一応初めて
☆
『別に…いいけど』
彼は間違いなくそう言った。
なのに…
☆
怒りの感情でつい、早足になってしまう。
「トコ、お前なんでひとりでいんだよ、あいつは?」
正門を出たところで、シンに声をかけられた。
谷口慎太郎…彼は幼馴染みだ。
「シン…私もうあいつと別れる」
私の言葉に、シンは呆れた表情とため息を1つ。
「お前、それもう聞きあきた。ったく…何回目だ」
だってさ…あいつ、ムカつく。
☆
それは今朝のことだった。
「ねぇ、はやて今日一緒に帰ろ」
下駄箱のとこ、珍しく朝から彼を発見して嬉しくなった。そんな私とは対照的に不機嫌そうな彼の顔。
私に見向きもせず、あくびをしている彼…久我颯と私は一応付き合ってる。
「分かった…放課後な」
彼は私との会話を勝手に終わりにすると、登校してきた友達の輪に入り、行ってしまう。
☆
放課後…待っても颯は来なくて、彼のクラスに行ってみると
「あぁ、あいつ帰ったけど」
で…今に至る。
も~頭にきたし…いつもいつも私ばっかでさ。
「シン…カラオケ付き合って」
私のただならぬ雰囲気に押され
「たくっ、しょうがねぇな」
文句を言いつつ、結局シンは付き合ってくれた。
★
教室前の廊下…。
はぁ…ったくめんどくせぇな。
俺の隣にいる女は酷くブスくれていた。
「ねぇ、昨日約束したじゃん、私」
「だからさ、急にバイトお願いされたんだからしょうがねぇだろ」
……。
「けどさ…メールでそういれてくれればよかったじゃん」
「は!?それはお前が…」
「颯~、ノート貸して」
教室から俺を呼ぶ晴紀の声。
「晴紀、ちょっと待ってろって…」
……。
「もういいよ」
ぷいっとそっぽを向くと、木原は隣のクラスに戻っていった。
★
「ほら、ノート」
俺は友人たちと話に夢中になっている、晴紀の頭にノートを乗せる。
振り向いた晴紀は少々ばつの悪い表情を見せる。
「悪い…俺なんか邪魔した?」
「いや、別に…あいつよく怒っから」
俺は笑って言った。
「東子ちゃん、けっこう気強いよな。お前がOKしたって知った時は、正直びっくりしたわ」
「何が?」
よく意味がわかんねぇ。
「いやだって、あん時お前、3組の志保ちゃんにも告られてたじゃん。志保ちゃんめっちゃ可愛いし…なんで東子ちゃんの方なんかなってさ…」
「なんでって…お前に教えるかよ」
☆
颯の部屋
私はしわくちゃのまま床に落ちている、制服のシャツを拾いまとる。
それはしっかりと折り目がついてしまっていて、私は伸ばすように裾を引っ張った。
★
「なぁ、なんか東子ちゃん…具合悪そうじゃね?」
合同の体育。今日は体育館でバスケをしていた。
晴紀にそう言われて、俺は隣のコートをのぞく。
ボールが飛び交う中…あいつは動かずに立っていた。いつもなら活発に動き回ってるクセに、顔色悪りぃし…。
……。
試合が終わると、あいつは壁にもたれ座り込んでいる。
平気なのか?
「颯~、次俺らの番」
ユニフォームを渡された。
「あぁ」
……。視線を戻そうと思った時…谷口とあいつが笑い合ってんのが見えた。
なんだ…全然平気じゃねぇか。
☆
放課後珍しく颯は私を迎えに来た。
「木原、さっさと帰るぞ」
私はそのことが嬉しくて上機嫌になる。
「あ…シン、もっちゃん…またね」
一緒にいた2人に挨拶すると、私は彼の元へ急ぐ。
隣にいる彼は不機嫌そうだけど。
「めずらしいね、颯が迎えにくるなんてさ」
……。
「お前がいつも自分ばっかりって、うるせぇからな」
めんどくさそうに、ため息まじりに彼はそう言う。
彼の言葉や態度は、私をいつも振り回す。
嬉しくて膨らんだ気持ちは、音をたててしぼんでいくようだった。
☆
正門を出たとこで、彼は
「ちょっと待ってろ」って私を残していなくなる。
彼のそっけない言葉や態度にまた私の心は曇る。
……。
しばらくして、自転車を引っ張って戻ってきた。
「何このチャリどうしたの?」
「晴紀に借りた。駅まで歩くのしんどいだろ」
なんで…しんどいの分かったんだろ。
こんなんずるいよ。
★
駅のホーム
「なぁ、お前が具合悪いの…俺のせいだよな。昨日…」
「何言ってんの?ち…違うし、ちょっと寝不足なだけだよ」
慌てた様子で木原は否定すっけど、絶対そうだよな。なんつーか、やっぱさ…あんなんやめときゃよかった。
ため息が無意識にこぼれた。
★
そう昨日…
俺は木原を抱いた。
***
★
俺の部屋…
「ねぇ、颯はさ…私に何で何にもしないの?」
唐突な木原からの質問に、俺は飲んでいたコーラが気管に入り、思わず咳き込む。
「は!?お前何いきなり言い出すんだよ」
「だってさ…キス…とかもしたことないじゃん、半年も付き合ってんのに…」
ほんと何言い出すんだか。
「いや…つーかさ…お前とそんなんする雰囲気になんねぇだろ」
あ…しまった…と後悔した時には、木原は泣きそうな表情に変わっていた。
「木原…あのさ…俺は…」
!?
木原が俺にしがみつく。
「ちょっ、木原…おい待てって」
……離れようとはしない。
震える腕は俺の制服をつかむ。
「颯…してよ…お願い」
★
あぁ…ったくなぁ…なんなんだか。
俺は木原の唇をふさぐ。
つか…マジでこんなん望んでんのか。
1度外れてしまった箍は…
結局キスしても、木原は離れてはくれなかった。
今まで触れなかった分なのか、何度もキスをした。
そしてそのまま…。
けど…抱いた後で、木原は泣き出すし。
訳わかんねぇし、やっぱこんなんしなきゃよかったって後悔した。流された…俺。