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目はクリクリと大きく頬は朱で  作者: 路傍工芸
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戦闘少女妄想

 ある日天啓を得た。


 ーセーラー服の少女が銃剣道をやってはどうだろうかー

 最近士気が落ちてきた柿揚達兵隊に喝を入れるために中隊長が銃剣道の大会を始めたのだが、その試合の最中のことである。


 満州のどこだかで銃剣道の教官をやっていたという篠原軍曹のてほどきで中隊本部前の広場で練習が行われた。

 銃剣道は新兵教練で一度やったことがあるだけで柿揚は全くのド素人なのだが、それは他の兵隊もほとんどが同じようであった。

 

 ひたすらキェーだのイヤァーだのと奇声を発して木銃を突くだけの退屈な練習で、柿揚は開始10分で早々に飽きてしまい、いつものように妄想の世界に浸るのだった。

 その時、前で柿揚の分隊の面倒をみてくれている原田伍長の出で立ちをみて天啓を得た。


 原田伍長は小兵で顔つきは童顔だが性格は獰猛というアフリカの猛獣みたいな男で、平穏な戦地生活にあって最も警戒を要する職業軍人であった。


 その原田伍長だが、声が少々甲高く、どことなく女を思わせるのだ。

 天啓はそこからの連想だろうか。柿揚は銃剣道セーラー服少女が女学校で必死に練習をする風景をひたすら妄想した。


 左足をバンバンと地面にたたきつけて色々な種類の突きを練習するのだ。

 胴着はセーラー服で、上に銃剣道の防具を着けている。


 顔が隠れては良くないので面はつけない。

 と思ったが、荒々しい銃剣道の練習の後、面を取ると美少女であるのが認められる、という状況も捨てがたいと思った。

 

 いざ試合では篠原軍曹や原田伍長のごとき銃剣道カタワがなめてかかるのを、その隔絶した技量でヒョイヒョイとやっつけるのだ。


 一本、一本!もう一本!


 審判に抗議する軍曹や伍長、だが、審判は顔を振る。

 少女をにらみつけてなおも審判に誤審を訴えるが、中隊長が出てきて「見苦しいぞ!」と一喝する。


 そこで「いいでしょう。ではもう一本」と少女がもう一戦に応じる。


 復讐に燃える篠原軍曹と原田伍長は反則すれすれ、いや、ハッキリと反則とわかる技で銃剣道セーラー服少女に襲いかかる。

 今度は苦戦をするが、最後は誰が見てもハッキリとわかる突きが篠原軍曹と原田伍長の胸にスパーンと決まるのだ。

 

 さすがに敗北を認める二人

 

 うなだれる二人に静かに近寄り


「精進あるのみです。」

と言って颯爽と我々観衆の兵隊達の間をすり抜けて帰って行くのだ。


 ここまで妄想しておいてなんだが銃剣道は一対一だから篠原軍曹と原田伍長が二人がかりで、というのは少々無茶であった。

 でもまあ、その方が面白いからいいのだ。

 だいたい俺は銃剣道のルールなんか全く知らない。


 しかし、少女と言えば薙刀である。

 このたび偶然原田伍長の姿から銃剣道セーラー服少女を連想したのだが、薙刀でもいいわけである。


 薙刀となるとこれまたルールもなにもわからない。

 母が昔やっていたらしく、家に薙刀があったが、覆いをかけて家のどこかにしまわれたままだったので実物を見たことはない。

 

 まてよ、銃剣道や薙刀が、ではなく、戦う少女が美しいのではないか。

 柔よく剛を制す

 姿三四郎のように、背丈の小さな少女が圧倒的な技でヒグマのような下士官を一ひねりするカタルシス、これを俺は求めているのではないか。


「柿揚ー!腕がさがっているぞ!こう突くんだ!」

唐突に柿揚は原田軍曹からきつい一発を喰らい、後ろにもんどりうった。


「ぼんやりするな、この練習の後はもう試合だぞ!」

「はい、すみません!」


 原田伍長の横暴に見えるが、柿揚は確かにぼんやりと練習していたのでこの場合は柿揚がわるい。

 しかし原田伍長から一発もらいはしたが、戦闘少女の構想は得られた。


 薙刀ではなく38式歩兵銃ならどうだろうか。

 それも狙撃兵など映えるのではないか。


 500mの向こうにいるゲリラを一人一人確実に、額を撃ち抜くのだ。

 それも我々の小隊が苦戦し、包囲殲滅されかかるところに現れるのだ。


 小隊長が天は我らを見放したか!などと強気な弱台詞を吐いてやけくその突撃を我々に指示し、我々も自らの最期を認めた、その時!

 額から血を噴いて次々に倒れていくゲリラ!


 しかし我々は一応陸軍の兵士なので、セーラー服というのが海軍的で少々なじまない気もする。

 とするとセーラー服少女は海軍であったほうが都合が良さそうだ。


 ああ、海軍に入っていれば良かった。

 いや、海軍に入っていたら毎日毎日むさ苦しい水兵どものセーラー服姿が目に入り、俺のセーラー服の少女幻想が汚れてしまうだろう。

 いいや、そのくらいで汚れるものか。俺の幻想力はもっと強いはずだ。 


 まあ、このへんで話の筋を戻し・・・いっそ我々の小隊がどうとかではなく、海軍で戦うセーラー服の少女という話の方が良さそうだ。

 しかし俺は軍隊音痴であるから、陸軍に入ってようやく兵器の知識を手に入れたようなものなので、海軍についての知識は軍艦をいくつか言えるくらいのものしかない。


 いや、知識がないというのは逆に武器なのだ。

 なまじ知識があると常識にとらわれて自由な発想が得られない。


 守破離、とはいうが、この場合の「守」は海軍の知識をささないとしよう。ならば一足飛びのように「破」に進み、「離」に突入してもよいのではないか。


 しかし海軍の兵器は個人が単独で扱う物はあんまりなさそうだ。

 では少女だけが乗り組んだ戦艦、空母、巡洋艦というのはどうか。

 艦内の日常生活を描くのであれば面白そうだが、これはいよいよ海軍の知識が必要となってくる。


「これより小隊対抗試合を開始する!」

 柿揚はハッとした。練習も終わり、休憩を経て試合が始まる。


「柿揚、お前先鋒だけどやれるか?」

 4つ上のロートル仲間、柳橋1等兵がそっと話しかけてきた。

「まあ、やり方は一応原田伍長がひととおり説明してくれましたからやってみます。」

「ほんに災難じゃ。休みをくれた方がよほど士気もあがるになあ。」

柳橋1等兵は小声でこぼした。


 海軍の戦闘少女を考えてばかりいた柿揚はもちろん原田伍長の説明などまったく聞いていなかったが、妄想が与える力だろう、なぜか篠原軍曹をヒョイヒョイと片付けられるような気分で先鋒に臨むことができた。

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