2度目の偶然
★
あのテのタイプの女は、正直かかわりたくねぇ。
どこか、奏の周りにいる女たちに似ている。
苛つく。
どうせ、デマだろ?
気になんねぇって言えば嘘になっけど、どうしようもねぇし。
夜中に2人?
もし事実だとしても…そもそも俺の前、あいつは谷口と付き合ってんだから、俺と別れてすぐそうなっても別に不思議じゃねぇし、当たり前のことだ。
別に木原が軽い女って訳じゃねぇし。
あんな女に何勝手なこと言われてんだよ。
それより、ヨリが戻った今は、ヤケになって俺に抱かれたことの方を木原は後悔してんじゃねぇのか。泣いてたしな…。
そう考えたとたん、あいつの泣き顔が浮かんで、心臓…刺すような痛みが走る。
あいつらのことあの女が口出しすることでもねぇし、ましてや別れた俺が何も言えるわけねぇんだよ。
くそっ…やっぱ苛つく。
★
1人で頭を冷やすつもりが、屋上にあった人影…一瞬俺と目があって…けど、そいつはすぐに顔を隠した。
木原…なんでいんだよ。
しかも…泣いてっし…。
☆
音がしたと思ったら、なんで颯がいんの?
私は泣き顔見られたくなくて、隠すようにうずくまる。
あん時みたく、出ていくと思ったのに…。
めんどくさそうにため息をつくと、ドカッと私の隣に座った。
「なんかあった?」
……。
久しぶりにこんなに颯が近くにいる。
態度からは想定してなかった優しい口調…
余計に涙がにじんで顔あげられなかった。
「あ、俺やっぱいねぇ方がいいか…悪い」
黙りこんだままの私の態度に、颯は立ち上がる…
違くて…
「颯…待って!!」
私は颯の腕を慌てて掴んだ。
彼はそんな私に驚いて…
「ひでぇ顔だな」
そう言って笑った。
☆
心臓がぎゅうって締め付けられて、また涙がこぼれた。颯に見られたくなくて、慌ててぬぐった。
!?
予鈴が屋上にも響き渡る。
「あ…、颯行っていいよ」
急に我に返され、すごく恥ずかしくなって急かすように言った。けど…
「この状況でさすがに授業でろって言われてもな…別にさぼるし」
そう言って颯はまた笑った。意地っ張りな私をなだめるかのように。
……。
☆
「で、なんで泣いてんの?」
なんでって…颯が…。
颯はもう別な子と遊ぶ約束してて…
私と別れても全然平気で…私ばっかり…
のどの奥がじんとした。うまく言えそうになかった。
「言わない…」
鼻声で精一杯強がって言った。
……。
★
こんな風に泣かれたら、気になんの当たり前なんだけど…つっぱねられる。別れてんのに、なんかほっとけなくて俺なにやってんだか…バカらしくなる。
「あっそ、別に関係ねぇし…おまえには谷…」
一瞬何が起こったかよく分かんなかった。
右頬に痛みが走る。
「痛ってぇな、なにすんだよ」
☆
関係ない?
そりゃそうだよね、こんなん颯はめんどくさいよね。けど、付き合っても…別れた後も好きなのは私ばっかで…
勢いで颯の頬ひっぱたいてた。言っちゃいけない、いけないのに…
涙と一緒に我慢してた感情がこぼれた。
一方的にぶつけてしまう。
「颯はさ、私のこと彼女とすら思ってなかったし、別れてすっきりしてんだろうけど…」
「お前何言ってんの?…」
感情的になる私に彼は冷静な口調。呆れているのかもしんない。いつもそう…
「颯はさ…モテるし彼女すぐ作れるじゃん。今度の日曜だって…」
「なぁ、木原」
颯の突然のピリッとした低い声にビクッとする。
「なんで俺、すぐ彼女作れるとかお前に言われなきゃなんねぇの?」
颯は怖い顔で私を見る。
怖い顔なのに…なんか瞳が揺れてる。
「だって…颯もう私のことなかったことにして…」
「なかったことにしてんのお前じゃん」
……。
「俺は…お前のこと彼女じゃねぇってそんなん思ったこと1度もねぇけどな。バカみてぇ。俺やっぱ行くわ…じゃあな」
バタン…
ドアが閉まる大きな音と共に、颯は私を残して行ってしまった。
怒らせた…。
颯の最後のセリフ…が私の中に何度も響いた。
颯は私のこと、ちゃんと『彼女』って思ってくれてたってこと?
じゃあなんで…別な男と付き合えってそんな酷いこと言ったの?…分かんない。
また、涙が自然とこぼれた。
怒らせて悲しいのに、言ってもらったセリフが涙がでるくらい嬉しかった。
ほんとはずっと聞きたかったことだから…
颯は私のこと好き?
ちゃんと彼女だと思ってる?




