私たちの関係
☆
最初に付き合ってから11ヶ月が経つ。
けど私たちの関係はずっと曖昧だった。
☆
「谷口、木原ちょっと借りていい?」
颯が教室のドアから顔をのぞかせた。
無愛想な態度は相変わらず。
私はそれでも、彼がクラスまで来てくれたことを素直に嬉しく思う。
「なに?」
「ん…あぁ悪りぃ、バイト入って帰り一緒ムリになった」
え~、最近またちょくちょく颯はバイトに呼び出される。西高の子は補習が入るとバイトに間に合わないらしい。
「…分かった。バイト頑張ってね」
残念だけど、バイトならしょうがないし…。
手をふって、戻ろうとしたんだけど、彼に背を向けたとこで、肩をつかまれる。
「かわりに日曜、お前言ってた店行くか?」
「え!?いいの?」
「あぁ…ってもう機嫌直ったのか?」
颯は私の顔を見ると、吹き出して笑った。
最近、颯は以前より笑ってる気がする。まぁ、バカにしてる感じもあると言えなくもないけどさ…。
そんなことを考えながら、彼の顔を眺めていると、ぽんと頭を叩かれた。
「じゃ、俺行くわ」
用件が済んだ颯はそのまますぐ行ってしまった。
相変わらずそっけない…けど…
私の顔は、にやけてしまう。日曜デートだ。
☆
お店…それは、こないだもっちゃんとシンが2人で行ってきたというパンケーキのお店。隣町で放課後行くにはちょっと遠いんだよね…。
もっちゃんは…仲良さげに見えた彼氏と別れてしまった。最初は楽しかったけど、一緒にいると疲れちゃうとか…。もっちゃん告われて付き合ったけど、好きにはなれなかったのかな…。
シンは…どうすんだろ…。
シンは自分の恋愛とか話さないし。
席に戻ると…
シンともっちゃん…笑い合ってた。自然なかんじ。
何か2人も変わっていくのかもね…。
「トコ…何にやけてんだよ」
「別に~」
「とーこちゃん、久我くん何の用だったの?」
「あ…もっちゃん、颯一緒に帰れないってさ」
「…のわりには、機嫌いいよな」
ぼそっとシンがつぶやく。
…相変わらずするどい。
「お前…一応ちゃんと『彼女』に見えるわ、最近。お前らなんか雰囲気変わったよな。あいつも笑ってっし…前はすげぇ不機嫌そうな顔してたけど…」
一応ちゃんと?
違うし…今はちゃんと『彼女』だ。
★
…不機嫌になったと思ったら、すぐ嬉しそうな顔するし…なんかやっぱ素直っつーか、単純つーか。あぁいう顔されっと…調子狂うんだよな。
他の女には湧かない感情。
俺の中で変わったこと…
それは…
あいつが谷口と楽しそうにしてんの見ても、あんま苛つかなくなったこと。
その分優しくできっかも。
つか、勝手に誤解して前はやっぱ俺冷たい態度とってたんだよな…。
口が悪くなったり、態度とかあからさまに変えることができないのも事実だが…。
単純は俺の方か?
☆
日曜日のデートはすごく天気でそれだけで嬉しくなった。窓の外…陽の光でなんかきらきらしてる。
目の前の彼に視線をうつすと、
顔を強ばらせながら、飲み物と一緒流し込んでるっぽい。あんま甘いの好きじゃないくせに、付き合ってくれてるんだよね。気づいてしまったら、心がじんとあったかくなる。
周りには数組のカップル…その中には高校生もいた。彼氏はピアスしてて、一見クールな感じだけど、彼女に笑いかける雰囲気がなんか優しげだ。2人のつくる雰囲気から仲良しなのが伝わってきた。
それに…
繰り返される二人の会話が聞こえてきてしまった。
花…蒼叶…いいなぁ、名前で呼び合うって。
「木原?」
ぼんやりそんなことを考えていたら、彼に声をかけられた。木原…か。黙ったまま、私は生クリームのついた欠片を口に入れる。
……。
「なに、怒ってんの?」
「別に怒ってないけど…さ、颯は私のこと『木原』のままだよね」
彼は私の言いたいことを理解したようだった。
ばつが悪そうな表情に変わる。
「クセっつーか、ずっとそう呼んでたし…あんま気にしたことなかったんだよな」
……ヤバイ。込み上げてくる感情をひとつ息を吐いて落ち着かせる。颯はモテるくせに女心とか全然分かってない。
「じゃあさ…『トコ』でいいから呼んでよ」
「……。」
★
谷口のこと前ほど苛つかなくなったとはいえ、幼馴染みのあいつと同じ…正直呼びたくねぇ。
前に1度付き合い始めた頃、今日みたいに言われたことがある。あん時は谷口が元カレだと思ってたし
今以上に呼ぶ気にはならなかったが…。
☆
颯はなんか誤魔化した。結局変わらないみたい。
私、やっぱ怒ってんのかな…なんか胸がもやっとする。
……。
けど、せっかくのデートだし、ケンカしたくない。
私はもやもやを心の奥にしまい、誤魔化した。
☆
「これからどうする?」
颯が聞いてくる…まだ一緒にいれるってことだ…。
うん、それだけで嬉しいのはずだよね…。
「えっとね、颯がこないだ言ってた靴…」
店を出たとこで話してたら、さっきのカップルがでてきて、会話を遮られる。
『花…これから俺んち来るか?健叶がうるせぇんだ』
『うん、私も会いたい。蒼叶んち久しぶりだね』
やっぱ仲良しだよ…この2人。彼氏彼女ってかんじ、どっからどうみても。私たちは?…どうみえてんだろ…。
心がまた少し曇ってしまった。
……。
……。
また黙りこんでしまった私と…たぶんそういう私の態度をめんどくさそうに思ってるだろう颯。
そんな彼の不機嫌な顔を見たくなくて、うつむく。
「ぼけっとしてんなよ、ほら行くぞ…東子」
え!?
呼ばれて顔をあげると、照れて不機嫌な表情になっている彼がいた。状況がよく分からなくて…颯の様子を伺う。
「見んなよ」
「あ…あぁ…うん…」
私が笑うから、彼はますます不機嫌な表情になった。
☆
私たちの関係はやっぱり曖昧で…。
うまく伝えられなかったり、伝わらなかったりを繰り返してる。
けど…少しずつ、何かが変わっていく予感。
そう感じられる2人距離…今日この頃。
『いいなぁ、高校生カップル…』
ふいに近くから声が聞こえて、振り向くとOLさんたちと一瞬目が合った。周りをみても…もう高校生カップルはいなくて…
彼の横顔を見上げる。
「俺ら?」
「たぶん…」
私たちは目が合い、そして…笑った。
end
1つだけ残るまだすれ違いの『東子が泣いた理由』は…短編で書けたらな…と思います。
ありがとうございました。