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一応な関係  作者: aotohana
10/24

無愛想な理由***彼の記憶


身体がきしむように痛い

現実へと引き戻される。


どこだ、ここ?

視界には見慣れない白い天井。


がばっと起き上がる。…ってぇ、頭に痛みが走り一瞬揺らぐ。保健室…あぁ…思い出してきた、さすがに午後になったら身体が熱くて朦朧とする意識の中、晴紀に連れてこられたんだっけ。



隣には見覚えのあるハンカチが落ちていた。

あいつか…。


あいつの顔が脳裏に浮かんできて、俺はそれをかき消すように、髪をぐしゃぐしゃにする。


あぁ…くそっ、なにやってんだ俺。






「持田…」


俺は木原の親友を呼び止める。木原とは違って、おっとりしたタイプの奴だ。



「何?」


「これ、木原に返しといて」





颯はあれから1日休んで登校してきた。

声は気まずくて掛けられなかったけど、いつものように友人と笑いあってる姿を見てほっとした。



「ねぇ、とーこちゃん、これ」


もっちゃんから渡されたのは、くまの刺繍があるハンカチ。


私は黙ってそれを受けとる。


「久我くんから頼まれたんだけど…」


「うん、そっか、もっちゃん…ありがとね」


私は精一杯笑って見せた。

強がりだって分かってる…けどそうしてないと…泣きだしてしまいそうだった。





胸が重くて苦しい。

何か吐き出したいけど…どうしたら楽になるのか分からない。


机の上に置かれた真っ白なノート。

宿題するはずだったのに…リュックからでてきた、ハンカチに気持ちを一気に持ってかれてしまった。



もう話すのもダメなのかな。

みんな、別れた場合…学校が同じってどうしてんだろ。


そもそも、付き合ってる彼女に他の男と付き合えとか酷くない?嫌ならはっきり別れようって言われた方がまだましだった。




帰宅すると、一気に甘いにおいが流れてきた。

俺はそのにおいに、嫌悪感を覚える。


「あぁ、おかえり、お前最近遅いな」



靴をぬいでいると、2階から降りてきた奏に声を掛けられた。


「バイト、つかこれキツくね?」


「あ?理沙の香水か?」


理沙って…こないだは詩織とかいう女じゃなかったか?奏の女はころころ変わる。



「奏、女の趣味悪りぃよな」


俺の嫌味にも、堪える様子はなく…


「そうか?みんな美人だけどな、つか兄貴って呼べっつってんだろ」


そう言って4つ上の兄貴は笑った。



***



中学の頃あたりから、家にはいろんな女が出入りしてた。親は共働きで遅せぇし、俺たちは干渉されることなく自由な生活をしていた。

奏のつるんでる奴らはいつもにぎやかだった。


「あれ、弟くん?こんにちは、奏と似てるね」


「こっちおいでよ」


「いや…俺はいいっすよ…」


正直、奏の友達といるのは、居心地が悪かった。


「颯、お前もまざれよ、ピザ食いきれねぇし」





俺はようやく解放され、部屋へ戻ることができ、大きく息を吐き出す。あいつら、酒飲んでうるせぇし。マジで疲れた。


しばらくすると、にぎやかな声や笑い声が消え…静かな時間が訪れた。やっと帰ったのか?


ほっとしたのもつかの間…隣から声が聞こえてくる。女のなんとも言えない声…


あいつ…マジ最悪。

俺は部屋を出て…1階のリビングに避難する。





階段を降りてくる2つの足音…


「颯、俺ちょっと送ってくっから留守番頼むな」


リビングをのぞく奏の隣にいる女は、俺と目があっても気まずい様子もなく、腕を絡めていた。






帰宅すると、にぎやかな声が2階から聞こえてきた。また来てんのかよ…最悪。

2階にのぼると、奏の部屋の扉は開けっ放しだった。そのまま通りすぎようとした俺に、気づいた女が声を掛ける。


「ねぇ、颯くん、まだ女知らないんだって?」


俺は冷ややかな視線をそいつに向けた。


「あぁ…沙織、悪いな。弟無愛想すぎっだろ、いつもこんな調子でさ」





扉を叩くノックの音…


「なんか俺に用っすか?」


その女は俺の問いには答えず、部屋に入ってきた。

腕を絡みつけていた光景が浮かぶ…あぁ、こいつ奏の女か。沙織…とかなんとか…?


「颯くん、モテるでしょ。奏に似てカッコいいもんね」


上目遣いで俺を見る。


「別に、モテないっすよ、つかこれなんなんっすか?」


「んー、なんか私颯くん好きかもって思って」



頭おかしいよなこいつ…マジで。奏の趣味わかんねぇ。顔が近づいてきて、唇が重なる。



「奏と別れたんだ…颯くん、私と付き合わない?」



甘ったるい声…耳元でささやきながら、俺の背中に腕を絡ませる。最悪…うぜぇ。俺が黙ったまま動かないでいることを、緊張してるって勘違いしたんだろう。



女は顔をあげ、熱っぽい瞳で俺を見た。



「気すんだ?俺…あんたみたいな女、タイプじゃねぇからマジ無理」



頬に痛みが走る。

そのまま、女は部屋から出てった。

なにすんだよ、痛てぇし、マジバカ女。





「颯、その顔マジだせぇぞ」


あくびをしながら、のんきに部屋からでてきた奏が言う。


「お前の女マジ最悪」


「沙織?あいつとは付き合ってねぇし。何あいつに誘われたとか?」


笑いながら奏は言う。


……。


「やっとけばよかったのに、もったいねぇ」


そのまま、奏はまたあくびをしながら階段を降りていった。






4つ上の兄貴は…器用にわりとなんでもこなす。勉強やスポーツも結構できる。あんな遊んでる奴がだ。ただ、女関係だけは最悪だった。いつか刺されっと思う。



奏の女関係に口を出すつもりはないが、俺の女に対する偏見ができたのは、ぜってぇ奴のせいだと思う。


あの最悪な女、沙織以外の女もやたらべたべた勝手に触りやがるし…くっつくし。

上目遣いや、甘えた声も…うざく感じた。



さすがに中学には、奏のつるんでる女みたいな奴はいなかったが、それでも特に気になる女もいなかったし、男とつるんでバカやってる方が楽しかった。




高校に入ってすぐ、今まで周りにいなかったタイプの奴から告られた。知らねぇ奴。けど、俺のことすきだっつーし、一目惚れとかなんとか…。



「よく、電車で見かけてて、いいなって思って…で…あの、もしよかったら…付き合ってくれませんか?」



正直…見ためけっこうタイプだった。

長めのゆるくてふわっとした髪、優し気で、控えめな話し方とか…お嬢様っつーか、そんな雰囲気。





すぐ好きになれるって思ってた。

けど…


結局キスしても、抱き締めても、付き合ってんだからってどっか義務的なものになってた。


「颯くんって、よく分かんない。私のこと好き?」


好き?


「ん…あぁ、まぁ…」


好意を持たれんのは悪いきしねぇ。別にこいつのこと、嫌いじゃない。…けど好きと簡単に言える程の気持ちも…ない。




「でね、見た目すごくカッコいいけど、無愛想だし、なんか思ってた感じと違くてね…がっかり…」


……。


女の集団の中…俺に気づき青ざめる女。


「どうして…ここにいるの?」


「いや…ちょっと話あってさ…。でも必要ねぇみてぇだな。」


「あ…颯くん、違うよ今のはね…」


笑って取り繕うこの感じがなんか…



「いや、俺が悪りぃしそれでいいんじゃね?別れよ」


最低とかなんとか、女の集団は騒いでたけど。

なんか…女ってめんどくせぇ。



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