黒の代行者 1~シロ~
いろいろ考えていたらえらい時間がかかってしまいました。
ちなみにまだ着地点は決めきれてないです。
「お~いシロ。司祭様がお呼びだぞ。時間ができたらでいいので、執務室に来るようにってさ。」
「ん、司祭様がか・・・わかった、執務室だね?行ってみるよ。伝えてくれてありがとう、ウィル。」
「おう、どういたしましてだ。しっかし執務室ってのはなんかやったのかシロ?」
「う~ん・・・特に何かをやった憶えはないんだがね、まあ呼び出されるおぼえは・・・あるかな?」
「ほ~心当たりありか。意外だな、品行方正なシロ君が司祭様に呼び出しをくらうとはな。」
「からかうなよウィル。別に心当たりといっても大したことじゃないんだ。・・・・そうほんとに大したことじゃないんだよ・・・。」
「いや、なんかかなり暗いぞシロ。全然大したことじゃないって雰囲気じゃないんだが、本当に大丈夫か?」
「ははは・・・は~。 ・・・うん、大丈夫さウィル、心配してくれてありがとう。」
「ああ、ん~まあ大丈夫と言うならこれ以上は聞かんが、なにかあるなら話してくれよ。まあ俺には言いたくないような話でも司祭様なら聴いてくださるし、仮にシロがなんかやらかしてて、懺悔の類の話でも司祭様ならきちんと聴いてくださるだろうしな。」
「うん、そうだそうだ、それがいい。どーせ司祭様に呼ばれてるんだしこれから行ってきっちり懺悔してこい。」
そう言ってウィルは僕の背中をバンバン叩いてくる。
気のいいやつなんだよなウィルは。
早とちりなところもあるが基本的に豪快で明るい性格で気配りもでき人を引き付ける。
この孤児院では昔から皆に慕われる兄貴分的なポジションにいる。
小さいころから内向的であまり人付き合いの上手くなく、致命的な欠陥がある僕が、孤立することもなくこれまでやってこれたのも、ウィルがなにかと気にかけフォローしてきてくれたおかげだ。
「うん、ありがとうウィル。ちょっと司祭様のところに行ってくるよ。」
「おう、なにかは知らないがしっかりやってこい。」
ウィルと別れ司祭様の執務室に向かう。
話というのはおそらくは進路のことだろう。
今年学校を卒業し孤児院を出る予定の者の中で、僕だけがいまだにはっきりとした進路を示せていない。
そうなんだ、僕は進路をはっきりと決めきれない。
僕は・・・僕はどうしようもない落ちこぼれだ・・・
僕は魔術がほぼ使えない。
魔人族ならば使えて当たり前のはずの魔術が使えないんだ。
初級程度ならば(人よりかなり劣るが)なんとかなる。
しかし初級魔術とは4大氏族の中で最も魔術を得意とする魔人族にとって、子どもでも使える程度の魔術でしかない。
魔人族の中で最も魔術を不得手とする枝族でも、大人なら上級魔術位は当たり前に使う。
初級魔術程度しか使えないというのは、4大氏族の中で最も魔術を使えないといわれる人間族と大差ない程度だ。
しかし人間族には魔導科学という独自の技術があり、それをもって世界の3分の2を征服した過去がある。
そして僕は魔人族だ。
他のどの氏族でもなく魔人族だ。
この魔人族の証である真紅の瞳がそれを証明している。
そうなんだ僕は魔人族だ。
なのに魔術が使えない。
魔術が使えて当たり前。
社会の全てにおいて魔術ありきのこの魔人族の社会の中で魔術が使えない僕に、魔人族の社会の中でどうやって生きていけばいいのか・・・
これが僕が進路を決めることができないでいる理由だ。
考え事をしながら歩いているうちに司祭様の執務室の前に着いた。
司祭様なら僕のような落ちこぼれにもなにか道を示して下さるのだろうか。
一度深呼吸をし覚悟を決めドアをノックする。
「司祭様、シロです。お呼びと聞き参りました。」
「・・・ああシロ君ですか。入ってください。」
「はい」
司祭様の返事を聞きドアを開ける。