彼女の記憶***②
***
☆
「颯…また断っただろ、お前彼女欲しくねぇの?」
「あんま興味ねぇ」
「は!?お前さてはホモ…ってマジ痛てぇよ、蹴んなって」
また窓際んとこたまってる。
久我も友だちと話すように、女子にも接すればいいのに。あんま女子の前だと笑わないよな。
「ちげーし、ふざけんな」
「颯、お前彼女いた時期とかあんの?」
「まぁ一応…他校だけど」
「何それ知らなかった、西女とか?」
「ん…まぁ、そう」
「西女可愛い子多いよな、マジで羨ましい。でも、なんで別れたんだよ?」
「なんでって…、めんどくせぇし」
盛り上がっていた男子たちが凍りつく。
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男子たちの反応に私は思わず、吹き出してしまう。ヤバイ…話聞いてたのがバレる。なんとか咳をしてごまかす。久我颯って変わってる。西女と付き合うってクラスの男子の憧れのはずなのに。
男子とはよくつるんでるけど、女子にはそっけない態度だし。
☆
「ねぇ、なんで久我くんモテんのに誰とも付き合わないんだろうね」
昼休み…ネイルをしながら、もっちゃんはマイペースに聞いてくる。
さっき、廊下で1年の子に声を掛けられているのを私たちは目撃してしまった。遠くからでも、彼の不機嫌そうな表情、彼女の今にも泣き出しそうな表情から、いい返事ではないことは明らかだった。
「んー、さぁね、分かんない。あいつ変わってるし」
お腹いっぱいになったら眠い…私はあくびをしながら答える。って…ヤバイ後ろに久我いたじゃん。聞かれたかも…。
「あー、なんかごめん、悪口言って」
無愛想な久我に私はすぐに謝る。だって、いないとこでこういう風に言われんのって気分良くない。
久我は…一瞬また笑ったように見えた。何も言わずに、友だちんとこ行っちゃったけど。よく分かんない…てか、あの不意打ちな笑顔やめてほしい…。
☆
あ…私は目線をそらしてしまう。
彼が通りすぎる間、息苦しさを感じた。
まだ、ダメ…普通にしようって頭では思っても、小さな頃みたいに元通りの幼馴染みにはなれない。
気持ちがおちてしまう。
シン…ごめん。
☆
放課後…。
担任に次の授業で使うプリントを留めとくようにお願いされた。ほんとは、もっちゃんが日直だったんだけど、早退しちゃって…代わりに私がしている。
パチッパチッとホチキスの音だけが響いた。
久我と2人きりとか気まずい。なんか話さなきゃな…。
「ねぇ、久我って彼女いたことあんだよね」
いきなりの私の質問にかなり驚いた様子の久我。
「そうだけど。つか何?いきなり」
「いや…ね、ほら久我って告白されるけど、断ってるじゃん。だから、その彼女のことはすごく好きだったんじゃないかなって…」
あ…しまった、久我すごく嫌そうな顔してる。
「好意」
「え?何?好意って」
「好意もたれんのって悪い気しねぇし、なんとなくで付き合った。けど、だからって誰でもって訳じゃねぇから、簡単に付き合うのやめた」
ばつ悪そうな顔をして視線をそらす久我。
照れてんのかな…分かんない。
「もうこの話題やめね?俺こういう話あんま好きじゃねぇし」
不機嫌そうだよな。
「あ…うん、ごめんね」
私の方が慌ててしまった。
☆
私は…幼馴染みじゃなくて『女』としてみて欲しかった。意識して欲しかった。
けど…付き合っても、幼馴染みのままだった。
優しかったけど触れてもこないし、彼の態度は付き合う前と何も変わらなかった。
結局、彼は元カノとよりを戻した。意地をはってただけで、ずっと想いは消せなかったんだって。じゃあ私は?…なんだったんだろう。
好意?
小さな頃からの関係を壊した私。
彼も私の気持ちを知った時、悪い気はしなかったのかな。困らせてばかりいた気がするけど…。
もし、少しでもそうだったら…嬉しい。