一応彼氏
☆
颯と…身体だけつなげたって、何も変わらないみたい。
むなしくなる。
「颯…今日さ」
「ん…あぁ、何?」
彼はする前も、した後も何も変わんない。
私とそういう雰囲気になんないって言ってた…のはなんとなく分かる。
いつも面倒くさそうだし…そっけないし。
だったら…付き合うのOKしなきゃよかったのに…。
1度も好きとか言われたことないし…。
「ううん、何でもない。今日もっちゃんたちと遊ぶから、一緒に帰らなくて平気だから」
……。
「谷口も一緒?」
「シン?そうだけど…」
「へぇ…まぁ、楽しんで。じゃ、俺行くから」
☆
「トコ、お前ちょっと元気なくね?また、あいつとケンカ?」
シンが心配して声をかけてくれる。
私…気まずくて、シンと話したくなくて避けてた時期あったのに。昔と変わらずに接してくれる。
またこうして話せるようになってよかった。
★
「お前なんか機嫌悪くね?」
晴紀がそんなことを言い出す。
「別に。普通だろ」
俺は笑った。
★
『颯…』
俺を呼ぶあいつの表情…マジ反則だよな。
なんなんだよ、あれ。
手ださねぇって、決めてたのに…最悪。
★
谷口と木原の関係を知ったのは、付き合ってすぐの頃だった。
木原は男とも変わらずに接するタイプだし、よく一緒にいる男がいるとは気づいても、友達だと思ってたいして気にしてなかった。
けど…
「颯、東子ちゃんまた谷口といるぜ、お前気になんねぇの?」
「別に」
「まぁ、谷口と木原、…幼馴染みらしいし、しょうがねぇか」
幼馴染み?
つかそれって…
「なぁ、俺2年時木原と一緒のクラスだったけど、1度も谷口と一緒にいるの見たことねぇんだけど…」
「あ…あぁ、なんかケンカしてたらしぜ、よく知らねぇけど、最近じゃね?また話すようになったの」
マジかよ。なんだそれ…。
つか、木原がフラれた幼馴染みって谷口だろ。
なんでまた一緒にいれんだ?
★
「ねぇ、颯、風邪引いた?」
「なんで?」
「んー、なんか声がいつもと違う」
今朝から確かに少しのどが痛かった。
「はい、これあげる。こじらせちゃダメだからね」
リュックの中を探していた木原から渡されたのは、のど飴。なんでこんなん持ってんだか…。
「木原…」
俺が呼び止めると、彼女は振りかえる。
「ありがとな」
木原は答えず、照れながら笑った。
★
晴紀たちの待つ屋上への階段んとこ、すれ違いざま、谷口に呼び止められた。こいつの強気な視線が俺を苛立たせる。
「何?なんか用?」
俺の変わらない表情に、谷口もまたイラついているのを感じた。
「何じゃねぇだろ、トコのことだよ。お前一応今付き合ってんだろ。もっと優しくできねぇの?」
「一応…な。優しくってさ、お前に言われたくねぇんだけど」
木原がなんで谷口にフラれたのかは知らねぇけど、あいつは泣いてたし…。
「俺さ…トコ傷つくの見んのもう嫌なんだよ」
必死の表情だ…つか未練だらけじゃん。こいつも。
バカみてぇ。
「じゃ、お前が優しくしてやれば?お前にやるし。じゃあな」
ガタッ
谷口に胸ぐらをつかまれる。
なんでこんな熱くなれんだか。
「離せよ」
俺は谷口の手を振り払うと、そのまま屋上に入った。感情にまかせて口走ったセリフ。
のどの奥がじんじんした。痛てぇし…。