彼女の記憶***③
***
☆
いつのまにか、私の視線は久我を追うようになっていた。無愛想な彼がなんだか気になって、どんな奴なんだろって思っただけ。
なのに…
☆
「おまえ邪魔」
こんな冷たい態度の久我なのに…
ガタッ
痛ったぁ…
右腕が立て掛けてあった木の板にすれて、血がにじむ。
「だから、危ねぇって言っただろ」
文化祭が近づいてて、男子は看板作りの真っ最中だった。
「もっちゃん、絆創膏ある?」
女の子らしいもっちゃんはもちろん持っていた。
さすがだ…私とは大違い。
☆
一段落したとこで、一旦休憩を挟むことになった。
もっちゃんと戸口のとこで寄りかかって話してたら、出ようとしていた久我と目が合う。
「さっきの平気?」
さっき?何?
「だから、それ」
右腕に貼られた絆創膏を指差す。
「あぁ、全然平気…擦っただけだし…」
「なら、いいけど」
もう話終わりになった。口数少ない。
久我行っちゃったし…。
けど…一応心配してくれたんだよね、ほんとに分かりにくい。
☆
教室に戻ってきた久我は、友だちと笑っていた。
久我は笑うとずっと幼くなる、無邪気な少年って感じ。
「…ねぇってば!!」
「あ…ごめん、もっちゃん何?」
「とーこちゃん、シンくんとまだダメ?」
「ん…別にあいつが悪い訳じゃないんだけどね。分かってる…分かってんだけど…まだ…今は会いたくないんだ」
だって、あん時の気持ち思い出す…から。
まだ辛い…。
☆
「トコ…待てよ、話聞けってば」
……。
「俺…お前ほんと傷つけるつもりなくて…」
…嫌だ…思い出したくない。
私はシンを振り切り走って逃げた。
☆
また…涙出そう。
絵の具の臭いが立ち込める教室。
衣装やたくさんのお化けがあちこちに置かれている。
「…変なの…化粧してるみたい…」
かぶるタイプのお化けは、何故か口がピンク色でチークやシャドウがついていた。
ガラッ
もうみんな帰ったはずなのに…突然の音にびっくりする。
大量の袋を抱えた久我が入ってきた。
目が合う。
「あれ?久我どうしたの?」
私は涙目なのを誤魔化すように、慌てて話かけた。
「買い出し」
端におろされた大量の袋からは、ペイントするのに必要なハケや様々な色の缶がでてきた。久我、看板係だしね。
また…目が合う。
久我こっちを見てる…なんで?
「あ…あぁ、大変だよね看板あとどれぐらい…」
私は慌てて…移動したのがいけなかった。
足が引っ掛かり転んだ先には
ガタガタ…
「危ねっ…てぇ」
なんとか久我が止めてくれて台は倒れなかったけど…かけてあった衣装やお化けが次々落ちてくる。
「木原…」
久我が吹き出して笑う。
「それ…お前に似てる」
私の上に落ちたお化けは化粧をしてるみたいなブサイクなお化けだった。
「似てないし」
久我…まだ笑ってる。初めて間近でみた、こんなに笑う久我。
なんでか…ドキドキした。