4~進路相談・2~
「さてシロ君、本題に入りましょうか。
今年孤児院を出る予定の子どもたちのうち、シロ君だけがいまだに進路が決まっていないと聞いています。
あと数カ月ほどでシロ君は孤児院を出なければいけないことは理解していますね?」
「はい、それは理解しています。」
「ふむ、理解はしているんですね?ではなぜこの時期になっても進路がきまっていないんですか?
シロ君達は、あともう数カ月で孤児院をでていかなければなりません。これは孤児院のルールです。
進路が決まっていないと私たちもシロ君を安心して送り出せません。ずっと孤児院にはいられないんですよ。
このままだと進路が決まらないまま私たちはシロ君を外に出さなければいけなくなります。
シロ君が故意にルール破るような子だとは私には思えないんですが、なにか事情があるなら相談してみてはくれませんか?」
事情・・・ね。
言って理解されるのだろうか?
相談してほしいと司祭様に言われるのは正直嬉しい。
だがどうなんだろう、言って理解されるのか。
僕の事情ははっきりいって魔人族の中では例外的・・いやありえないといってよい様な問題だ。
僕の事情は簡潔に言うと、魔人族にとって当たり前のはずの魔術が使えない。
この一言につきる。
魔術が使えない、使えても幼児が使えるレベルと大差がない。
魔術が使えない、魔人族の一般的な生活を送るための生活魔術も、魔術を使う一般的な生活用具もほとんど使うことができない。
たとえば運よくどこかで職を得たとしよう。じゃあそこでなにができる?
商家に就職した場合はどうだ?
厳しいな、商家で一般的に使われている道具が使えない。すべて手作業だ、とても非効率だ、効率を重んじる商家でそんな奴必要か?
じゃあ手作業と言うなら、どこか職人に弟子入りしてはどうだろう?
厳しいな、結局主要な道具が使えないため、ろくに仕事ができない。できても下働き程度か?
じゃあ下働きを含め肉体労働はどうだろう?
厳しいな、これも道具が使えない上に僕は肉体強化の魔術も弱い。道具も使えず、体も頑丈ではない。そんな奴がなんの役にたつだろう?
だいたいどの職についてもそんな感じだ。
結局なにをやっても役に立たない。使えないんだよ。
僕は孤児で親の顔は知らない。でも僕は長命種であるらしい。
僕の寿命がどれくらいなのか?
それははっきりとはわからないが、長命種である以上少なくとも数百年は生きることになるだろう。
数百年、数百年間今と同じでなにもできない役立たず。
今と同じように、他人に蔑まれ見下され、常にこの社会の最底辺にいる?
そんな人生に何の価値がある!
僕はいやだ!
別に偉くなったり、人の上に立ちたいわけじゃない。
ただ普通に、人並みの生活と人生を送りたいだけなんだ。
だが、ここでは・・・そう、ここではそれは望めない。
この魔人族の国では、この大陸ではそれは望めないんだ。
僕はこの大陸を出たい。出ていきたい。
「・・・司祭様、僕の事情は簡単です。
僕は魔術が使えない。半人前以下の落ちこぼれです。
魔術が使えない以上、僕はこの大陸ではなんの価値もない虫けら以下のゴミクズだ。
ここを一歩出れば僕は人として扱ってもらえないんです。
・・・僕の進路が決まらないのは僕がなにもできないから。
何の役にもたたないからなんです。
・・・だから僕はこの大陸を出ていきたい。
人並みに・・そう人として僕はいきていきたいから・・・
でも・・・僕にはこの大陸を出ていく術がない。
また、出ていけてもなんのあてもないんです。
だからなにも決められない・・・
ただ、そう本当にただそれだけなんです。」
沈黙が訪れる。
言ってしまったと思う。
言ったところでどうにかなるとは思ってはいないが、それでも言ってしまった。
甘えているんだと思う。司祭様に縋りたいんだと思う。
もう本当にどうしたら良いのか判らなくなっていたから。
目の前は真っ暗で、なにも見えないから。
だから甘えたい、縋りたい、助けた欲しい。
そういうのが抑えきれなくなってしまったんだと思う。