彼女の記憶***初めての彼氏④
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なんとなく感じていた不安…それが形となってあらわれるまであっという間だった。
ふわふわだった気持ちは、一気に叩き落とされることとなる。
気持ちが整理できたと思う…颯を好きになって、もうあの時のようなナオくんへの感情はない今でも、思い出すのはやっぱ辛い。
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ナオくんは私がキスして欲しかったこと、気づいてたんだと思う。それに気づいた上での『ごめん』はなんか決定的だ。
顔合わせたくなくて、あれから連絡してない。
何回か連絡きたけど、怖くて出れなかった。
シンやもっちゃんにもこんなこと言えなかった。
1人で浮かれててバカみたい…私。
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そのまま2週間が過ぎた。
スマホのストラップが揺れる度…行き場をなくした想いは重さを増して…私を苦しめるのだった。
やっぱ…ちゃんと話したい。
ナオくんの気持ち…ちゃんと知りたいから。
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「ねぇ、シン今日家行っていい?」
「別にいいけど…なんか久しぶりじゃね?」
「あ…うん、そうだよね…」
「兄貴最近帰り遅せぇから、今日いねぇと思うけど?」
いないのか…。残念なようなほっとしたような。
せっかく勇気出そうって決めたのに…。
「あ…でも、シンに話たいことあるからやっぱ行く」
シンにやっぱり相談してみようと思った。
なんかいいアドバイスくれるかも…。
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コンビニでお菓子とか飲み物を買ってシンの家に向かう。久々にこういうのは楽しい。ほんとは、もっちゃんも誘ったんだけど、彼氏とデートだって…。いいなぁ。
「ねぇ、もっちゃん最近デート多くて寂しいね…いいなぁ」
「そうかぁ?まぁ、人の恋愛ってよく見えっからな」
シンはこんなん言ってる。どうでもいいように振るまってるけど…。
「どっかの誰かさんが、はっきりしないからもっちゃんはさ…分かってんの?」
「うるせぇよ」
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鍵をあけたシンの後に続いて入ろうとしたんだけど…
「あ、待て!!入ってくんな」
押し出される。はぁ!?
「ちょっ、シン押さないでよ」
シンを押して、無理矢理入ろうとした瞬間目に飛び込んできたのはナオくんと女の人の姿。誰?
「なに…してんの?」
ナオくんは、抱きしめてた。女の人は泣いてた。
その人はきれいになってたけど…私の知ってる人だった…ミホさん。
「あ…あぁ、ごめん私邪魔しちゃった、シン…私やっぱ帰るね」
こんな時って涙出ないのか。
びっくりしすぎて…なにがなんだかよく分かんない。頭真っ白。私、普通に言えてたかな。だって、こんなんで傷ついたの知られたくない。
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部屋をノックされた…今誰にも会いたくないのに。
ほっといてくれない…。
「トコ、俺。ちょっと話さねぇ?」
シンなら分かってくれるかな、私の気持ち。
けど…彼から出たのは予想もしてない言葉だった。
「トコ…あのさ、あんなん見てショックなのは分かるけどさ、俺はあれで正直よかったって思ってるよ」
シンは落ち着いた低い口調で話す。
「なに言ってんの?よく意味分かんない」
「俺…少し前、ミホさんに偶然駅で会った。兄貴に何度も連絡してんだけどつながらないって、メールも返ってこないって辛そうだった。」
何言ってんの?ミホさんがナオくんのこと振ったんじゃない。
「進学のことでケンカしたらしくて…けどやっぱ兄貴のこと好きだって。俺…兄貴ともう1回ちゃんと話たいってミホさんからお願いされた。まさか今日家で会ってるとは思わなかったけど」
意味分かんない。なんでシンがそんなことすんの?
私の気持ち知ってるくせに、なんでミホさんの方…。こみあげる感情を抑えることができなかった。
「シン…ひどいよ、私の気持ち知ってるくせに」
「あぁ、悪い。けど…兄貴の気持ちだって…」
「聞きたくない!!」
「聞けって、兄貴と付き合っててもお前が…」
「もう出てってよ、今シンの顔見たくない」
私は怒りを彼にぶつけて、部屋から追い出した。
ただ、悲しかった。シンも私の気持ち分かってくれないって思った。シンなんて大嫌い…バカ。