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死体、あるいは復讐者

 そして、シマノとカミヤはもう一度廃ビルへと突入する。

 最初に突入した時のように、警戒にあたっていた怪物たちが侵入者に向けて押し寄せてくる。

「倒してもきりがないからな、相手をするのは適当にしておけよ。だが、相手にしたら確実に倒せ」

 言いながら、カミヤは手刀で次々にフライを屠っていく。

 一方のシマノも必死に、一体ずつ確実に、手にした日本刀で斬りつける。

 しかし、ポインターの技術によって向上した身体能力はともかく、戦闘経験などないシマノはなかなかフライを倒しきれずにいた。

 斬り方に迷いもあるし、そもそも、どう斬れば相手を確実に倒せるのかも理解できていないのだ。

 それを思い知って、先ほどの自分がいかに無謀だったのかを痛感する。

 それでも、目の前で最高の手本ともいうべきカミヤの効率的な戦闘ぶりを見ることができたことで、シマノもおのれの戦い方を固め、確立し始めていた。

 特にこれだけ戦ってもほとんど疲労感が無かったため、様々な戦い方を試し、それによって上手く倒せた方法をすぐさま自分のものにすることができたのだ。

 戦いの中で、自分が強くなっているのはシマノ自身も実感している。

 もちろん、カミヤと比べればその差はまだまだ歴然としているが、少なくとも今なら、あの時のように死を覚悟することもなかっただろう。

 そんな風に自分も強くなり、さらにカミヤという最強の助っ人もいることで、シマノの二度目の突入は信じられない程順調に進んでいった。

「さあ、そろそろ、本命のご登場だ……」

 カミヤのその言葉を聞くまでもなく、最上階に上がった時、シマノもフロア全体の気配が変わったのを感じ取った。

 奥に、なにかいる。

 目の前にも例によって数体のテレビ頭がいるのだが、その存在感をかき消すかのような、禍々しい気配を感じる。

「……いいか、無理だと思ったら引き返してもう一度体勢を立て直せよ。死ぬのは論外だ。生き延びることが最優先だぞ」

 一方的にそれだけ言い放ち、カミヤは脇のフライを潰して道を開いていく。

 覚悟を決め、シマノはその横を抜けて、奥の部屋へと踏み込んだ。


「なに、これ……」

 だが一歩踏み入れた瞬間、シマノは思わずそうつぶやいていた。

 そこは憎悪にも似た気配が充満しており、その中央には、外にいたフライたちと同じ、頭がテレビとなった人間が立っていた。

 だが、その頭部のテレビに映るのは砂嵐ではなく、ある一人の人間の顔だ。

「なんで……」

 シマノは、その人物を知っている。

 だが、その人物のそんな表情など見たこともない。

「なんで、お、お兄ちゃんが……?」

 そこに映っていたのは、死んだはずの島野美佳の兄、島野光佳の顔である。

 そのテレビ頭はシマノの反応にもなにも応えず、ただゆっくりと、シマノの存在そのものへの憎悪を滲ませながら歩いてくる。

 兄の憎悪の表情に睨まれるだけで、シマノは動けなくなってしまう。

 本当の兄はいつも優しく、静かで、怒りや憎しみなどほとんども見せたことのない人物だった。

 一度だけ、シマノはそんな怒りに震える兄を見たことがあるが、しかし、それはこんな荒々しく濁った感情ではない。

 そんな怒りに駆られるような時でも、むき出しの憎悪ではなく、静かに、だが鬼気迫るような雰囲気でそれを示していた。

 だからこれは、兄ではない。

 そう思いながらも、シマノは兄の顔を見たこと、なにより兄の顔に憎悪を向けられたことに耐えられず、心が停止してしまいそうになる。

 あんなにもう一度会いたい、せめて顔だけでも見たいと思っていた兄が、こんな形で現れるなんて。

 だが、そんなシマノの感情など無視して、フライは静かに間合いを詰める。

 鋭い、殺意と憎悪の篭った拳による一閃がシマノを襲う。

 とっさに身構えてその一撃を受け止めるが、衝撃を殺しきれず、そのまま壁まで弾き飛ばされる。

 唯一フライに対抗できる武器であるポインターウェポンの刀も遠くへと弾かれ、立ち上がることもできず、シマノは無防備なまま怪物と対峙する。

 怪物の顔であるテレビの向こう側から、兄が、まるで悪魔でも見るような眼で自分を睨みつけている。

 そのことがなによりシマノには辛かった。

 崩れ落ち、座り込んだままのシマノに怪物の蹴りが飛ぶ。

 なんとか身構えて腕でガードしようとするが、その衝撃で腕はすぐにこじ開けられてしまう。

 構えの崩れた隙間に、固い長靴の鋭いつま先が蹴りこまれる。

 一撃、また一撃。

 ポインターの身体のためか、シマノ自身が予想していたよりも痛みは少ないが、その分、着実に自分の身体が削られている実感がある。

 赤い塵が飛び、すぐに埋め合わされる。

 その間隔は徐々に大きくなっていて、自分の身体に蓄積する衝撃を実感する。

 死ぬのか。

 そんなことがぼんやりとシマノの脳裏に浮かぶ。

 生き延びろというカミヤの言葉が脳内に響くが、それを兄の憎悪に殺されるという感情が塗りつぶす。

 兄に殺されるのなら、仕方ない。

 そんな諦めがよぎった時、シマノは自分の前にある異常に気が付いた。

 兄の、憎悪?

 シマノの記憶がさらに混濁する。

 兄は自分を憎悪していたのか?

 兄の最期を思い出す。

 目があったこと。

 兄の表情が絶望に染まり、悲しそうな視線を向けたこと。

 そして、そこでシマノ自身が感じたこと。

 そうだ。

 自分は、兄を殺したあの男を見つけるため、ポインターの道を選んだのだ。

 あの時の感情が再び心に火を灯し、シマノの中にこそ憎悪が宿り回り始める。

 そうなると、もう、迷う理由はなくなった。

 怪物の顔の中に映る兄は変わらず憎悪をシマノに向けていたが、今のシマノには、それが作り物めいて見える。

 もし兄が本当に自分を憎悪しているというのなら、その理由は、自分があの男を倒すことができなかったからだ。

 それならば、自分はこんなところで死ぬ訳にはいかない。

 もう一度、あの男に会い、そして倒す。

 たとえ兄が自分を憎んでいたとしても、自分にすべきことはただそれだけだ。

 思考が加速する。

 どうすれば目の前の怪物を倒せるか。

 反撃を考え、弾き飛ばされた刀に視線を向ける。

 ダメだ、届かない。

 無理なのか。

 だが、今のシマノの中に、諦めるという選択肢は一切ない。

 武器が手元にないなら、道を切り開くための新たな武器を手に入れればいい。

 作ればいい。

 武器とは、なにか。

 自分が意識するよりも先に、それがどういうことなのかを感じ取っているた。

 その一方で、シマノ自身の感情はもはや爆発寸前に滾っている。

 兄を騙った敵を倒す。

 生き延びて、兄と自分を殺した相手を倒す。

 そのために、今はただ生き延びねばならない。

 そうだ、生き延びろ! 生き延びろ! 生き延びろ!

 心の中でそう念じ、祈り、叫んだとき、シマノは自分の腕になにか固い感覚が生まれるのを感じていた。

 感情と、意志の外で働いていた力が混ぜ合わされ、形となって腕を覆う。

 そこにあったのは、ゲートの青白い膜のような輝きを持つ小手だ。

 だが、その見た目に反して、重さはまったくない。

 ただ強い存在感だけがある。

 それは、生き延びろというあの言葉を、そのまま形にしたかのようであった。

「私は、生き延びる!」

 再び襲いかかってきた怪物に対し、シマノは瞬時に判断して、目の前に来た脚を小手に覆われた腕で薙払う。

 今度は、弾き飛ばされたのは怪物の方だった。

 振り抜いてみて、シマノは、自分の腕を覆う小手の異常さを実感する。

 この小手はただ一撃の重さではなく、その密度が敵を打つのだ。

 おそらく、この輝く小手にはそれだけの力が篭っているのだろう。

 自分のあの日本刀と同じ、ポインターウエポンの特性そのものだ。

 腕だけでなく、拳にも力が伝わる。

 見よう見まねで手刀を打ち込むと、指先が避けそこなった怪物の腕を刃が捉え、まるで、ナイフを当てた紙のように音もなくそれを斬り裂いた。

 腕だった部分が音もなく滑り落ちる。

 怪物の右腕の断面から赤い塵が噴出する。

「チラリリリリリルルルルレレララ!」

 悲鳴にも聞こえるような不快な音を発し、顔のテレビが一瞬砂嵐になったかと思うと、すぐさまそこに別の顔が浮かぶ。

「こいつは……」

 その顔もシマノは知っている。

 忘れるはずもない。

 それこそが、兄を殺し、自分を殺した張本人のあの男だ。

 自分は、この男ともう一度対峙するためにポインターになったのだ。

 画面の中のその男は、不快な笑みが張り付いたまま表情が変わらない。

 なぜ、この怪物は、兄を、そしてこの男を映し出したのか。

「なんで、そんな顔を映すのよ!」

 叫ぶが、怪物はなにも応えない。

 叫び自体には反応も示さない。

 怪物にあるのは、ただ目の前の敵を処理しようという、それだけの動きだ。

「答えろ! 答えてよ!」

 シマノの声にも、怪物の画面の中のあの男は笑みを貼りつかせたままだ。

 シマノを、目の前の敵を狙い、腕をしならせて、その拳で標的を狙う。

 だが今のシマノには、その一挙一動が手に取るようにわかる。

 振り下ろされる一撃を左手で払いのけ、その顔を睨みつける。

 画面の中のあの男と目が合う。

「私は、お前を倒してみせる……!」

 その画面の中は別人で、自分の声など伝わらないことを知りながら、それでも、シマノは力強くそう宣告した。

 そして同時に、空いた隙だらけの胴体に右拳を叩き込んだ。

 その一撃を受け、怪物が吹き飛ぶ。

 だが浅い。

 まだ致命傷ではない。

 しかしそれも織り込み済みだ。

 怪物を追いかけるようにシマノは駆け出し、まず自分のポインターウエポンである刀を拾いあげる。

 そしてその勢いのまま間合いを詰め、怪物が立ち上がろうとする隙を逃さずに袈裟懸けに刀を振り下ろした。

 決着は一瞬だった。

 怪物の左肩から反対の脇腹にかけて、白い線が走る。

 一瞬の静寂。

 そして次の瞬間、線から赤い粒子が迸り、怪物の身体はゆっくり崩れ落ちた。

 シマノは、怪物の身体が崩れ落ちる瞬間も、じっとその怪物のテレビ頭の画面の奥を見つめている。

 ノイズまみれになりながらも、そこには、最期まであの男の顔が映り続けている。

「……笑ったっ!?」

 その、赤い塵と消えていく最期の一瞬、シマノの目には、怪物の顔の中の男の口元が歪んだように見えた。

 その瞬間、シマノの中でなにかが爆発した。

 赤い塵の残骸に向かい、手に持った刀を振るう。

 無言のまま、そこにあった顔を思い出しながら斬りつける。

 空を切る。

 それも気にせず、さらに何度も何度も刀を振るう。

 空を切る。

 空を切る。

 やがてその赤い塵も完全に消え失せ、シマノの腕からあの白い小手も消えてしまったが、シマノはまだその手を休めることはない。

 空を切る。

 空を切る。

 空を切る。

 手に残る刀だけで、何度も何度も空を切り続ける。

 だがそれも、突然の出来事で終わりを迎えた。

 迫る殺気を感じ取り、シマノは身体を倒して、転がるように回避行動を取る。

 目の前の、先ほどまで自分の首があった場所を、槍の切っ先が疾走っていく。

「へえ、察しがいいじゃないか、新人ちゃんよ」

 そんな声とともに部屋の奥から現れたのは、派手な設えのスーツに身を包んだ軽薄そうな男だった。

 その顔はいかにも平凡そうに見えたが、ただ目だけはシマノに対する侮蔑と殺意で満たされており、姿こそ人間でありながらも、いや、なまじ人間の姿であるからこそ、先程までのテレビ頭の比ではない恐ろしさを感じさせるものであった。

 シマノはこれまでの人生で、他人から殺意を向けられたことなどなかった。

 両親が死に、兄と二人親戚の家をたらい回しにされた時、さんざん疎まれはしたが、明確に自分を殺そうというほどの意志を感じたことはない。

 だが、目の前の男は違う。

 この男は自分を殺すためにここにいるのだ。

「怖いか? 俺が怖いか?」

 そんなシマノの恐怖を感じ取ってか、男は挑発するかのようにそう言って槍を突き付けてくる。

 切っ先が、明確な殺意のように冷たく光る。

 鋭い感情の刃がこれほど恐怖を突き刺してくるとは、想像したこともない。

「……あなた、何者なの……」

 シマノが尋ねることができたのは、ただのそのひとことだけだった。

「そうだな、まあ、死ぬ前に自分を殺す相手の名前くらいは知っておく権利くらいはああるかもなあ。俺はオカギシ。お前と同じ、ポインターだよ。まあ、俺とお前じゃ、経験が違いすぎるがな」

 勝ち誇ったかのように、オカギシと名乗った男は口端を吊り上げる。

 絶対的な力の差を認識して、既に勝利に酔っているかのようだ。

「……なぜ、ポインターが同じポインターと戦うのよ……」

「簡単だ、そのほうが効率がいいからだよ」

 事も無げにそう言って、オカギシは声を上げて笑ってみせる。

「ある裏技を教えてもらってな、俺はポインターからもポイントを稼げるようになったのさ。あんな化け物どもを相手にして死ぬような目に合うよりも、お前みたいな素人同然の甘ちゃんからポイントを巻き上げたほうがオイシイってわけだ。まったく、いいことを教えてもらったぜ」

 笑い続けるオカギシの目は、もはや正気のものではない。

 先ほどの口ぶりからしても、この男は既に何人かのポインターを手にかけているのだろう。

 歯止めの利かなくなった狂人ほど手の付けられないものはない。

「お前みたいな小娘は殺す前に別の愉しみにあやかりたいとも思うが、余計なことはするなという約束だからな。まあせいぜい、いい悲鳴を上げて俺を愉しませてくれよ!」

 そう言いながら、オカギシは槍を構え直して勢い良く突きを繰り出してくる。

 速さはない。

 重さもない。

 だが着実だ。

 シマノは必死にその一撃を刀で凌ぐが、オカギシの攻撃は留まることはない。

 次から次へと槍が繰り出され、シマノを追い詰めていく。

 身体を躱してなんとか致命傷だけは免れているものの、その手数の多さとぶつけられた殺意に気圧され、シマノは徐々に追い詰められていく。

「ほほう、なかなか頑張るじゃねーか。だがそれもいつまで持つかな?」

 オカギシの方は余裕綽々といった表情で追い詰めた獲物を見ている。

 だが、次の一瞬でその表情は驚愕へと変わった

「いや、もう終わりだ」

 そんな声とともに、部屋のドアが蹴破られる。

 そしてそれと同時に、何者かが弾丸のようにオカギシへと突進してきた。

「き、貴様は……」

 オカギシは必死に槍を向ける。

 しかしその突然の乱入者、カミヤはあっさりと左腕だけでそれを押しのけ、一気にその懐へと飛び込んでいく。

 オカギシの反応がまったくカミヤに対応できていないのがシマノにもわかる。

 既に完全にカミヤの間合いだ。

 そう思った次の瞬間には、鋭いパンチがオカギシの腹部へと突き刺さる。

 必死にオカギシも応戦しようとするが、間合いを離して体勢を整えるのが精一杯で、その間にも、カミヤはオカギシへと数発攻撃を叩き込んでいる。

 向かい合う二人。

 だがその姿はあまりにも対照的だ。

 精神的にも肉体的にも追い詰められつつあるオカギシと、傷一つなく威圧的にそこに立つカミヤ。

「な、なぜ貴様が、ビギニング・セブンのカミヤがこんなところにいるんだ! こんなイージーミッションにいるなど……こんなこと、聞いていないぞ!」

「待っていたんだよ、お前をな」

 慌てふためくオカギシに対し、カミヤはただ静かにそう答える。

 その様子を見るだけで、シマノにもこの二人の実力差が、というよりはカミヤの強さがあらためて理解できた。

「安心しろ、お前を殺すつもりはない。が、覚悟は決めてもらうぞ。お前には色々と聞きたいことがあるんでな、ニュービーイーター。だが……」

 カミヤの余裕の表情が、一瞬、激しい敵意に染まる。

「一つだけ訂正しろ。ビギニング・セブンではなく、ビギニング、イレブンだ!」

 吐き捨てるようにそう叫び、胴と肘を軸にして弧を描くカミヤの拳がオカギシの胸を打ちつけた。

 弾き飛ばされ、壁へと叩きつけられるオカギシ。

「くそっ、ようやく手に入れたポイントなんだ、このまま終わってたまるか!」

 そう言って、オカギシは窓へと駆けて行き、そこから飛び降りようとする。

「逃がすか!」

 それを追って、カミヤもその窓へと走る。

 オカギシが跳び、間髪入れずカミヤもその窓から飛び出していく。

 シマノも窓へと駆け寄るが、いまさら彼らのあとを追う理由は見つけられず、廃墟を駆けていく二人のポインターの影を見下ろしていた。

「これで、終わったのかな……」

 フライも、他のポインターもいなくなった荒れた部屋の中、シマノはただ、ぼんやりと立ち尽くしていた。

 なんにせよ、これでシマノのファーストミッションは終わったのである。




 シマノの門津市における拠点である宿舎は、他の一般的なポインターたちと異なり、ポータル社の研究施設の中にあった。

 基本的にポインターはポータル社が用意したマンション等に住んでおり、一部のポインターは自前で門津市内に持ち家を建てたりしているのだが、シマノはあくまでポータル社の観察保護下にあるため、こうして監視下に置かれているのである。

 もっとも、プライバシーはともかく、衣食住から日用品まで必要な物はあらかたポータル社によって揃えられていたため、ここでの生活で困ったことなどなかった。

 元々趣味もなく、物も持たない性質だ。

 殺風景に見える部屋も、この街に来る前の部屋とさして変わらない。

 そこそこ質の良いベッドに横になりながら、シマノは今日の出来事を振り返ってみる。

 フライとの死闘。

 助けに来たポインター、カミヤ。

 兄の顔とあの男の顔を映したテレビ頭のフライ。

 自分を襲うポインターのオカギシと、オカギシと戦うカミヤ。

 最初の任務からわからないことばかりだ。

 明日、自分の状態をチェックしている研究者の千谷に、なんと報告したらいいだろうか。

 そんなことを考えながら、横になったままぼんやりとテレビをつける。

 門津市は一応通常の放送局も受信しているが、元々そんなにテレビなど見ていなかったシマノである。

 目的は、ポインター向けの各種情報を流し続けるチャンネルがあると聞いたので、それをつけてみたのだ。

 するとそこには、意外な情報が流れていた。

『ビギニング・セブンのポインター、カミヤ、ポインター殺しの容疑で逃走中』

 事務的で無機質な字幕とともに、今日、シマノの前に現れたあのカミヤの顔写真が映し出されている。

「……これって、どういうこと……?」

 殺されそうになったのは自分であり、殺そうとしたのはカミヤではなくオカギシという男だったはずだ。

 それにカミヤはオカギシを「殺すつもりはない」と言っていた。

 果たして、自分の知らないところでなにが起こったというのか。

 だが字幕では、誰が殺されたのかの情報は流れない。

 当事者の一人として、真実を知る必要がある。

 もし濡れ衣ならば、今度は自分がカミヤを助ける番だ。

 シマノは、もう一度カミヤに会わなければならないと考えていた。

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