聞きたくない
☆
身体冷えた…シンも風邪ひかないといいけど。
また迷惑をかけてしまった。
湯船につかりながら、ふと思い出す…
あれ?夢…他にも見たような…なんだったっけ?
☆
「シン、昨日ありがと、風邪ひかなかった?」
「あ~お前のせいでくそ寒かった、死ぬかと思った」
私とシンの会話なんていつもこんなもんなのに…
「なぁ、やっぱお前らってできてんの?」
は!?
私とシン…たぶん同じ顔してる。
「長瀬、お前何言ってんだよ俺ら幼馴染みだって」
「うん、そうそう」
「けどさ~、昨日も夜までいちゃついてたらしいじゃん、2人で」
「シンの家で遅くまで何してたんだよ~もうやることやってんじゃねぇの?」
最悪…。どっかで見られてたのかな…。
「小森…お前もいい加減しろよ、ガキじゃねぇんだから」
珍しくシンがキレてる。ヤバイ…
「あ…シン落ち着いて…」
私はシンの腕をつかんだ。それが逆効果だったのかも。
「否定しねぇじゃん、ほら、それ…仲良すぎねぇか?」
小学生か…だんだん私も腹が立ってきた。
「あ~もう!!いいかげんに…」
「あ~あの…私もいたよ。みんなで宿題してて…それ嘘だから。とーこちゃん寝ちゃって…だから私が先に帰っただけだし…」
もっちゃんがホントのことを言って否定してくれた。けど…
「持田…それホントだけど、悪い…最後のいらなかったかも」
うん…そうそう。
シンと私は力がなんか抜けて苦笑い。
「え!?シンくん…私なんか変なこと言った?」
「あぁ…平気。マジめんどくせぇ、好きに言えよ。お前らのバカに付き合ってらんねぇし」
ほんと…真面目に返してんのがバカバカしくなってくる…ほっとこ。私とシンはため息をつきながら席についた。もっちゃんは、申し訳なさそうだったけど。
★
「久我くん…」
廊下で呼び止められる。
「何?」
「おい、颯…お前もうちょい愛想よくしろよ…」
不機嫌な俺に、側にいた晴紀が必死に場を和ませようとする。愛想よく?そんなんできっかよ…こいつ木原に俺とキスしたとか余計なことを言いやがった奴だ。
「ねぇ、久我くん聞いた?木原さんと谷口くんできてたんだって…酷くない?」
「何言ってんだ?お前」
そんなんおまえに言われなくても、前から知ってっし。
「え~だから…昨日夜中2人一緒にいたんだって、何してたんだろうね…谷口くんの部屋で。木原さん久我くんいるのにさ…」
目の前の女は、俺の気持ちをさぞ分かってるかのように振る舞う。バカじゃねぇの?
「あぁ、俺別にあいつと別れてっから」
「え!?颯、お前いつ東子ちゃんと別れたんだよ」
「あぁ…少し前?つかあれ?けっこう前か…まぁ別にあんたに木原との関係、とやかく言われたくねぇんだけど」
「おい、藍沢さんだって、お前のこと心配してくれてんだからさ…確かにあの2人仲良すぎるのは俺も思ってたけど…」
晴紀がフォローしようとしたもんだから…
「でしょ、久我くん知らなかったらどうしようって思っただけで…私は別に…。けど、別れてそんなにたたないで、次幼馴染みとなんて…木原さんも見た目によらず、すごいよね…」
すごい?つか何が?
隣の晴紀は俺の苛つきを感じて…慌てる
「あ…あの、藍沢さんそろそろ…教…」
「藍沢、ひがみかなんか知んねぇけど、お前正直うぜぇわ。悪い…晴紀、俺先行く」
「なんで…木原さんの味方…」
味方?
「あ、おい待てよ」
味方なんて別にしてねぇし…。
☆
朝から今日はついてない。
変な噂たつと嫌だから、今日はシン抜きで昼御飯。
「ねぇ、もっちゃん…私たちどうやったらできてるように見えんのかな?」
怒ったまま、サンドイッチを頬張る。
「え?あぁ、あのね…言いにくいけど…見ようによってはね、見えるかも」
「え!?」
「まぁ、私はとーこちゃんとシンくんの仲知ってるし、そうは思わないけど…」
よ、よかった…これでもっちゃんにまで変な誤解されたら、シンに申し訳がたたない。
「そう、私もシンもお互い全く恋愛感情ないからね。シンの好みって私とタイプ違うし…ね、もっちゃん」
「そうなの?」
もっちゃん相変わらずマイペースだな。
全然気づいてないよ…シンが行動にうつせないのも分かるような…。
「あ…私なんかあったかいの買ってくるけど、もっちゃんもいる?」
「ん~じゃあ、ミルクティー」
「おっけー」
って…シンいるじゃん。
机の上にミルクティーが置かれる。
「持田、これやる。さっきは一応フォローありがとな。…ったくトコのせいで…」
「シン、私の分は?」
「ねぇよ」
わ…この違い。絶対彼氏になんて見えないし。
「もっちゃん、シンにかまってたら時間なくなるし、行ってくる」
☆
自販機んとこ、晴紀くんたち…5組の子もいる。
一瞬ドキッとしたけど、颯はいなくて…ほっとしたような。まだ、だってどうしていいか分かんないし。
「それ、ほんと?」
「あ~うん、だから颯今フリーだし行けっから」
「晴紀くんも、マユ来れて嬉しいんじゃない?」
「ユキちゃん、晴紀今回マジだから頼むね」
「え~、でも楽しみだね、日曜」
考えたくないのに…ほんと今日はついてない。
なんでこんなん聞いちゃうかな。
☆
屋上…こんな寒い日に人なんているわけなくて、がらんとしてる。私はあったかいココアをすすった。
なんかさ…ほんと…
すごくみじめで苦しい。ナオくんの時はどうやって立ち直ったんだっけ?
恋愛でのつらい気持ち、もうしたくないって失恋した時思ったはずなのに…。
それでも、なんか無愛想な彼が気になって、不意に見せる笑顔とか優しさが嬉しくて、気づいた時には颯のこと意識してた…好きになってた。いつのまにか、頭ん中彼のことばっかりになってた。
ナオくんやシンのこと、逃げてばっかりで中途半端な自分が嫌になって、ちゃんと謝って向き合おうと思うことができた。
この想いも、辛くなくなる時がくるのかな。
少し前のことなのに、付き合っていた頃がひどく懐かしく思えた。なくしてしまった『彼女』という場所にはもう戻れない…自分で壊した。