彼女の記憶***初めての彼氏③
☆
「マジで?よかったじゃん」
シンに報告すると、一緒に喜んでくれた。
やっぱいい奴…。
私は浮かれていた…ふわふわしていた。
だから、ナオくんと私の気持ちに違いがあることに気づかなかった。
☆
「ねぇナオくん…大学って忙しい?」
ナオくんの部屋…彼はペンをくるくる回しながら考え事をしている。
「あ~いや、まだそういんじゃないけど…カリキュラム組むのに迷ってんだ、面白そうなんいっぱいあってさ…」
なんだか楽しそう…けど、かまってもらえなくて正直少しつまんない。私がため息をつくと、彼はくるくる回していた手をとめ、私の方を見る。
「あ…トコごめん、俺ほったらかしにしてた。せっかく来てんのにな…。じゃあさ、今週末どっか遊び行くか、2人で」
「2人で?」
「うん、2人で」
ナオくんとデート、ヤバイ…すごく嬉しいかも…。
「ナオくん…ありがと」
☆
電車に揺られて1時間。
ナオくんは海の近くにある水族館に連れてってくれた。はしゃいで平気なフリしてたけど、内心ドキドキしてた。
「トコ、アイス食べる?」
「あ…あぁ、うん食べる」
「じゃ、買ってくっから、ここいて」
ナオくんって、やっぱ大人だよな。
ミホさんにもこんな感じだったのかな…。
自分で暗くなることを考えてしまい、慌ててそれをかき消す。
帰りにイルカのストラップを買ってくれた。
おそろい…すぐにつけ、こっそり眺めては幸せな気持ちで満たされた。
☆
それからも、お花見、買い物、映画…ナオくんの部屋で過ごしたり、2人で過ごす時間が前より増えていった。
昼休み。この話題ができるもっちゃんとシンに話して聞かせていた。他の友達に好きな人のこと話すのなんて恥ずかしいし、ましてや男子は私のこんな話を聞いたら、正直ひくと思う。
「とーこちゃん、うまくいってんだ、よかったね」
最近もっちゃんにも彼氏ができて、2人で盛り上がっていたら、黙ったまま私たちの会話を聞いていたシンが遮る。
「なぁ、トコ、それってデートか?」
はぁ!?
「まぁ、2人でってのが変わったかも知んねぇけど、やってっこと前とあんま変わんなくね?」
「そんなことないし」
「そうかぁ?まぁ…とりあえず兄貴意識させろよ、じゃなきゃ幼馴染みから変わんねぇよ」
何言ってんだって思った。
シンの言葉の意味を後で知ることになる。
☆
ナオくんの部屋で宿題中…
「ねぇ、これってどの公式使うんだっけ?」
「どれ?」
私の肩越しに問題集をのぞきこむ彼。近い…
頬っぺたくっつきそう…。
「あぁ、これはさ…この公式使って…ってトコ聞いてる?」
……。
こんなにドキドキしてんのは私だけ?
分かんない。
☆
夏祭り…浴衣とか恥ずかしくて着てけなかった。
「あれ?トコ浴衣じゃねぇのな」
「そんなん持ってないし」
我ながら可愛くないと思う。
「じゃ、来年は買ってやっから着てこいよ」
ナオくんのこういうとこずるいと思う。
だって、すごく嬉しい…来年も一緒にお祭り行けるってことだよね。約束だ。
「何にやけてんだよ」
「なんでもない」
☆
近頃ナオくんがぼんやりしてる。
だって、さっきからずっと雑誌のページ変わってない。
「ナオくん、なんか元気なくない?」
「いや、別に元気だよ」
笑顔を見せてくれたけど…やっぱいつもと違う。
「じゃあさ、頭撫でてあげよっか?」
「なんで?ガキじゃねぇんだから」
私の提案に呆れた様子の彼。いつものふざけ合いのはずだった。
「まぁまぁ」
私はふざけて、頭を撫でようとした瞬間腕をつかまれた。勢いでナオくんの胸に飛び込む形となる。
「あ~、悪いトコ…っておい、トコ?」
私の顔…今すごいことになってると思う。
だって…熱すぎる。
「顔痛くねぇか、平気?」
私の頬触ってる。
私はこんなにドキドキしてんのに…ナオくんは、いつもと変わらない口調。
『兄貴意識させろよ、じゃなきゃ幼馴染みから変わんねぇよ』
シンの言葉だ…。
「ねぇ、ナオくん…あのさ…」
私はナオくんをじっと見つめた。伝わるように…
なのに…
彼の手は私の頬から離れ、頭を優しく撫でる。
「トコ、ごめんな…」
それはとても優しくて…残酷な言葉だった。
あんなに頭を撫でられることが嬉しかったはずなのに、今のこの行為はまるでただをこねる子どもを諭すかのようで…恥ずかしさだけが込み上げてきた。