家族愛
☆
「……コ」
「おい、起きろよ」
「おい、よだれたれてんぞ」
眠い…ってここ?あれっ?
「起きたか?」
「シン?」
ぼんやりとした頭の中、私は答える。
シンの部屋だ…私寝てた?もっちゃんはいない…先帰った?
「シン今何時?」
「10時」
10時?って、えぇ!?
「ちょっ、なんで起こしてくんないの?」
私は慌ててコタツの上に置かれた問題集をリュックに無理矢理つめこんだ。
「起こした、何度も。持田も呆れてたぜ」
突然、リュックに入れてたスマホが鳴る。
「もしもし、お母さん?うんうん…ごめん。今?シンとこ、寝ちゃって…迎え?大丈夫うん…うん」
「送る」
電話が切れると、シンは大きな上着をはおる。
「いや、近いし平気だし」
にらまれた。
「仕方なくだよ、1人で帰したらおばさんに怒られんの俺だぞ」
それもそうか…
「ありがと」
☆
うわぁ…外寒すぎ。もう雪降ってもおかしくないよね。幼馴染みと肩を並べて歩く。
「ねぇ、シン…ごめんね」
「何が?」
シンは寒そうに両手に白い息を吹きかけていた。
「うん…さっきシンとケンカしてた時の夢みてたから」
……。
「何言ってんだか」
彼はそう言って笑った。
シンは私のこと考えてくれてた…ちゃんと。
ずいぶん経ってからそのことを知る。
最初は怒り、その後ナオくんのこと思い出すのが嫌で、気まずくて避けてしまった。
傷ついたあの日…
私はほんと自分のことしか考えてなかった。
ナオくんになんで中途半端なことすんのかって怒ってくれたらしい。ナオくんから聞いた。本人何にも言わないけど。
シンはナオくんの私への感情は『恋愛』ではなくて『家族愛』みたいなものだって分かってたんだ。
傷つけたくないから、私に付き合ってくれただけ。
残酷…けど、大事に思ってくれてるからこそだって
これはシンが言った言葉。
「俺さ…最初トコに兄貴に告えっつった時、あん時はマジで応援してた。トコにけしかけたの俺だしさ、けど兄貴は変わんなくてあんな風だし、傷つくの見たくねぇし悪いとは思ってんだよ、これでも」
うん…ありがと。
ナオくんには、ちゃんと私のこと考えろって中途半端な情で付き合うなって…ミホさんにも会えって、自分ではっきりさせろって言ったらしい。
ナオくんはもちろんミホさんを選んだ。
意地をはってただけで、別れてからもお互い両想い…私はなんなんだって話だよ。
「お前さ…兄貴のことすげぇ頑張ったよな」
頑張った?
幼馴染みの言葉に目頭が熱くなった。
ナオくんは何度も私に謝ってくれた。
けど…最初から分かってたことだった…彼女にしてくれて彼は優しかったけど『ほんとの彼女』としては見てなかった…『ごめん』って決定的な言葉くれてた。私が浮かれててそれに気づけなかっただけ。
それでも、あん時は確かに私はナオくんを『恋愛』として好きだった。
「はぁ…危ない泣くとこだった」
「泣けば?」
にやりと笑ってシンが言う。
「泣かないよ」
「可愛くねぇ」
「うっさい」
白さと一緒に笑い声がこぼれた。