彼女の記憶***
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高校2年の秋…颯を意識し始めたのは、ちょうどこの頃だったと思う。
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またやっちゃった。
男子が私のこと『女じゃない』とか『気強い』とか
言ってんのは知ってる。
けど、友だちが傷つけられたりするのは嫌だし、つい口調も強くなってしまうのはしょうがないと思う。
これでも、ずっと小さな頃から好きな人がいて、女の子っぽくしようと努力したことはあった。
けど、ヒラヒラにふわふわ、甘くて可愛い…そんな女の子に到底慣れるはずもなくて。
あ…嘘、努力が…できてなかったんだ。足りなかった。女の子っぽい服装やしぐさ、態度はどこか恥ずかしくて…私に似合わない。つっぱねてた。
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「ねぇ、サユいんのに西女の子となんで合コンの話になってんの?」
「あ…木原、いや、違くてさ…ただ断れなくて、まぁ人数合わせだし、黙ってて、頼む」
手を合わせ必死に訴えてくるけど、ありえないし。
たまたま聞いちゃったサユの彼氏、山口の会話に私は割り込む。
「ムリ。行くならサユに言うし」
「だから…、ほんとお前は融通聞かねぇよな」
「山口、木原に言うだけムダだって。だってこいつ恋愛経験ゼロだから。まぁ、納得だな」
「ケンちゃんに言われたくないけど、私だって恋愛ぐらいするし」
私は二人をにらみつける。
けど、笑われた。
「木原の彼氏とか想像できねぇし、甘えたりできんの?お前?」
……。
「女はもっと可愛い方が男はいいんだって、木原はまぁ俺らは付き合いやすいけど、女として見れねぇしな」
ケンちゃんが笑いながら、ふざけて私の頭をぐちゃぐちゃにする。別にいいけど、女に見られたいわけじゃないし。けど…なんかこんなん言わなくてもさ…。
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「ケン、笑い声うるせぇって」
不機嫌そうな低い声が私たちのやりとりを遮る。
山口の斜め前の席…久我颯。
「いや…悪い、木原に恋愛のアドバイスしててさ」
久我颯の視線はケンちゃんから私に移る。
切れ長の瞳…なんか怖い。
「あ…ごめん、うるさくして」
私は気まずくて、とりあえず謝ったんだけど…
「別にお前に言ってねぇし」
視線はもう私にはなくて…
「ケン、俺にも恋愛のアドバイスしろよ」
そう言った久我は、いたずらっぽく今度は笑った。
「おまえ…は十分モテっだろ、嫌味かよ」
結局、男3人でふざけ合っている。
場が和んだような気がする。
もしかして…久我、助けてくれた?
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下駄箱んとこで、久我を発見する。
イヤホンをしていたからか、私が大きい声で後ろから声を掛けたら驚いてた。
「おまえ…びっくりさせんなよ…何?」
わ…すごい無愛想なんだけど。
お礼言おうと思っただけなのに…。けど、私の勘違いかも…助けるタイプにはあんま見えないし…。
呼び止めたことを今更後悔する。
……。
彼からため息が1つこぼれた。
何?なんでそんなめんどくさそうなんだろ。
「用ないなら、俺行くけど」
不機嫌そうだし、声も低いし。
「あ…うん、ごめん。ありがとね、さっき」
あ…お礼言っちゃった、なんか変だよね。
私は慌てる。
「別に…。あいつら悪気ねぇとこがたち悪いよな」
え?やっぱ助けてくれたんかな…んー、よく分かんないよ久我って。
「うん、けど確かに2人の言ってること当たってるから」
私は誤魔化すように笑ってみせる。
こんなんなんか気まずいし。
……。
「ま…あんま気にすんなよ、人それぞれじゃね?じゃあな」
一瞬笑ったようにみえた彼は、そのまま行ってしまった。