんな意味不明のわけのわからない話をされる様な事をしてしまったのか?
確かに僕は今どうしようもない、どうにもならないことへの愚痴は漏らしたかもしれない。
でもそれは、いやそれくらいであの司祭様がこんなわけのわからない話をするだろうか?
そう、あの司祭様だぞ。
この街の教会のトップで、この街の実質的なトップ。
司祭としても最高位である灰色を纏われ、もう数年この街でおつとめになれば確実に司教に昇格されると言われるほどの方が。
そんな方が僕程度の人間が少々愚痴ったくらいでこんなわけのわからないことを言うか?
僕はなにかやらかしてしまったのか?
はっきり言ってわからない、わからないんだが・・・なにか変な感じだ。
・・・そう変な感じなんだ。
こんなわけのわからない、まったくもって意味不明な奇妙な話なのに妙に残っている?
残ってる?
そうだ残ってるんだ。
記憶に?
いや、違う。
なんというか記憶というよりも心・・・もしくは魂にでも直接刻まれたといえばいいのか。
とにかく僕の中に今の話が残っていて、うまくいえないが変な感じがしてて、すごいモヤモヤしてて、変な、これまで経験したことのないわけのわからない感覚がする。
「シロ君、すみません。かなり話が脱線してしまいましたが、シロ君が進路を決められない理由については理解したつもりです。」
・・・いけない
なにか・・・混乱でもしていたのか?
司祭様が話をされているのに気づいていなかった。
話を聞かなければ。
まだ僕の中に表現のできない感覚はあるのだけれど今は司祭様の話をちゃんと聞かないと。
「たしかにシロ君のような特殊な事情がある子には、この国は生きにくいかもしれませんね。
しかしシロ君、この国を出るには門をくぐらなければいけないのは理解していますね?
それは簡単なことではないということも」
わかっている。
それがあるのはわかっている。
わかっているからなにも出来ずにいるんだ。
言葉にはださず、ただ小さく一つ頷くことで返した。
「わかっているのですね。
では言いましょう。この大陸を出て、他の大陸、他の氏族の国に行く方法は3つです。
1つは商人になり、大陸間交易の許可証を得ることです。
2つめは冒険者になりランクを上げ、冒険者ギルドに認定されることです。
3つめが教会で学び神官になることです。」
しってる、密出国でもしない限りこの大陸を出る方法はその3つだ。
でも1つめは無理だろう。
大陸間交易の許可証が貰えるような大商人には僕はなれないし、そんな大商人が僕を雇うとは思えない。
もし雇われても、大陸間を移動するには自分の身が守れる程度の力がいるが、僕にそれはない。
2つめも同じ理由だな。冒険者には街中専門であっても、ある程度の戦う力がいる。しかし戦えば子どもにも負ける僕にその力はない。
3つめだがこれも難しい。ただ学び神官になるだけなら可能だろう。しかし他の大陸に言って学ぶとなれば話は変わる。神官を目指すだけならこの街でも十分だ。それを他の大陸に行って学ぶとなれば、かなりの資金がいる。もしくは有力者の推薦か、教会の奨学枠に入る必要がある。
孤児である僕に資金はなく、有力者なんて目の前の司祭様しか知らないし、今年のこの街からの奨学枠にはウイルが入っている。
ウイルに勝てる要素なんか僕には全くない。そんな人間を司祭様がわざわざ推薦する事もない。
結局この大陸をでる方法は現状全くないんだ。
いつもここで行き詰る。
この先の展望が全く思いつかない。
この孤児院を出れば、僕にはなんの力もなく、魔人族のできそこないでしかなく、単なる欠陥品でしかない。
もう守ってくれる人も、助けてくれる人もいなくなる。
奴隷のように他人の情けにすがって生きるのか?
いや、生きられるのならまだいいさ。
ただ面白半分に命を奪われる。
常にそんな危険にさらされ続ける。
その辺にいる子どもにだって虫を殺すように殺されるかもしれない。
僕はできそこないの欠陥品だから・・・・